[2004年文献] 日常的によく歩く人では,認知症およびアルツハイマー病の発症リスクが低い

日常的な軽度の身体活動としての歩行と認知症発症リスクとの関連について,日系アメリカ人男性を対象とした長期的な前向きコホート研究による検討を行った。約7年間の追跡の結果,1日あたりの歩行距離が長い人では,認知症およびアルツハイマー病の発症リスクが有意に低いことが示された。また,歩くのが速い人でも,遅い人にくらべて認知症のリスクが低くなっていた。これらの結果より,身体機能に支障がない高齢者において,できるだけ活動的な生活を送ることが将来の認知症リスク低下につながる可能性が示唆された。

Abbott RD, et al. Walking and dementia in physically capable elderly men. JAMA. 2004; 292: 1447-53.pubmed

コホート
Honolulu-Asia Aging Study。
1900~1919年に出生し,1965年より開始されたホノルル心臓調査の第1回健診を受診した日系アメリカ人男性8006人のうち,1991~1993年に実施された第4回健診とともに認知機能検査を受けた3734人(第4回健診時の生存者の80%)。
このうち,2回目の認知機能検査(1994~1996年)までに死亡した377人,認知症を発症した145人,認知機能が低下しており認知症の発症状況が確認できなかった75人,パーキンソン病既往のある39人,脳卒中既往のある116人,データに不備のある194人,就労を継続していた143人,必要な診察を受けなかった124人,身体活動量が軽度~中程度の範囲ではなかった76人,喫煙者の161人,杖などの歩行補助具を使用していた27人を除いた2257人を解析の対象とした。

認知機能の評価(第4回健診,1994~1996年に実施された第5回健診,および1997~1999年に実施された第6回健診で実施)では,まずCognitive Abilities Screening Instrument(CASI,低値ほど認知機能低下)や年齢によるスクリーニングを行い,必要に応じてさらに神経心理検査,ならびに専門医による面接と神経学的診察を実施。
認知症の診断基準としては米国精神医学会『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版改訂版(DSM-III-R)を用い,アルツハイマー病の診断には米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびアルツハイマー病・関連障害協会によるアルツハイマー病診断基準(NINCDS-ADRDA),血管性認知症の診断にはカリフォルニアアルツハイマー病診断・治療センター(ADDTC)の基準を用いた。

第4回健診時の自己申告に基づく1日あたりの歩行距離によって,対象者を以下の4つのカテゴリーに分類して解析を行った。
  <0.4 km(<0.25マイル): 600人
  0.4~1.6 km(0.25~1マイル): 769人
  >1.6~3.2 km(>1~2マイル): 433人
  >3.2 km(>2マイル): 455人
結 果
◇ 対象背景
1日あたりの歩行距離のカテゴリーごとのおもな対象背景は以下のとおり(それぞれ<0.4 km,0.4~1.6 km,>1.6~3.2 km,>3.2 kmの値)。

  年齢(歳): 77.4,77.3,76.7,76.0(P<0.001)
  アポリポ蛋白E遺伝子ε4アリル: 18.5%,15.1%,15.0%,16.9%
  認知機能(CASIスコア)(点): 86.8,87.3,87.1,87.6
  第1回(中年期)から第4回健診にかけての身体活動指数(Physical Activity Index)の低下度: 1.5,1.5,1.3,0.8
  身体機能スコア(高値ほど良好)(点): 9.6,9.7,9.8,9.8(P<0.001)
  教育年数(年): 10.6,10.9,10.6,11.1(P=0.03)
  BMI(kg/m2): 23.8,23.7,23.8,23.6
  幼少期の日本滞在期間(年): 1.9,1.6,1.9,1.7
  専門職: 65.7%,65.2%,63.0%,63.2%
  高血圧: 54.5%,53.4%,53.9%,59.9%
  糖尿病: 15.3%,14.4%,12.8%,12.9%
  冠動脈疾患: 14.5%,15.9%,18.2%,18.4%
  総コレステロール(mg/dL): 195,191,193,194
  HDL-C(mg/dL): 51.3,50.8,51.5,50.9

◇ 歩行と認知症発症率
1日あたりの歩行距離のカテゴリーごとの,認知症および各病型の年齢調整発症率(1000人・年あたり)は以下のとおり(それぞれ<0.4 km,0.4~1.6 km,>1.6~3.2 km,>3.2 kmの値,*P<0.05 vs. 3.2 km超のカテゴリー)。
歩行距離が短いカテゴリーでは,3.2 km超のカテゴリーに比して認知症の発症率が有意に高くなっていた。

 認知症: 17.8*,17.6*,14.1,10.3
  アルツハイマー病: 10.8,10.8,11.0,6.0
  血管性認知症: 3.7,3.7,0.5,3.1
  混合型・その他の認知症: 3.3,3.1,2.6,1.1

◇ 歩行と認知症発症リスク
1日あたりの歩行距離のカテゴリーごとの,認知症および各病型の発症の多変量調整相対ハザード(vs. 3.2 km超のカテゴリー,*P<0.05 vs. 3.2 km超のカテゴリー)は以下のとおり。
歩行距離が<0.4 km/日のカテゴリーでは,認知症およびアルツハイマー病のリスクが約2倍と有意に増加していた。
年齢,アポリポ蛋白E遺伝子ε4アリル,ベースラインのCASIスコア,中年期からの身体活動指数の低下度,身体機能スコア,教育年数,BMI,幼少期の日本滞在期間,専門職としての地位,高血圧,糖尿病,冠動脈疾患,総コレステロールおよびHDL-Cで調整)

 認知症: [<0.4km]1.93(95%信頼区間1.11-3.34)*,[0.4~1.6 km]1.75(1.03-2.99)*,[>1.6~3.2 km]1.33(0.73-2.45)
  アルツハイマー病: 2.21(1.06-4.57)*,1.86(0.91-3.79),1.88(0.87-4.04)
  血管性認知症: 1.17(0.42-3.27),1.21(0.45-3.22),0.16(0.02-1.36)
  混合型・その他の認知症: 2.83(0.59-13.55),2.84(0.62-12.92),2.00(0.36-11.01)

◇ 歩行速度と認知症発症リスク
ベースライン(第4回健診)時に実施した3 m歩行速度テストの結果ごとに認知症発症率(1000人・年あたり)をみると,所要3秒以下の人では13.1,6秒超の人では20.2(相対ハザード1.57,95%信頼区間0.77-3.21)であった。

3 m歩行テストの結果が4秒以下の人(1682人)のみを対象とした層別解析において,1日あたりの歩行距離と認知症発症率(1000人・年あたり)をみると,3.2 km超の人では8.0,1.6 km以下の人では15.3(相対ハザード1.93,95%信頼区間1.04-3.57)であった。
一方,4秒超の人を対象とした解析では,同様の結果がみとめられたものの,有意ではなかった。

■ 結論
日常的な軽度の身体活動としての歩行と認知症発症リスクとの関連について,日系アメリカ人男性を対象とした長期的な前向きコホート研究による検討を行った。約7年間の追跡の結果,1日あたりの歩行距離が長い人では,認知症およびアルツハイマー病の発症リスクが有意に低いことが示された。また,歩くのが速い人でも,遅い人にくらべて認知症のリスクが低くなっていた。これらの結果より,身体機能に支障がない高齢者において,できるだけ活動的な生活を送ることが将来の認知症リスク低下につながる可能性が示唆された。


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