[1999年文献] 日系人男性の血管性認知症: 原因として多いのはラクナ梗塞で,有意な危険因子は加齢,心疾患既往,および血糖高値
認知症の内訳として日本ではもっとも多く,欧米ではアルツハイマー病に次いで第2位を占めている血管性認知症の特徴および危険因子について,日系アメリカ人男性を対象とした長期的な前向きコホート研究による検討を行った。その結果,血管性認知症の原因としてもっとも多かったのは小血管病変性(とくにラクナ梗塞)であり,年齢や冠動脈疾患既往,負荷後血糖値などの既知の心血管疾患危険因子が,血管性認知症の発症リスクにも寄与していることが示唆された。また,西洋式の食事が血管性認知症のリスク低下に関連している可能性がある。
Ross GW, et al. Characterization of risk factors for vascular dementia: the Honolulu-Asia Aging Study. Neurology. 1999; 53: 337-43.
- コホート
- Honolulu-Asia Aging Study。
1900~1919年に出生し,1965~1968年に実施されたホノルル心臓調査の第1回健診(ベースライン)を受診した日系アメリカ人男性8006人のうち,1991~1993年に実施された第4回健診とともに認知機能検査を受けた3734人(第4回健診時の生存者の80%)。
◇ 認知症のスクリーニングおよび診断
・第1段階: Cognitive Abilities Screening Instrument(CASI)で低値(74点未満)または85歳以上の全員,ならびにCASIで75点以上だった人のなかから確率抽出法により一部を抽出(合計948人)。
・第2段階: 2回目のCASIを含む認知機能検査,ならびに本人以外の情報提供者(おもに家族)によるInformant Questionnaire on Cognitive Decline in the Elderly(IQCODE: 高値の場合に認知症が強く示唆される)による過去10年間の行動状況の評価を行い,第1段階・第2段階ともCASI<75点,かつIQCODE>3.6点の人,ならびに,これに該当しない人のなかから確率抽出法により一部を抽出(合計426人)。
・第3段階: Consortium to Establish a Registry for Alzheimer’s Disease(CERAD)の神経心理学的検査バッテリーに沿った神経心理検査,ならびに専門医による面接と神経学的診察を実施。認知症の診断基準としては,米国精神医学会『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版改訂版(DSM-III-R)を用い,血管性認知症の診断にはカリフォルニアアルツハイマー病診断・治療センター(ADDTC)の基準を用いた。 - 結 果
- ◇ 対象背景
『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版改訂版(DSM-III-R)によって認知症と診断されたのは226人。
このうち68人が,血管性認知症の可能性(49人)または疑いあり(19人)と診断された。
原因の内訳をみると,大血管性が16人(23%,うち多発性13人,単一病変3人),小血管病変性が34人(50%,うちラクナ梗塞29人,ビンスワンガー病5人),混合型が11人(16%),不明7人(10%)であった。脳出血性はみられなかった。
また,第4回健診の実施時,脳卒中既往があったのは147人。
このうち,認知症(血管性またはその他)を有していなかったのは106人(72%)であった。
血管性認知症の68人,認知症を伴わない脳卒中の106人,ならびに認知症も脳卒中もない3335人のおもな対象背景は以下のとおり(*P<0.05 vs. 血管性認知症)。
年齢: 血管性認知症82.3歳,認知症を伴わない脳卒中77.4歳*,非脳卒中・非認知症77.4歳*
平均教育年数: 9.2年,10.4年*,10.6年*
平均CASIスコア: 40.6点,75.8点*,85.5点*
アルツハイマー病家族歴: 4.0%,8.8%,7.9%*
◇ 血管性認知症のリスクに関連する因子(vs. 認知症も脳卒中もない人)
血管性認知症の68人および認知症も脳卒中もない3335人を対象とした単変量解析(調整なし)において,血管性認知症のオッズ比と有意に関連していたのは,年齢,教育年数,高血圧既往,糖尿病,食事の好み,ビタミンE服用,冠動脈疾患既往,および食後1時間血糖値であった。
これらの変数を含めた多変量解析において,血管性認知症との独立した有意な関連がみられた因子は以下のとおりで,年齢,冠動脈疾患既往および食後1時間血糖値は有意な正の関連,西洋式の食事の好みとビタミンE摂取は負の関連を示していた。
年齢(+1歳): 多変量調整オッズ比1.19(95%信頼区間1.13-1.27)
食事の好み(西洋式 vs. 東洋式): 0.54(0.30-0.98)
ビタミンE摂取(あり vs. なし): 0.32(0.12-0.82)
冠動脈疾患既往(あり vs. なし): 2.50(1.35-4.62)
食後1時間血糖値(四分位によるカテゴリー+1): 1.41(1.06-1.88)
◇ 血管性認知症のリスクに関連する因子(vs. 認知症を伴わない脳卒中)
血管性認知症の68人および認知症を伴わない脳卒中の106人を対象とした単変量解析(調整なし)において,血管性認知症のオッズ比と有意に関連していたのは,年齢,教育年数および食事の好みであった。
これらの変数を含めた多変量解析において,血管性認知症との独立した有意な関連を示していたのは年齢(正の関連),ならびに西洋式の食事の好み(負の関連)であった。
年齢(+1歳): 多変量調整オッズ比1.24(95%信頼区間1.14-1.35)
食事の好み(西洋式vs. 東洋式): 0.43(0.22-0.86)
◇ 認知症を伴わない脳卒中のリスクに関連する因子(vs. 非脳卒中・非認知症)
血管性認知症の関連因子と脳卒中の関連因子を比較するために,認知症を伴わない脳卒中の106人,および認知症も脳卒中もない3335人を対象とした単変量解析(調整なし)を行った。その結果,認知症を伴わない脳卒中のオッズ比と有意な正の関連を示していたのは高血圧,糖尿病,食後1時間血糖および冠動脈疾患既往であった。
◇ 結論
認知症の内訳として日本ではもっとも多く,欧米ではアルツハイマー病に次いで第2位を占めている血管性認知症の特徴および危険因子について,日系アメリカ人男性を対象とした長期的な前向きコホート研究による検討を行った。その結果,血管性認知症の原因としてもっとも多かったのは小血管病変性(とくにラクナ梗塞)であり,年齢や冠動脈疾患既往,負荷後血糖値などの既知の心血管疾患危険因子が,血管性認知症の発症リスクにも寄与していることが示唆された。また,西洋式の食事が血管性認知症のリスク低下に関連している可能性がある。