[2015年文献] 全HDL粒子濃度は,HDL-Cとは独立して頸動脈硬化と関連する
無作為に抽出された日本人一般住民男性を対象としたコホート研究の断面解析により,HDL-C,ならびに全HDL粒子濃度と潜在性動脈硬化との関連を検討した。その結果,HDL-Cを含む多変量調整後も,全HDL粒子濃度は頸動脈IMTおよび頸動脈プラークの数と有意な負の関連を示した。一方,HDL-Cは,全HDL粒子濃度を含む多変量調整を行うと,頸動脈IMT,頸動脈プラーク数のいずれとも関連していなかった。以上のように,欧米にくらべて冠動脈疾患リスクが低く,HDL-C値が高めの日本人一般住民において,全HDL粒子濃度が潜在性動脈硬化の重要な予測因子となる可能性が示唆された。
Zaid M, et al.; SESSA Research group. High-density lipoprotein particle concentration and subclinical atherosclerosis of the carotid arteries in Japanese men. Atherosclerosis. 2015; 239: 444-50.
- コホート
- 滋賀動脈硬化疫学研究(Shiga Epidemiological Study of Subclinical Atherosclerosis: SESSA)。
滋賀県草津市在住の一般地域住民男性から年齢層ごとに無作為抽出され,研究への参加に同意した40~79歳の男性1094人のうち,脂質低下薬を服用していた168人,およびHDL-C・全HDL粒子(total HDL particle)*・脂質低下薬服用状況のデータに不備のあった56人を除いた870人(断面解析)。
*高比重リポ蛋白(HDL)はリポ蛋白の1つで,末梢組織から遊離コレステロールを除去する作用をもつ。近年,欧米の研究から,HDL-Cとは独立して,全HDL粒子の濃度が心血管疾患リスクと負に関連することが指摘されている。
頸動脈超音波検査により,左右の頸動脈における総頸動脈(CCA,近位と遠位の両方),総頸動脈球部(bulb),内頸動脈(ICA)の頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)をそれぞれ測定し,これらの平均値を「頸動脈IMT」とした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
年齢63.3歳,頸動脈IMT 834 μm,プラーク数2.4,1つ以上のプラークをもつ割合75.4%。
全HDL粒子濃度の四分位(13.9~29.8/29.9~33.4/33.5~37.8/37.9~68.9 μmol/L)ごとに比較すると,全HDL粒子濃度が高いほど年齢,BMI,および糖尿病の割合が有意に低く,アルコール摂取量は有意に多かった。
HDL-Cの四分位(26~46/47~56/57~69/70~150 mg/dL)ごとに比較すると,HDL-Cが高いほど,BMI,高血圧の割合,糖尿病の割合,および喫煙率が有意に低かった。
HDL-Cと全HDL粒子には有意な相関関係がみとめられた。
全HDL粒子濃度,HDL-CはともにLDL-Cと有意な負の関連を示したが,トリグリセリドについては,全HDL粒子濃度と有意な正の関連,HDL-Cとは有意な負の関連がみられた。
◇ 全HDL粒子と頸動脈硬化
多変量調整後も†,全HDL粒子濃度が高い四分位ほど,頸動脈IMTが小さく,プラーク数が少ないという,有意な負の関連がみとめられた(P<0.05)。
(†年齢,収縮期血圧,降圧薬服用,喫煙,アルコール摂取量,糖尿病,LDL-C,およびHDL-Cで調整)
全HDL粒子濃度を連続変数とした解析(多変量調整†)を行うと,全HDL粒子濃度が1 SD増加するごとに頸動脈IMTが22.8 μm(95%信頼区間7.7-37.9)低下し,プラーク数は10.4%(1.1-19.7%)減少するという,いずれも有意な負の関連がみとめられた(それぞれP=0.003,P=0.029)。
◇ HDL-Cと頸動脈硬化
HDL-Cが高い四分位ほど頸動脈IMTが有意に小さかったが(P<0.05),多変量調整‡を行うと有意な関連は消失した(P=0.886)。HDL-Cとプラーク数との関連はみとめられなかった。
(‡年齢,収縮期血圧,降圧薬服用,喫煙,アルコール摂取量,糖尿病,LDL-C,および全HDL粒子濃度で調整)
HDL-Cを連続変数とした解析(多変量調整‡)を行った結果,頸動脈IMTおよびプラーク数との有意な関連はみとめられなかった。
◇ 結論
無作為に抽出された日本人一般住民男性を対象としたコホート研究の断面解析により,HDL-C,ならびに全HDL粒子濃度と潜在性動脈硬化との関連を検討した。その結果,HDL-Cを含む多変量調整後も,全HDL粒子濃度は頸動脈IMTおよび頸動脈プラークの数と有意な負の関連を示した。一方,HDL-Cは,全HDL粒子濃度を含む多変量調整を行うと,頸動脈IMT,頸動脈プラーク数のいずれとも関連していなかった。以上のように,欧米にくらべて冠動脈疾患リスクが低く,HDL-C値が高めの日本人一般住民において,全HDL粒子濃度が潜在性動脈硬化の重要な予測因子となる可能性が示唆された。