[2019年文献] DHAの血中濃度は冠動脈石灰化と負に関連する
これまでに,いくつかのランダム化比較試験では,魚由来のω-3脂肪酸(OM3)と冠動脈疾患(CHD)との関連は見出せなかった。しかし,日本のランダム化比較試験からは,スタチンを服用している脂質異常症の人に対する1日1.8 gのエイコサペンタエン酸(EPA)投与は,CHDイベントを有意に抑制すると報告された。今回,日本人一般住民男性を対象として,血中のOM3濃度と冠動脈石灰化(CAC)との関連について調べた。CACはアテローム性血栓症の有用なマーカーとして知られている。その結果,血中のドコサヘキサエン酸(DHA)濃度の増加は,冠動脈石灰化スコア(CCS)の低下と関連がみとめられ,EPA濃度の増加とCCSとのあいだには関連がみとめられなかった。日本人男性におけるDHAの摂取は,動脈硬化の予防に有用である可能性が示唆された。
Sekikawa A, et al.; SESSA Research Group. Association of blood levels of marine omega-3 fatty acids with coronary calcification and calcium density in Japanese men. Eur J Clin Nutr. 2019; 73: 783-92.
- コホート
- 滋賀動脈硬化疫学研究(SESSA)。
2006~2008年に滋賀県草津市在住の一般地域住民男性から年齢層ごとに無作為抽出され,研究への参加に同意した40~79歳の男性1094人のうち,データに不備のない1086人。
冠動脈石灰化(coronary artery calcification: CAC)スコア(CCS),CAC密度スコア(CDS)はelectron-beam computed tomography(EBCT),または16 channel multi-detector-row computed tomography(MDCT)により計測し,Agatstonスコアで評価した。
空腹時の,血清中の魚由来ω-3脂肪酸(OM3: エイコサペンタエン酸[EPA],ドコサペンタエン酸[DPA],ドコサヘキサエン酸[DHA])濃度は,キャピラリーガスクロマトグラフィーを用いて測定した。 - 結 果
- ◇ 対象背景
年齢64.1歳,BMI 23.6 kg/m2,収縮期血圧136.6 mmHg,高血圧56.1%,総コレステロール208.0 mg/dL,LDL-C 124.5 mg/dL,HDL-C 58.8 mg/dL,トリグリセリド(中央値)106.2 mg/dL,脂質低下薬15.2%,糖尿病22.2%,喫煙31.9%,飲酒61.9%,冠動脈疾患,脳卒中または慢性腎臓病(CKD)の既往9.4%,CACスコア(CCS)>0: 65.8%,CCS≧100: 25.9%,CCS≧300: 12.9%,総OM3(相対パーセント濃度): 10.1%,EPA: 3.2%,DHA: 5.9%。
◇ CCSごとの対象背景と血中OM3との関連
CCSごと(0,1~99,100~299,≧300)の対象背景は以下のとおり。
BMI(kg/m2): [CCS=0]22.7,[1~99]24.0,[100~299]23.9,[≧300]24.3(P for trend<0.01)
収縮期血圧(mmHg): 132.5,137.5,138.8,142.1(P for trend<0.01)
高血圧: 42.6%,59.5%,61.8%,78.2%(P for trend<0.01)
糖尿病: 14.1%,23.1%,22.6%,36.6%(P for trend<0.01)
1年間の喫煙量(箱: 中央値): 20.8,26.5,27.5,36.0(P for trend<0.01)
CCSごとのOM3の血中濃度(平均値)は以下のとおり。CCSとOM3血中濃度との間に有意な関連はみとめられなかった。
総OM3(相対パーセント濃度): 10.0,10.3,9.8,9.8(P for trend=0.37)
EPA: 3.1,3.3,3.1,3.3(P for trend=0.18)
DHA: 5.9,6.1,5.8,5.6(P for trend=0.1)
◇ OM3の血中濃度とCCSとの関連
OM3の血中濃度の1 SDの増加による,CCSの多変量調整†オッズ比は以下のとおり。DHAの1 SD増加とCCSとのあいだには有意な負の関連がみとめられた(†年齢,CTの種類,高血圧,糖尿病,LDL-C値,HDL-C値,喫煙,BMI,CRP,トリグリセリド,脂質低下薬,アルコール摂取量,心血管疾患・CKD既往)。
総OM3: 0.91(0.74-1.04),P=0.17
EPA: 0.97(0.85-1.10),P=0.64
DHA: 0.87(0.77-0.99),P=0.03
◇ CAC密度スコア(CDS)ごとの対象背景と血中OM3との関連
CDSの三分位値でわけたカテゴリーの対象背景は以下のとおり。
年齢(歳): [T1]65.5,[T2]68.2,[T3]66.9(P for trend<0.01)
BMI(kg/m2): 24.1,23.7,24.0(P for trend=0.15)
収縮期血圧(mmHg): 140.1,141.4,137.7(P for trend=0.13)
高血圧: 63.8%,72.4%,64.9%(P for trend=0.08)
糖尿病: 24.8%,34.7%,21.3%(P for trend<0.01)
CDSのカテゴリーごとのOM3の血中濃度(平均値)は以下のとおり。CDSとOM3血中濃度とのあいだに有意な関連はみとめられなかった。
総OM3: 10.5,10.3,10.0(P for trend=0.1)
EPA: 3.4,3.4,3.2(P for trend=0.13)
DHA: 6.1,6.0,5.9(P for trend=0.14)
◇ OM3の血中濃度とCDSとの関連
OM3血中濃度の1 SD増加によるCDSの多変量調整†およびCACスコアで調整後の回帰係数は以下のとおり。OM3の血中濃度と,CDSとのあいだには有意な関連はみとめられなかった。
総OM3: -0.0085(P=0.09)
EPA: -0.0089(P=0.08)
DHA: -0.0068(P=0.19)
◇ 結論
これまでに,いくつかのランダム化比較試験では,魚由来のω-3脂肪酸(OM3)と冠動脈疾患(CHD)との関連は見出せなかった。しかし,日本のランダム化比較試験からは,スタチンを服用している脂質異常症の人に対する1日1.8 gのエイコサペンタエン酸(EPA)投与は,CHDイベントを有意に抑制すると報告された。今回,日本人一般住民男性を対象として,血中のOM3濃度と冠動脈石灰化(CAC)との関連について調べた。CACはアテローム性血栓症の有用なマーカーとして知られている。その結果,血中のドコサヘキサエン酸(DHA)濃度の増加は,冠動脈石灰化スコア(CCS)の低下と関連がみとめられ,EPA濃度の増加とCCSとのあいだには関連がみとめられなかった。日本人男性におけるDHAの摂取は,動脈硬化の予防に有用である可能性が示唆された。