[1997年文献] 軽度の認知症では,家族がそうとは認識していない「見過ごされた認知症」の割合が高い
日系アメリカ人を対象とした長期的な前向きコホート研究において,認知症と診断されたものの,家族などがそう認識していなかったり,その後の適切な評価を受けていなかったりする「見過ごされた認知症(silent dementia)」の割合や特徴を,断面解析によって調査した。その結果,家族などが認知症と認識していなかったケースは認知症の21%を占めており,とくに認知症が軽度の場合にその割合が高かった。今後,早期のうちに診断・介入できるように,定期的な認知機能検査を実施し,認知症を見過ごさないことが重要であると考えられた。
Ross GW, et al. Frequency and characteristics of silent dementia among elderly Japanese-American men. The Honolulu-Asia Aging Study. JAMA. 1997; 277: 800-5.
- コホート
- Honolulu-Asia Aging Studyの追跡健診時に認知症と診断された日系アメリカ人男性281人のうち,施設や病院に入院した54人,家族などによる情報提供の信頼度が不十分(情報提供者のCognitive Abilities Screening Instrument[CASI]が75点未満または研究スタッフによる判断)とされた23人,および家族などによる情報提供が得られなかった13人を除いた191人。
対象者の認知症の診断から約2ヵ月前に,家族など(63%: 対象者の妻,15%: 娘,12%: 息子,10%: その他の家族または友人)による情報提供の機会(面接または電話)を実施。
このとき,「あなたが把握している範囲で,対象者の思考や記憶に問題はあるか」
(回答: 確実にある/おそらくある/いいえ)という質問に対し,情報提供者が「いいえ」と回答したケースを「情報提供者の認識不足」とした。
また,上記の質問に対して情報提供者が「確実にある」と回答した場合に追加で行われた「その思考や記憶の問題から,対象者が医学的・心理学的な評価を受けたことがあるか」(回答: はい/いいえ)という質問に対し,情報提供者が「いいえ」と回答したケースを「適切な評価の不足」とした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢83.0歳,平均教育年数9.1年,平均Cognitive Abilities Screening Instrument(CASI)スコア58.3点。Clinical Dementia Rating(CDR)による重症度「非常に軽度」が22.0%,「軽度」が40.8%,「中程度」が18.3%,「重度」が18.8%であった。
情報提供者の平均年齢は68.2歳,平均教育年数11.2年,平均CASIスコア88.2点であった。
◇ 情報提供者の認識不足
認知症と診断された191人のうち,情報提供者が本人の思考または記憶に問題があることを認識できていなかったのは41人(21%)であった(情報提供者の認識不足)。
情報提供者の認識不足の割合を重症度別にみた結果は以下のとおりで,「非常に軽度」(52%)では,「軽度」~「重度」(13%)にくらべて有意に高かった(P<0.001)。
非常に軽度: 42人中22人
軽度: 78人中11人
中程度: 35人中5人
重度: 36人中3人
情報提供者の認識不足の割合は,妻とそれ以外(P=0.57),および娘と息子(P=0.54)とのあいだでそれぞれ同程度であった。また,認知症の病型(アルツハイマー病,血管性認知症,認知症に伴うパーキンソン病)による違いもみとめられなかった。
◇ 情報提供者の認識不足に関連する因子
ステップワイズ法を用いた多変量ロジスティック回帰分析によって,情報提供者の認識不足に関連する因子を検討した。
・背景因子: 年齢や性別などの背景因子のうち,情報提供者の認識不足に有意かつ独立して関連していたのは,本人の教育年数が少ないことのみであった。
・知能・行動の指標: 情報提供者の認識不足に有意かつ独立に関連していたのは,本人のBlessed Dementia Scale低スコアのみであった。
・視覚・言語・言語流暢性の指標: 情報提供者の認識不足に有意かつ独立に関連していたのは,本人の遠隔記憶(正常)のみであった。
・すべての因子を含めた解析: 背景因子,知能・行動の指標,視覚・言語・言語流暢性の指標のすべてを含めた解析において,情報提供者の認識不足に有意かつ独立に関連していたのは,本人の遠隔記憶(正常)のみであった。
◇ 適切な評価の不足
認知症と診断された191人のうち,情報提供者によって,本人の思考または記憶に明らかな問題があると報告されていたのは97人であった。このうち51人(53%)が,これまでに適切な医学的・心理学的な評価を受けていないと報告された(適切な評価の不足)。
適切な評価の不足の割合を重症度別にみた結果は以下のとおりで,「非常に軽度」では全員が該当した。重症度が大きくなるほどその割合は有意に小さくなったものの(P=0.004),「重症」でさえ約3割が適切な評価を受けていなかった。
非常に軽度: 7人中7人
軽度: 36人中20人
中程度: 26人中15人
重度: 28人中9人
◇ 結論
日系アメリカ人を対象とした長期的な前向きコホート研究において,認知症と診断されたものの,家族などがそう認識していなかったり,その後の適切な評価を受けていなかったりする「見過ごされた認知症(silent dementia)」の割合や特徴を,断面解析によって調査した。その結果,家族などが認知症と認識していなかったケースは認知症の21%を占めており,とくに認知症が軽度の場合にその割合が高かった。今後,早期のうちに診断・介入できるように,定期的な認知機能検査を実施し,認知症を見過ごさないことが重要であると考えられた。