[2014年文献] 潜在性冠動脈硬化は白人男性のほうが進展しているものの,若年になるほど日本人男性との差は縮まる(MESA+SESSA)
Fujiyoshi A, et al.; SESSA Research Group MESA Research Group. Cross-sectional comparison of coronary artery calcium scores between Caucasian men in the United States and Japanese men in Japan: the multi-ethnic study of atherosclerosis and the Shiga epidemiological study of subclinical atherosclerosis. Am J Epidemiol. 2014; 180: 590-8.
- 目的
- わが国は,先進国のなかでも冠動脈疾患(CHD)死亡率がもっとも低い国の一つで,これは日本人の血清総コレステロール値が欧米にくらべて低いためと考えられてきた。しかし近年,とくに若年男性において,米国と日本のCHD危険因子のレベルに差がなくなってきたことが指摘されている。CHD発症率をみると,米国では低下傾向にある一方で,日本では増加傾向にあるとの報告もある。そこで,米国と日本のコホート研究のデータを用いて,種々のCHD危険因子の分布の違いも考慮したうえで,冠動脈における潜在性動脈硬化の進展度を比較し,さらにその結果が年齢層ごとに異なるかどうかを検討する断面研究を行った。
- コホート
- (1)米国
MESA(The Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis)。
2000~2002年,米国の6施設(ノースカロライナ州フォーサイス郡,ニューヨーク州ニューヨーク,メリーランド州ボルティモア[市および郡],ミネソタ州セントポール,イリノイ州シカゴ,カリフォルニア州ロサンゼルス)で登録された,心血管疾患既往のない45~84歳の6814人(非ヒスパニック系白人,黒人,ヒスパニック系または中国系)のうち,非ヒスパニック系白人男性1067人。
(2)日本
滋賀動脈硬化疫学研究(SESSA: the Shiga Epidemiological Study of Subclinical Atherosclerosis)。
2006年5月~2008年3月に滋賀県草津市一般住民より無作為に抽出されて健診を受けた,心血管疾患またはその他の重篤な疾患をもたない40~79歳の男性832人。
潜在性動脈硬化の進展度については,冠動脈CT検査(MESAではマルチディテクタCT,SESSAでは電子線CTまたはマルチディテクタCT)を行い,Agatston法による冠動脈石灰化スコア(coronary calcium score: CAC)を用いて評価した。 - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢は白人男性60.0歳,日本人男性63.3歳,冠動脈疾患(CHD)の危険因子(現在喫煙,過体重,高血圧,脂質異常症および糖尿病)を1つももたない人はそれぞれ9.8%,14.2%,3つ以上もつ人は27.3%,21.4%で,全体的に白人男性のほうが危険因子を多く有していた。
年齢層を問わず,日本人男性にくらべて白人男性のほうが高い値を示していたのはBMI,脂質異常症の割合,降圧薬服用率,脂質低下薬服用率で,白人男性のほうが低い値を示していたのは喫煙量,高血圧の割合,糖尿病の割合(とくに55歳以上)。
冠動脈石灰化(CAC)スコアの分布は以下のとおりで,55歳以上の年齢層では白人男性のスコアが有意に高かったが,54歳以下では有意な差はみられなかった。
・45~54歳(P=0.170)
10未満: 白人男性68.5%,日本人男性79.0%
10以上100未満: 18.3%,13.4%
100以上400未満: 10.8%,5.9%
400以上: 2.4%,1.7%
・55~64歳(P<0.001)
10未満: 39.6%,56.0%
10以上100未満: 28.2%,26.0%
100以上400未満: 18.8%,11.1%
400以上: 13.5%,6.9%
・65~74歳(P<0.001)
10未満: 21.4%,40.5%
10以上100未満: 19.3%,29.2%
100以上400未満: 28.5%,19.0%
400以上: 30.8%,11.3%
◇ 年齢層別のCACスコアの比較
CHD危険因子の保有数とCACスコアとの関連をみると,白人男性・日本人男性とも,年齢層を問わず,危険因子の数が多くなるほどCACスコアが高くなっていた。
危険因子の数ごとに白人男性と日本人男性とを比較すると,同じ保有数であっても白人男性のほうが日本人男性よりCACスコアが高い傾向がみられた(とくに55~64歳および65~74歳)。たとえば,55~64歳で危険因子を3つ以上もつ人におけるCACスコア≧100の割合は,白人男性では44.7%,日本人男性では24.3%であった。
年齢層ごとにみた白人男性のCACスコア≧10,≧100,≧400の多変量調整オッズ比†(vs. 日本人男性)は以下のとおり。いずれも年齢が高いほど大きくなっており,すなわち年齢が高いほど人種差が大きいことが示された。
(†年齢,教育状況,用いられたCT[電子線CT/マルチディテクタCT],喫煙量,収縮期血圧,LDL-C,血糖値,降圧治療,脂質低下治療,糖尿病治療,BMI,飲酒で調整)
・CAC≧10(年齢層による相互作用のP=0.034)
45~54歳: 2.30(95%信頼区間1.12-4.70),P=0.023
55~64歳: 2.45(1.46-4.13),P<0.001
65~74歳: 3.11(1.88-5.15),P<0.001
・CAC≧100(年齢層による相互作用のP=0.016)
45~54歳: 2.27(0.82-6.26),P=0.115
55~64歳: 1.87(1.02-3.41),P=0.043
65~74歳: 4.45(2.76-7.19),P<0.001
・CAC≧400(年齢層による相互作用のP=0.019)
45~54歳: 1.50(0.07-30.82),P=0.795
55~64歳: 3.58(1.48-8.67),P=0.005
65~74歳: 5.15(2.90-9.16),P<0.001
◇ 結論
米国と日本の潜在性動脈硬化の進展度(CT画像でみた冠動脈石灰化[CAC]スコアにより評価)を比較し,さらにその結果が年齢層ごとに異なるかどうかについて,一般住民を対象としたコホート研究のデータ(男性のみ)を用いた断面的な検討を行った。その結果,既知の冠動脈疾患危険因子による調整を行ったうえでも,白人男性のCACスコアは日本人男性より高く,冠動脈の潜在的動脈硬化がより進展していることが示された。ただし年齢層ごとにみると,この差は若年になるほど小さくなっていた。今回みられた人種差に関与する因子の解明や,年齢層により異なる人種差について,田の研究による確認がまたれる。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康