[2002年文献] 1963~1994年にかけ,都市部の男性勤務者の冠動脈疾患は増加
都市部における冠動脈疾患および脳卒中の発症率の長期的な変化について検討するため,大阪の8つの事業所に勤務する男性を対象とした32年間の系統的な企業健診を通じて調査した。その結果,1963~1994年のあいだに冠動脈疾患発症率が増加していること,また,この期間に総コレステロールやBMIも増加していることが示された。まだ欧米のレベルには達していないものの,このまま総コレステロールやBMIが増加し続けると,冠動脈疾患もさらに増加する可能性がある。
Kitamura A, et al. Trends in the incidence of coronary heart disease and stroke and the prevalence of cardiovascular risk factors among Japanese men from 1963 to 1994. Am J Med. 2002; 112: 104-9.
- コホート
- 1963~1970年,1971~1978年,1979~1986年,1987~1994年の各期間において循環器リスク健診を受診した40~59歳の男性勤務者(8事業所)を,それぞれ8年間追跡。
高血圧の定義は,収縮期血圧140 mmHg以上,拡張期血圧90 mmHg以上,または降圧薬服用とした。 - 結 果
- ◇ 冠動脈疾患(CHD)発症率の長期的変化
CHDの発症率は,1963~1970年から1979~1986年まで増加し,1987~1994年には増加が止まった(P for trend=0.002)。この増加は,おもに心筋梗塞の増加(P for trend=0.001)によるものだった。
観察期間ごとの年齢調整CHD発症率(95 %信頼区間)は以下のとおり。
1963~1970年: 0.4 (0.2-0.7)
1971~1978年: 1.2 (0.8-1.7,P<0.01 vs. 1963~1970年)
1979~1986年: 1.5 (1.1-1.9,P<0.001 vs. 1963~1970年)
1987~1994年: 1.5 (1.1-1.8,P<0.001 vs. 1963~1970年)
CHDの増加は,年齢層(40~51歳,52歳以上),および職種(ホワイトカラー,ブルーカラー)をとわずにみとめられた。
◇ 脳卒中発症率の長期的変化
脳卒中の発症率は,1963~1970年から1971~1978年にかけてやや増加し,その後は減少していた(P for trend=0.02)。
◇ 心血管危険因子の長期的変化
1966~1967年,1975~1976年,1982~1983年,1990~1991年の4つの期間における心血管危険因子の変化について検討した結果は以下のとおり。
・ 収縮期血圧: 1966~1967年から1982~1983年にかけて増加したが,その後低下した。
・ 拡張期血圧: 1966~1967年から1975~1976年にかけて増加し,1982~1983年から1990~1991年にかけて低下した。
・ 高血圧の割合: 1966~1967年から1975~1976年にかけて増加し,1982~1983年から1990~1991年にかけて低下した。
・ 降圧薬服用率: 経時的な変化はみられなかった。
・ BMI: 経時的に増加した。
・ 総コレステロール: 1966~1967年から1982~1983年にかけて増加し,その後の変化はみられず。
・ 喫煙率: 経時的に低下した。
・ 飲酒率: 軽度~中程度の飲酒の割合は経時的に増加した。
◇ 結論
都市部における冠動脈疾患および脳卒中の発症率の長期的な変化について検討するため,大阪の8つの事業所に勤務する男性を対象とした32年間の系統的な企業健診を通じて調査した。その結果,1963~1994年のあいだに冠動脈疾患発症率が増加していること,また,この期間に総コレステロールやBMIも増加していることが示された。まだ欧米のレベルには達していないものの,このまま総コレステロールやBMIが増加し続けると,冠動脈疾患もさらに増加する可能性がある。