[2005年文献] 日系ブラジル人において,糖尿病は全死因死亡の独立した危険因子
ブラジルに移住した日系人において,糖尿病は死亡リスクを高めることがあきらかになった。また,空腹時血糖値および食後2時間血糖値がいずれも全死亡リスクと関連していたという結果からは,経口ブドウ糖負荷試験によって早い段階でハイリスク層を同定することの重要性が示唆される。
Gimeno SG, et al.; Japanese-Brazilians Diabetes Study Group. Glucose intolerance and all-cause mortality in Japanese migrants. Diabetes Res Clin Pract. 2005; 68: 147-54.
- コホート
- 1993年,ブラジルのサンパウロ州バウルに住む40~79歳の日系ブラジル人1世および2世の計647人(女性51.8 %)について第1回調査を行った。2002年に第2回調査を行い,8年間の追跡データを検討した。あわせて1996年および2001年に第1回調査参加者の家族に問い合わせを行い,参加者の生死を調査した。
耐糖能異常,および糖尿病の診断は,以下のWHOの基準に従った。
- 正常: 空腹時血糖値 110 mg/dL未満かつ食後2時間血糖値 140 mg/dL未満
- 空腹時高血糖(impaired fasting glucose,IFG): 空腹時血糖値 110 mg/dL以上126 mg/d未満かつ食後2時間血糖値 140 mg/dL未満
- 耐糖能異常(impaired glucose tolerance,IGT): 空腹時血糖値 126mg/dL未満かつ食後2時間血糖値 140 mg/dL以上200 mg/dL未満
- 糖尿病: 空腹時血糖値 126 mg/dL以上,食後2時間血糖値 200 mg/dL以上,糖尿病治療薬服用のいずれかを満たす場合
- 結 果
- 第1回調査時,耐糖能が正常だった人は59.7 %,IFGは3.3 %,IGTは14.5 %,糖尿病は22.6 %だった。IFGの人数が少ないため,この論文ではIFGとIGTはまとめて「耐糖能異常」として扱われている。
死亡は71人(10.8 %)で,このうち男性は62 %だった。
1000人・年あたりの死亡率は16.2人(男性21.4人,女性11.7人)。
耐糖能異常の有無にかかわらず,もっとも多かった死因は血管疾患(脳卒中,冠動脈疾患,下肢動脈疾患を含む),次に多かったのが癌で,この2つが全体の77.3 %を占めた。
血管疾患による死亡率は正常群で3.7 %だったのに対し,耐糖能異常群では6.1 %,糖尿病群では11 %と有意に高くなった(P=0.005)。
第1回調査時の空腹時血糖値値および食後2時間血糖値値は,いずれも8年後の死亡率と有意に相関していた(P<0.05)。
60歳未満の年齢層では,空腹時血糖値が37.8 mg/dL上昇した場合の全死亡リスクは53 %増加し,食後2時間血糖値が72 mg/dL上昇したときの全死亡リスクは85 %増加することがわかった(性別,喫煙,BMIなどで補正後)。
血管疾患死亡リスクにおいても,同様の結果が得られた。
各群の1000人・年あたりの全死因死亡率,および全死因死亡のハザード比(95 %信頼区間)は以下のとおり。
正常: 11.10人,ハザード比 1
耐糖能異常: 16.94 人,ハザード比 1.55(0.80-3.00)
糖尿病: 29.11 人,ハザード比 2.53(1.48-4.32)
この傾向は血管疾患死でも同様だった。
糖尿病,年齢,収縮期血圧,喫煙および心筋梗塞既往は,いずれも全死亡の独立した危険因子であることが示された。補正後ハザード比(95 %信頼区間)は以下のとおり。
糖尿病: 2.00(1.10-3.62,vs. 耐糖能正常)
年齢(歳): 1.04(1.01-1.06)
収縮期血圧(mmHg): 1.01(1.01-1.02)
喫煙: 2.57(1.55-4.28,vs. 非喫煙)
心筋梗塞既往: 3.21(1.07-9.53,vs. 既往なし)
この傾向は血管疾患死でも同様だった。
以上のように,ブラジルに移住した日系人において,糖尿病は死亡リスクを高めることがあきらかになった。また,空腹時血糖値および食後2時間血糖値がいずれも全死亡リスクと関連していたという結果からは,経口ブドウ糖負荷試験によって早い段階でハイリスク層を同定することの重要性が示唆される。