[1987年文献] 1960~1980年代にかけ,都市部の男性勤務者で冠動脈疾患が増加傾向
日本人において,脳卒中が減少している一方で冠動脈疾患(CHD)は増加している可能性がある。CHDが増加しているとすれば農村部よりも都市部のほうが顕著だと予測されるため,大阪の男性勤務者および秋田の一般住民を対象に,1960~1980年代にかけてCHDの長期的な発症傾向と危険因子の比較を行った。その結果,地方および都市部の一般住民ではCHD発症率は低いレベルを保っていたが,都市部の男性勤務者では増加傾向がみとめられた。
Konishi M, et al. The trend of coronary heart disease and its risk factors based on epidemiological investigations. Jpn Circ J. 1987; 51: 319-24.
- コホート
- [1] 長期的な発症傾向の調査
(1) 1965~1968年,(2) 1975~1979年,(3) 1980~1984年の3つの期間において,大阪の事務職男性,および大阪の工場勤務男性の心血管疾患発症率を調査。また,(1) 1964~1969年,(2) 1975~1979年,(3) 1980~1983年の3つの期間において,大阪の一般住民男性,および秋田の一般住民男性の集団における心血管疾患発症率を調査。年齢はいずれも40~59歳。
[2] 冠動脈疾患(CHD)の危険因子の調査
[1] の調査を行った4つの集団のうち,秋田の一般住民男性(40~59歳,60歳以上),および大阪の事務職男性(40~59歳)について,脳卒中・CHD既往のない人(それぞれ9044人,1193人)を1975年1月1日から1984年12月31日まで追跡し,CHD発症者と非発症者で各危険因子の値を比較。
さらに,大阪の35~54歳の勤務者男性10633人を1975年1月1日から1984年12月31日まで追跡し,各危険因子の保有状況によるCHD発症率を比較。
高血圧の定義は,収縮期血圧160 mmHg以上,拡張期血圧95 mmHg以上,または降圧薬服用とした。 - 結 果
- [1] 長期的な発症傾向の調査
CHDの発症率は,秋田および大阪の一般住民では低く,変化もみられなかった。
一方,大阪の事業所勤務者および工場勤務者では,有意ではないもののCHDの増加傾向がみられた。
各期間((1)~(3))における冠動脈疾患(CHD)の発症率(1000人・年あたり)は以下のとおり。
大阪・事務職 (1) 0.87,(2) 0.89,(3) 1.53
大阪・工場勤務者 (1) 0.36,(2) 0.60,(3) 0.76
大阪・一般住民 (1) 0.2,(2) 1.3,(3) 0.5
秋田・一般住民 (1) 0,(2) 0.53,(3) 0.40
また,秋田および大阪の一般住民ならびに大阪の工場勤務者では,脳卒中発症率のほうがCHD発症率よりも高かった。
一方,大阪の事務所勤務者では,脳卒中よりもCHD発症率のほうが高くなり始めていた。
各期間((1)~(3))におけるCHD/脳卒中発症率比は以下のとおり。
大阪・事務職 (1) 0.63,(2) 1.33,(3) 2.40
大阪・工場勤務者 (1) 0.25,(2) 0.58,(3) 1.00
大阪・一般住民 (1) 0.20,(2) 0.86,(3) 0.31
秋田・一般住民 (1) 0,(2) 0.12,(3) 0.09
[2] 冠動脈疾患の危険因子の調査
・ 大阪の勤務者(40~59歳の9044人)
追跡期間中にCHDを発症したのは52人。うち心筋梗塞が23人,労作時狭心症が29人。
CHD発症者で非発症者よりも有意に高い値を示していたのは,収縮期血圧,拡張期血圧,総コレステロール。
・ 秋田の一般住民(40~59歳の1193人)
追跡期間中にCHDを発症したのは7人。
CHD発症者で非発症者よりも有意に高い値を示していたのは収縮期血圧。拡張期血圧および総コレステロールでは有意差なし。
・ 大阪の勤務者(35~54歳の10633人)
CHDの発症率増加と有意に関連していたのは以下の因子(いずれもP<0.01)。
高血圧: 相対危険度3.50 (vs. 高血圧をもたない人)
収縮期血圧160 mmHg以上: 6.56 (vs. 140 mmHg未満)
拡張期血圧100 mmHg以上: 3.34 (vs. 90 mmHg未満)
総コレステロール230 mg/dL以上: 2.60 (vs. 230 mg/dL未満)
喫煙本数20本以上: 4.62 (vs. 非喫煙)
なお,1日の飲酒量が360 cc未満の人,および360~539 ccの人では,非飲酒者に対する有意なリスク低下がみとめられた(相対危険度はそれぞれ0.58,0.32で,いずれもP<0.01)。
◇ 結論
日本人において,脳卒中が減少している一方で冠動脈疾患(CHD)は増加している可能性がある。CHDが増加しているとすれば農村部よりも都市部のほうが顕著だと予測されるため,大阪の男性勤務者および秋田の一般住民を対象に,1960~1980年代にかけてCHDの長期的な発症傾向と危険因子の比較を行った。その結果,地方および都市部の一般住民ではCHD発症率は低いレベルを保っていたが,都市部の男性勤務者では増加傾向がみとめられた。