[1998年文献] 日系ブラジル人では,IGTはIFGよりも心血管疾患関連因子の保有数が多い
日系ブラジル人において,ADA基準でIFGと診断された人はWHO基準でIGTと診断された人よりも人数が少なく,心血管疾患関連因子の保有数も少ない傾向があることがわかった。IFGの糖尿病発症予測能については,追跡研究により検討することがのぞまれる。
Gimeno SG, et al. Comparison of glucose tolerance categories according to World Health Organization and American Diabetes Association diagnostic criteria in a population-based study in Brazil. The Japanese-Brazilian Diabetes Study Group. Diabetes Care. 1998; 21: 1889-92.
- コホート
- 1993年にブラジルのサンパウロ州バウルに住んでいた40~79歳の日系ブラジル人1世および2世の計647人。
以下の2つの基準により,耐糖能異常または空腹時高血糖および糖尿病の診断を行った。
(1) WHO基準
正常: 空腹時または食後2時間血糖値 140 mg/dL未満,耐糖能異常(impaired glucose tolerance,IGT): 食後2時間血糖値140~199 mg/dL,糖尿病: 食後2時間血糖値 200 mg/dL以上
(2) 米国糖尿病学会(ADA)基準
正常: 空腹時血糖値 110 mg/dL未満,空腹時高血糖(impaired fasting glucose,IFG): 空腹時血糖値 110~125 mg/dL,糖尿病: 126 mg/dL以上 - 結 果
- WHO基準とADA基準によりIGT,IFG,糖尿病の診断を行った結果は以下のようになった。
正常(WHO): 正常(ADA) 396人,IFG(ADA) 20人,糖尿病(ADA) 5人
IGT(WHO): 正常(ADA) 67人,IFG(ADA) 22人,糖尿病(ADA) 6人
糖尿病(WHO): 正常(ADA) 12人,IFG(ADA) 6人,糖尿病(ADA) 113人
◇ 診断の不一致
WHO基準によるIGTの割合は14.7 %,糖尿病の割合は20.3 %だった。
ADA基準によるIFGの割合は7.4 %,糖尿病の割合は19.2 %だった。
糖尿病の割合はWHO基準とADA基準で同程度だったものの,WHO基準によるIGTの割合は,ADA基準によるIFGの割合よりも有意に高かった。
WHO基準で正常とされたがADA基準では診断が異なっていた25人のうち,20人(80 %)がIFGと診断されていた。
一方,ADA基準で正常とされたがWHO基準では診断が異なっていた79人のうち,67人(84.8 %)がIGTと診断されていた。
WHO基準でIGTとされたがADA基準で正常または糖尿病と診断されたのは73人で,うち67人(91.8 %)が正常とされた。
一方,ADA基準でIFGとされたがWHO基準で正常または糖尿病と診断されたのは26人で,うち20人(76.9 %)が正常とされた。
◇ 両診断基準と心血管疾患危険因子保有状況
正常(WHO)/正常(ADA)の396人を基準として,心血管疾患に関連するとされる因子の保有状況を比較した結果は以下のようになった。なお,IGTまたはIFGと糖尿病を合わせて扱う場合は,「異常」とした。
- 糖尿病(WHO)/糖尿病(ADA): BMI,ウエスト/ヒップ比,空腹時血糖値,食後2時間血糖値,平均血圧,血中トリグリセリドが有意に高く,血中HDL-Cが有意に低かった(P<0.05)。
- 正常(WHO)/異常(ADA): 空腹時血糖値,食後2時間血糖値,平均血圧が有意に高かった(P<0.05)。
- 異常(WHO)/正常(ADA): 空腹時血糖値,食後2時間血糖値,平均血圧,血中トリグリセリドが有意に高く,血中HDL-Cが有意に低かった(P<0.05)。
以上のように,日系ブラジル人において,ADA基準でIFGと診断された人はWHO基準でIGTと診断された人よりも人数が少なく,心血管疾患関連因子の保有数も少ない傾向があることがわかった。IFGの糖尿病発症予測能については,追跡研究により検討することがのぞまれる。