[1997年文献] 中年期の継続的な喫煙は,将来の認知機能障害と関連する

中年期の喫煙歴とその後の認知症発症リスクとの関連について,日系アメリカ人男性を対象とした長期的な前向きコホート研究による検討を行った。その結果,中年期における継続的な喫煙歴は,認知機能障害の有意な予測因子であった。また,喫煙をやめてからの期間が短い禁煙者では,やめてからの期間の長い禁煙者や喫煙未経験者にくらべて,認知機能障害のリスクが高くなっていた。

Galanis DJ, et al. Smoking history in middle age and subsequent cognitive performance in elderly Japanese-American men. The Honolulu-Asia Aging Study. Am J Epidemiol. 1997; 145: 507-15.pubmed

コホート
Honolulu-Asia Aging Study。
1900~1919年に出生し,1965年より開始されたホノルル心臓調査の第1回健診を受診した日系アメリカ人男性8006人のうち,1991~1993年に実施された第4回健診とともに認知機能検査を受けた3734人(第4回健診時の生存者の80%)。
このうち,第1回健診から第3回健診(1971~1974年)にかけて冠動脈疾患または脳血管疾患を発症した138人,健診データに不備のあった145人,喫煙歴のデータに不備のあった23人を除いた3429人を解析の対象とした。

喫煙歴について,第1回健診時および第3回健診時の自己申告(喫煙未経験/禁煙/喫煙)により,対象者を以下の4つのカテゴリーに分類した。
  喫煙未経験継続: 第1・3回健診時とも「喫煙未経験」(1174人)
  禁煙(第1回健診時): 第1・3回健診時とも「禁煙」(948人)
  禁煙(第3回健診時): 第1回健診時は「喫煙」で第3回健診時には「禁煙」(386人)
  喫煙継続: 第1・3回健診時とも「喫煙」(921人)

第1回健診時に「喫煙未経験」または「禁煙」で,第3回健診時に「喫煙」と回答した71人については,喫煙を開始したというよりは禁煙を試みていたと考えられることから,第3回健診時の禁煙者カテゴリーに含められた(実際に,第4回健診時には該当者の7割以上が自らを「禁煙者」と回答した)。

第4回健診時に実施したCognitive Abilities Screening Instrument(CASI,100点満点で高値ほど認知機能良好)スコアが82点未満の場合に,「認知機能障害」とした。
結 果
◇ 対象背景
第4回健診時の年齢77.7歳,教育歴なしまたは小学校卒業3%・中学卒業41%・高校卒業39%・大学卒業17%,日系1世(日本で出生)7%・2世(日本以外で出生)84%・帰米(日本以外で出生したが幼少期に5年以上日本に滞在)9%,非飲酒者28%・1~4 oz/月の飲酒29%・5~30 oz/月の飲酒29%・31~60 oz/月の飲酒8%・60 oz/月超の飲酒5%,第3回健診時のBMI 23.8 kg/m2,第3回健診時の収縮期血圧133.4 mmHg,第3回健診後の脳血管疾患2%,第4回健診時の足関節上腕血圧比(ABI)<0.9の割合2%。

喫煙継続者はアルコール摂取量がもっとも多く,脳血管疾患や無症候性動脈硬化(ABI<0.9)の割合も高かった。

◇ 喫煙歴と認知機能
喫煙歴のカテゴリーごとにみた認知機能検査の結果は以下のとおり。
  Cognitive Abilities Screening Instrument(CASI)スコア: 喫煙未経験継続82.9点,禁煙(第1回健診時)82.8点,禁煙(第3回健診時)81.5点,喫煙継続82.3点
  認知機能障害: 31%,29%,35%,34%

多変量線形回帰分析によって喫煙歴とCASIスコアとの関連(vs. 喫煙未経験継続)を検討した結果,禁煙者(第3回健診時)および喫煙継続者ではスコアが有意に低かったが,調整後には,以下のとおり有意差はみられなかった。
年齢,教育歴,世代,アルコール摂取量,BMI,収縮期血圧,脳血管疾患,ABIで調整)

  禁煙(第1回健診時): β係数0.65,標準誤差0.53,P=0.225
  禁煙(第3回健診時): -1.18,0.71,P=0.097
  喫煙継続: -0.77,0.56,P=0.165

また,認知機能障害の多変量調整オッズ比(vs. 喫煙未経験継続)は以下のとおりで,喫煙継続者では有意なリスク増加がみとめられた。

  禁煙(第1回健診時): 0.86(95%信頼区間0.68-1.07),P=0.187
  禁煙(第3回健診時): 1.30(0.98-1.74),P=0.073
  喫煙継続: 1.29(1.03-1.62),P=0.033

◇ 層別解析
禁煙者を,第3回健診の0~5年前に禁煙した人(416人)/6~10年前に禁煙した人(299人)/11~20年前に禁煙した人(310人)/>20年前に禁煙した人(238人)に分けた解析を行った。
その結果,第3回健診の0~5年前に禁煙した人を除くすべてのカテゴリーにおいて,喫煙継続者に対する認知機能障害の多変量調整オッズ比が0.59~0.65と,いずれも有意に低くなっていた。

また,喫煙継続者(921人)を,第4回健診時までに禁煙した人(626人)と,第4回健診時も継続していた人(202人)に分けた解析を行った(データに不備または矛盾のあった93人は除外)。
その結果,喫煙未経験継続に対する認知機能障害のオッズ比(年齢,教育歴,世代,アルコール摂取量で調整)は,喫煙を継続していた人(1.32,95%信頼区間0.92-1.91)のほうが,禁煙した人(1.15,0.90-1.47)よりも,やや高くなっていた。


◇ 結論
中年期の喫煙歴とその後の認知症発症リスクとの関連について,日系アメリカ人男性を対象とした長期的な前向きコホート研究による検討を行った。その結果,中年期における継続的な喫煙歴は,認知機能障害の有意な予測因子であった。また,喫煙をやめてからの期間が短い禁煙者では,やめてからの期間の長い禁煙者や喫煙未経験者にくらべて,認知機能障害のリスクが高くなっていた。


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