[2015年文献] 上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)が大きいほど,冠動脈石灰化の有所見率が高い
無作為に抽出された日本人一般住民男性を対象としたコホート研究の断面解析により,上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)と冠動脈石灰化(CAC)との関連を検討した。その結果,既知の危険因子による調整後も,baPWVが大きいほどCACのリスクが高くなる有意な関連がみとめられ,CAC検出のためのbaPWVのカットオフ値は約1200 cm/秒と推算された。この結果から,潜在性動脈硬化が進展している人のスクリーニングのために,非侵襲的・低費用かつシンプルに動脈硬化の評価を行えるbaPWVが有用であることが示唆された。
Torii S, et al.; SESSA Research Group. Association between Pulse Wave Velocity and Coronary Artery Calcification in Japanese men. J Atheroscler Thromb. 2015; 22: 1266-77.
- コホート
- 滋賀動脈硬化疫学研究(Shiga Epidemiological Study of Subclinical Atherosclerosis: SESSA)。
滋賀県草津市在住の一般地域住民男性から年齢層ごとに無作為抽出され,研究への参加に同意した40~79歳の男性1094人のうち,心血管疾患既往のある99人,上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)のデータに不備のあった7人,脳卒中既往のデータに不備のあった1人,アルコール摂取量のデータに不備のあった1人を除いた986人(断面解析)。
baPWVの四分位による以下のカテゴリー(<1378/1378~1563/1564~1849/>1849 cm/秒)に対象者を分類した。
冠動脈CT検査(電子線CTまたはマルチディテクタCT)を行い,Agatston法による冠動脈カルシウムスコア≧10の場合に「冠動脈石灰化あり」とした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)が大きいカテゴリーでは年齢,収縮期血圧,心拍数,空腹時血糖,HbA1c,身体活動の割合,およびNIPPON DATA80のリスクチャートから推算した10年間の冠動脈疾患死亡の絶対リスクが有意に高く,喫煙率が有意に低かった。
◇ baPWVと冠動脈石灰化(CAC)の関連
baPWVのカテゴリーごとのCAC有所見率,ならびにCACのオッズ比は以下のとおりで,多変量調整後†もbaPWVが大きいほどCACのリスクが高くなる有意な関連がみとめられた(P for trend=0.042)。
(†年齢,BMI,収縮期血圧,心拍数,総コレステロール,HDL-C,HbA1c,飲酒,喫煙・身体活動,降圧薬・脂質低下薬・糖尿病薬の服用,ならびにCTの種類で調整)
<1378: CACあり20.7%,多変量調整オッズ比1.00
1378~1563: 41.3%,1.47(95%信頼区間0.94-2.30)
1564~1849: 55.9%,1.95(1.20-3.18)
>1849: 66.7%,2.20(1.22-3.96)
以上の結果は,心房細動の有病者を除外した解析,および収縮期血圧のかわりに脈圧を用いた解析でも同様であった。
◇ 層別解析
年齢層(65歳未満/以上)による層別解析の結果,いずれの年齢層でも,baPWVが大きいほどCACの多変量調整オッズ比†が高くなる有意な関連がみとめられた(65歳未満: P for trend=0.001,65歳以上: P for trend=0.032)。
ただし,65歳未満においては,baPWVが2番目に大きいカテゴリー(1564~1849)の多変量調整オッズ比のほうが,もっとも大きいカテゴリー(>1849)にくらべて高くなっていた。(それぞれ2.41[95%信頼区間1.27-4.54],2.24[0.88-5.72])。
年齢層について,有意な異質性はみとめられなかった(P for heterogeneity=0.527)。
降圧薬服用の有無による層別解析を行うと,非服用者ではPWVが大きいほどCACの多変量調整オッズ比†が高くなる強い関連がみとめられたが(P for trend=0.001,baPWVがもっとも大きい四分位で4.01[95%信頼区間1.96-8.23] vs. もっとも小さい四分位),服用者では関連はみとめられなかった(P for trend=0.155)。
降圧薬服用については,有意な異質性がみとめられた(P for heterogeneity=0.031)。
◇ CAC検出のためのbaPWVのカットオフ値の検討
受信者動作特性(receiver operating characteristic: ROC)解析を行うと,ROC曲線下面積は0.696(95%信頼区間0.662-0.729)で,CAC検出のためのbaPWVの最適なカットオフ値は1612 cm/秒であった(感度0.61,特異度0.70)。
◇ 結論
無作為に抽出された日本人一般住民男性を対象としたコホート研究の断面解析により,上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)と冠動脈石灰化(CAC)との関連を検討した。その結果,既知の危険因子による調整後も,baPWVが大きいほどCACのリスクが高くなる有意な関連がみとめられ,CAC検出のためのbaPWVのカットオフ値は約1200 cm/秒と推算された。この結果から,潜在性動脈硬化が進展している人のスクリーニングのために,非侵襲的・低費用かつシンプルに動脈硬化の評価を行えるbaPWVが有用であることが示唆された。