[2002年文献] 高齢の日系アメリカ人男性において,抑うつ症状は全死亡の危険因子

抑うつ症状と全死亡リスクとの関連について,日系アメリカ人男性を対象とした長期的な前向きコホート研究による検討を行った。6年間の追跡の結果,抑うつ症状のある人では,血圧などの心血管危険因子とは独立して全死亡のリスクが有意に高くなっており,この関連は,とくに慢性疾患がなく体の状態が健康な人において顕著であった。

Takeshita J, et al. Are depressive symptoms a risk factor for mortality in elderly Japanese American men?: the Honolulu-Asia Aging Study. Am J Psychiatry. 2002; 159: 1127-32.pubmed

コホート
Honolulu-Asia Aging Study。
1900~1919年に出生し,1965年より開始されたホノルル心臓調査の第1回健診を受診した日系アメリカ人男性8006人のうち,1991~1993年に実施された第4回健診とともに認知機能検査を受けた3734人(第4回健診時の生存者の80%)。
このうち,抑うつ症状に関する質問票への回答に不備のあった人を除いた3196人を解析の対象とし,1997年12月まで6年間追跡。

抑うつ症状について,Centers for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D)-11質問票による調査で9点以上の場合に「あり」と定義した。
結 果
◇ 対象背景
抑うつ症状を有していたのは317人(9.9%)であった。
抑うつ症状ありの人となしの人で有意差(P≦0.05)がみられた項目は以下のとおり。

  BMI(kg/m2): あり23.0,なし23.6(P=0.003)
  身体活動指数: 30.4,31.1(P=0.01)
  収縮期血圧(mmHg): 146.3,150.5(P=0.002)
  拡張期血圧(mmHg): 78.4,80.7(P<0.001)
  婚姻率: 77.0%,83.7%(P=0.003)
  脳卒中の割合: 4.7%,2.4%(P=0.01)
  ベースラインの認知機能低下(Cognitive Abilities Screening Instrument[CASI]スコア<74点): 15.1%,9.3%(P=0.001)

年齢,教育年数,アルコール摂取量,抗うつ薬服用率,降圧薬服用率,喫煙率,糖尿病の割合,冠動脈疾患の割合,癌の割合に有意差はみられなかった。

◇ 抑うつ症状と全死亡率
追跡期間中に死亡したのは684人。

抑うつ症状ありの人,およびなしの人の年齢調整全死亡率(1000人・年あたり)は以下のとおりで,累積死亡率には有意な差がみとめられた(Kaplan-Meier解でP=0.01)。
 3年後まで: あり48.0,なし30.3
 6年後まで: 54.1,41.5

◇ 抑うつ症状と全死亡リスク
抑うつ症状ありの人における全死亡の多変量調整相対危険度(vs. なしの人)は以下のとおりで,3年後まで,および6年後までの全死亡のいずれについても,有意なリスク増加がみとめられた。
年齢,婚姻状況,抗うつ薬服用,BMI,身体活動指数,収縮期血圧,喫煙,および糖尿病で調整)

  3年後までの全死亡: 1.45(95%信頼区間1.02-2.06),P=0.04
  6年後までの全死亡: 1.27(1.00-1.60),P<0.05

ただし,これらの有意差は,慢性疾患(認知機能低下,冠動脈疾患,脳卒中および癌)の保有状況による調整を行うと消失した。

◇ 層別解析
慢性疾患(認知機能低下,冠動脈疾患,脳卒中および癌)の有無ごとに解析を行った結果は以下のとおり。
抑うつ症状がある人の全死亡の多変量調整相対危険度(vs. ない人)は,慢性疾患がない場合のみ,有意に高かった。

・慢性疾患なし
  3年後までの全死亡: 2.17(95%信頼区間1.25-3.77),P=0.006
  6年後までの全死亡: 1.56(1.06-2.29),P=0.02)

・慢性疾患あり
  3年後までの全死亡: 1.08(0.67-1.73),P=0.76
  6年後までの全死亡: 1.09(0.81-1.47),P=0.56


◇ 結論
抑うつ症状と全死亡リスクとの関連について,日系アメリカ人男性を対象とした長期的な前向きコホート研究による検討を行った。6年間の追跡の結果,抑うつ症状のある人では,血圧などの心血管危険因子とは独立して全死亡のリスクが有意に高くなっており,この関連は,とくに慢性疾患がなく体の状態が健康な人において顕著であった。


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