[1996年文献] ハワイに移住した高齢の日系アメリカ人男性では,アルツハイマー病の有病率が日本人より高く欧米とは同等

日系アメリカ人男性を対象とした長期的な前向きコホート研究において,1991~1993年(対象者の年齢71~93歳)時に実施された認知機能検査の結果から,認知症の有病率を推算した。その結果,DSM-III-R基準により診断された認知症の有病率は9.3%で,年齢層別にみると71~74歳では2.1%,85歳以上の年齢層では33.4%と,加齢に伴って顕著に増加する傾向がみられた。既存の報告とくらべると,アルツハイマー病の有病率は日本より高く欧米とは同等,血管性認知症の有病率は日本よりやや低いが欧米にくらべると高かった。以上の結果から,ハワイに移住した日系人では,血管性認知症を発症しやすい遺伝的背景をもちながらも,生活習慣の欧米化に伴ってアルツハイマー病が増加している可能性があると考えられる。

White L, et al. Prevalence of dementia in older Japanese-American men in Hawaii: The Honolulu-Asia Aging Study. JAMA. 1996; 276: 955-60.pubmed

コホート
Honolulu-Asia Aging Study。
1900~1919年に出生し,1965年から実施されたホノルル心臓調査の第1回健診を受診した日系アメリカ人男性8006人のうち,1991~1993年に実施された第4回健診で認知症診断のための検査を受けた3734人。

◇ 認知症の有病率
認知症の診断は以下の3つの段階に分けて実施。認知症の有病率は,まず第3段階の結果から予備的に算出した第2段階対象者での有病率を用い,第1段階の対象者全員における有病率を推算することで求めた。

(1)第1段階
Cognitive Abilities Screening Instrument(CASI)を用いた評価により,以下の計1063人を第2段階の対象者とした。
・低値(74点未満)と評価された586人全員
・中程度(74~81.9点)と評価された616人から確率抽出法(probability sampling)によりサンプリングされた227人
・高値(82点以上)と評価された2531人から同様にサンプリングされた250人

(2)第2段階
第2段階の対象者のうち,実際に参加したのは948人(89%)であった。
第1段階での評価結果を盲検化したうえで2回目のCASI,ならびに本人以外の情報提供者(おもに対象者の夫人)によるInformant Questionnaire on Cognitive Decline in the Elderly(IQCODE: 高値の場合に認知症が強く示唆される)による評価を行い,以下の計507人を第3段階の対象者とした。
・第1段階・第2段階ともCASI<75点,かつIQCODE>3.6点の360人全員
・第2段階のCASIで中程度または高値,かつIQCODE≦3.6点の588人から確率抽出法によりサンプリングされた147人

(3)第3段階
第3段階の対象者のうち,実際に参加したのは426人。
第1・2段階での評価結果を盲検化したうえで,標準化された面接,専門医による神経学的検査,ならびにConsortium to Establish a Registry for Alzheimer’s Disease(CERAD)の神経心理学的検査バッテリーの結果を用い,2つの診断基準(Cummings&Benson基準,ならびに米国精神医学会『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版改訂版[DSM-III-R]
)による認知症の診断を行った(複数の検査を組み合わせた評価法)。

なお,DSM-III-R基準により認知症と診断された人に対しては,以下の基準により病型(アルツハイマー病または血管性認知症)も調査した。
・アルツハイマー病: 米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびアルツハイマー病・関連障害協会によるアルツハイマー病診断基準(NINCDS-ADRDA)
・血管性認知症: カリフォルニアアルツハイマー病診断・治療センター(ADDTC)の診断基準
結 果
◇ 対象背景
第4回健診時の平均年齢は78歳(最低71歳~最高93歳),教育年数の平均は10.5年。

第3段階の参加者のうち,Cummings&Benson基準により認知症と診断されたのは281人で,うちDSM-III-R基準でも認知症と診断されたのは226人。DSM-III-R基準で認知症とされた人(226人)の全員がCummings&Benson基準でも認知症とされた。
DSM-III-R基準による認知症のうち,アルツハイマー病と診断されたのは122人で,血管性認知症と診断されたのは115人であった(いずれも,典型的ではないがその病型の可能性がある例や,他の病型との混合型を含むために合計が226人より多くなっている)。

◇ 認知症有病率(診断基準別)
Cummings&Benson基準により診断された認知症の有病率は13.0%(95%信頼区間9.8-16.8%)で,年齢層別にみた結果は以下のとおり。
71~74歳: 3.0%,75~79歳: 9.2%,80~84歳: 17.2%,85~93歳: 46.2%

DSM-III-R基準により診断された認知症の有病率は9.3%(6.5-12.6%)で,年齢層別にみた結果は以下のとおり。
71~74歳: 2.1%,75~79歳: 6.2%,80~84歳: 12.9%,85~93歳: 33.4%

他のコホート研究では65歳以上を対象とした認知症有病率の調査結果が多いことから,それらと比較できるように1990年の米国の年齢層別人口分布を用いた年齢調整を行った。その結果,65歳以上の人における推算有病率は,Cummings&Benson基準を用いた場合は10.3%,DSM-III-R基準を用いた場合は7.6%であった。

◇ 認知症有病率(病型別)
DSM-III-R基準により診断された認知症のうち,アルツハイマー病の有病率は5.4%(95%信頼区間3.4-8.3%)で,年齢層別にみた結果は以下のとおり。
71~74歳: 0.9%,75~79歳: 3.7%,80~84歳: 7.0%,85~93歳: 20.6%

DSM-III-R基準により診断された認知症のうち,血管性認知症の有病率は4.2%(2.3-6.6%)で,年齢層別にみた結果は以下のとおり。
71~74歳: 1.1%,75~79歳: 2.3%,80~84歳: 6.4%,85~93歳: 15.9%

1990年の米国の年齢層別人口分布を用いた年齢調整を行った結果,65歳以上の人における推算有病率は,アルツハイマー病については4.7%,血管性認知症については3.8%であった。


◇ 結論
日系アメリカ人男性を対象とした長期的な前向きコホート研究において,1991~1993年(対象者の年齢71~93歳)時に実施された認知機能検査の結果から,認知症の有病率を推算した。その結果,DSM-III-R基準により診断された認知症の有病率は9.3%で,年齢層別にみると71~74歳では2.1%,85歳以上の年齢層では33.4%と,加齢に伴って顕著に増加する傾向がみられた。既存の報告とくらべると,アルツハイマー病の有病率は日本より高く欧米とは同等,血管性認知症の有病率は日本よりやや低いが欧米にくらべると高かった。以上の結果から,ハワイに移住した日系人では,血管性認知症を発症しやすい遺伝的背景をもちながらも,生活習慣の欧米化に伴ってアルツハイマー病が増加している可能性があると考えられる。


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