[1994年文献] 都市部の男性勤務者で,HDL-Cは冠動脈疾患リスクと逆相関
わが国において,HDL-Cと冠動脈疾患の関連を検討した初めてのコホート研究。総コレステロールレベルの低い集団におけるHDL-Cと冠動脈疾患発症率との関連について検討するため,都市部の日本人男性勤務者を対象とした約8年間の前向き追跡研究を行った。その結果,HDL-Cは冠動脈疾患リスクと負の関連を示した。
Kitamura A, et al. High-density lipoprotein cholesterol and premature coronary heart disease in urban Japanese men. Circulation. 1994; 89: 2533-9.
- コホート
- 1979~1986年にかけて循環器リスク健診を受診した40~59歳の男性勤務者6624人(13事業所)のうち,HDL-C値が得られた6408人を平均7.7年間追跡。
- 結 果
- 冠動脈疾患(CHD)の発症は46人。うち21人が心筋梗塞(確診),11人が心筋梗塞疑い,14人が狭心症だった。
脳卒中の発症は33人。うち7人が脳出血,20人が脳梗塞,6人がその他の病型だった。
◇ 対象背景
・ HDL-C
ベースライン時のHDL-C値は,心血管疾患(CHD・脳卒中)非発症者で56.4 mg/dLだった。CHD発症者では47.1 mg/dLと,心血管疾患非発症者より有意に低かった(P<0.0001)が,脳卒中発症者では53.7 mg/dLで,心血管疾患非発症者との有意差はみられなかった(P=0.25)。
・ その他
CHD発症者で,心血管疾患非発症者に比べて有意に高い値を示していたのは,総コレステロール(P<0.001),収縮期血圧(P=0.02),BMI(P=0.002),1日の喫煙本数(P=0.002)。
脳卒中発症者で,心血管疾患非発症者に比べて有意に高い値を示していたのは,収縮期血圧(P<0.001),拡張期血圧(P=0.005),喫煙本数(P=0.004)。
◇ 総コレステロールと心血管疾患発症リスク
総コレステロールにより全体を四分位に分けて検討した。
・ CHD
総コレステロールはCHDリスク,および心筋梗塞(確診)リスクとの有意な関連を示した(それぞれP=0.001,P=0.04,多変量調整)。
総コレステロールがもっとも高い四分位(≧218 mg/dL)におけるCHDの相対危険度は4.89(95 %信頼区間1.84-12.9),心筋梗塞(確診)は5.14(1.12-23.6)。
・ 脳卒中
総コレステロールと脳卒中発症リスクとの関連はみとめられなかった(P=0.78)。
◇ HDL-Cと心血管疾患発症リスク
HDL-Cにより全体を四分位に分けて検討した。
・ CHD
HDL-CはCHDリスクとの有意な負の関連を示した(P=0.01,多変量調整)が,心筋梗塞(確診)との関連はみられなかった(P=0.14)。ただし空腹時の検体が得られた4009人のみについて解析を行うと,HDL-CはCHDリスクおよび心筋梗塞(確診)リスクとの有意な負の関連を示した(それぞれP=0.003,P=0.04,多変量調整)。
HDL-Cがもっとも低い四分位(<48 mg/dL)におけるCHDの相対危険度は4.17(95 %信頼区間1.37-12.7),心筋梗塞(確診)では3.39(0.68-16.8)。
また,総コレステロールが高い人(220 mg/dL以上)と低い人(220 mg/dL未満)のそれぞれについて検討したところ,いずれの集団においてもHDL-Cと冠動脈疾患リスクとの有意な負の関連がみとめられた。
・ 脳卒中
HDL-Cと脳卒中発症リスクとの有意な関連はみとめられなかった(P=0.60)。
◇ 結論
わが国において,HDL-Cと冠動脈疾患の関連を検討した初めてのコホート研究。総コレステロールレベルの低い集団におけるHDL-Cと冠動脈疾患発症率との関連について検討するため,都市部の日本人男性勤務者を対象とした約8年間の前向き追跡研究を行った。その結果,HDL-Cは冠動脈疾患リスクと負の関連を示した。