[2016年文献] 変性LDLの指標であるLOX-1リガンドの血清中濃度は,頸動脈の潜在性動脈硬化と関連する
無作為に抽出された日本人一般住民男性を対象とした断面解析において,レクチン様酸化LDL受容体-1(LOX-1)に対する,アポリポ蛋白Bを含むリガンド(LAB)の血清中濃度(変性LDLの指標)と潜在性動脈硬化との関連を検討した。その結果,LABと頸動脈内膜-中膜肥厚度との有意な関連がみとめられた(とくに高脂血症の人)。LABは,動脈硬化性疾患の高リスク者におけるリスク評価に有用である可能性がある。
Okamura T, et al.; SESSA Research Group. Serum level of LOX-1 ligand containing ApoB is associated with increased carotid intima-media thickness in Japanese community-dwelling men, especially those with hypercholesterolemiaLOX-1 ligand and IMT in Japanese. J Clin Lipidol. 2016; 10: 172-180.e1.
- コホート
- 滋賀動脈硬化疫学研究(Shiga Epidemiological Study of Subclinical Atherosclerosis: SESSA)。
滋賀県草津市在住の一般地域住民男性から年齢層ごとに無作為抽出され,研究への参加に同意した40~79歳の男性1094人のうち,心血管疾患既往またはデータ不備のない992人(断面解析)。
レクチン様酸化LDL受容体-1(LOX-1)に対する,アポリポ蛋白Bを含むリガンド(ligand containing ApoB: LAB)*の血清中濃度(μg 標準蛋白[chimera standard protein: cs]/L)を測定し,その四分位による以下の4つのカテゴリーに対象者を分類した。
Q1: ≦4093,Q2: 4094~5341,Q3: 5342~7125,Q4: ≧7126
*血管内皮機能障害を誘発することが知られている変性LDLには,酸化LDLだけでなく,炎症やその他の原因で変性したLDLも含まれるため,従来の抗酸化LDL抗体(特定の酸化LDLの抗原部位のみを認識する)を用いた血中濃度測定法には課題があった。そこで今回は,変性LDLの受容体であり,その内皮機能障害および動脈硬化作用を介すると考えられているLOX-1に着目し,これに結合するリガンド(LAB)の血清中濃度を測定して変性LDLの指標とした。高値ほど催動脈硬化作用が強いと考えられる。
頸動脈超音波検査により,左右の頸動脈における総頸動脈(CCA,近位と遠位の両方),総頸動脈球部(bulb),内頸動脈(ICA)の内膜-中膜肥厚度(IMT)をそれぞれ測定し,これらの平均値を「平均IMT」とした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢63.8歳,総頸動脈の内膜-中膜肥厚度(CCA-IMT)820 μm,平均IMT 846 μm。
レクチン様酸化LDL受容体-1(LOX-1)に対する,アポリポ蛋白Bを含むリガンド(LAB)の四分位によるカテゴリー間で比較すると,LABが高いカテゴリーで高値を示していたのは総コレステロール,non-HDL-C,トリグリセリド,高脂血症の割合,拡張期血圧,およびCCA-IMTで,LABが高いカテゴリーで低値を示していたのは喫煙率。
◇ LABと頸動脈の潜在性動脈硬化
LABのカテゴリーごとのCCA-IMTおよび平均IMTの値(多変量調整†)は以下のとおりで,CCA-IMTについては有意な正の関連がみられたが,平均IMTについては有意な関連はみられなかった。
(†年齢,HDL-C,トリグリセリド,高感度CRP,BMI,高血圧,糖尿病,喫煙,およびアルコール摂取で調整)
・CCA-IMT
Q1: 797 μm,Q2: 827 μm,Q3: 813 μm,Q4: 842 μm(P=0.004)
・平均IMT
Q1: 828 μm,Q2: 848μm,Q3: 849 μm,Q4: 856 μm(P=0.276)
以上の結果は,さらに総コレステロールおよびnon-HDL-Cによる調整を行っても変わらなかった。
◇ 層別解析
高脂血症(総コレステロール≧240 mg/dL)の有無,ならびにLAB(中央値以上/未満)の組合わせによるカテゴリー間で比較した結果は以下のとおりで,高脂血症とLAB高値をあわせもつ場合に頸動脈の潜在性動脈硬化の進展度が大きかった。
・CCA-IMT(P=0.004)
高脂血症なし+LAB低値(401人): 811 μm,高脂血症なし+LAB高値(317人): 811 μm,高脂血症+LAB低値(96人): 814 μm,高脂血症+LAB高値(178人): 856 μm
・平均IMT(P=0.004)
833 μm,836 μm,856 μm,886 μm
以上の結果は,脂質低下薬を服用していない人(866人)のみで行った解析でも同様であった。
高脂血症の人(274人)のみを対象とした解析において,LAB高値(中央値以上)の人は,低値(中央値未満)にくらべてCCA-IMTが有意に大きかったが(多変量調整†,P=0.018),平均IMTについては有意差はなかった。CCA-IMTの有意差は,さらに総コレステロールで調整を行うと消失した(P=0.152)。
このうち脂質低下薬を服用していない人(148人)だけでみると,LAB高値の人は,低値にくらべてCCA-IMTが有意に大きかったが(多変量調整†,P=0.035),さらに総コレステロールで調整を行うと消失した(P=0.071)。一方,平均IMTについては,LAB高値の人では低値にくらべて有意に大きく(多変量調整†,P=0.027),さらに総コレステロールによる調整を行っても有意差がみとめられた(P=0.044)。
◇ 結論
無作為に抽出された日本人一般住民男性を対象とした断面解析において,レクチン様酸化LDL受容体-1(LOX-1)に対する,アポリポ蛋白Bを含むリガンド(LAB)の血清中濃度(変性LDLの指標)と潜在性動脈硬化との関連を検討した。その結果,LABと頸動脈内膜-中膜肥厚度との有意な関連がみとめられた(とくに高脂血症の人)。LABは,動脈硬化性疾患の高リスク者におけるリスク評価に有用である可能性がある。