[2007年文献] ハワイの日系人は,日本人よりも潜在性動脈硬化が進展していた

日本人とハワイの日系人(40~49歳)において,潜在性動脈硬化の進展度を冠動脈カルシウム(CAC)スコアにより比較することを目的として検討を行った。その結果,ハワイではCACスコア≧10の割合が日本の約3倍であり,対象者が若い年齢層にあるにもかかわらず,顕著な閉塞性動脈硬化が疑われるレベルの冠動脈カルシウムがみとめられた。以上の結果より,共通した遺伝的背景をもつ日本本土の日本人においても,生活習慣の欧米化がさらに進むことによって同程度の動脈硬化の進展が起こるおそれがあると考えられる。

Abbott RD, et al. Coronary artery calcification in Japanese men in Japan and Hawaii. Am J Epidemiol. 2007; 166: 1280-7.pubmed

コホート
日本人とハワイの日系人(いずれも40~49歳)において,潜在性動脈硬化の進展度を冠動脈カルシウムスコアにより比較することを目的として検討を行った。

2001~2005年に滋賀県草津市の住民登録より無作為に抽出された40~50歳の地域住民男性311人,および米国ハワイ州に住んでおり,ホノルル心臓調査参加者の子供が登録されたリストより無作為に抽出された40~50歳の日系アメリカ人(2世または3世)男性300人の計611人(いずれも心血管疾患,1型糖尿病,皮膚癌を除く過去2年以内の癌,腎不全,家族性高脂血症の既往なし)。

潜在性動脈硬化については,電子線CT(electron beam computed tomography, EBCT)を用いて,冠動脈カルシウム(coronary artery calcification, CAC)スコアとして評価。

高血圧の定義: 収縮期血圧140 mmHg以上,拡張期血圧90 mmHg以上,または降圧薬服用。
糖尿病の定義: 空腹時血糖126 mg/dL以上,または糖尿病治療。
高脂血症の定義: LDL-C 160 mg/dL以上または脂質低下治療。
結 果
◇ 冠動脈カルシウム(coronary artery calcification, CAC)スコアの分布の比較
CACスコアが高い人の割合は,日本よりハワイのほうが有意に高かった。
・ CACスコア>0: 日本31.2 %,ハワイ49.3 % (P<0.001)
・ CACスコア≧10: 11.6 %,32.0 % (P<0.001)
・ CACスコア≧100: 2.3 %,13.3 % (P<0.001)

CACスコアの中央値は両コホートとも0だったが,日本のCACスコアの最大値は538であるのに対し,ハワイでは3170だった。また,80パーセンタイル値は日本3.4,ハワイ51.4だった(P<0.001)。この有意差は,多変量調整を行っても変わらなかった(P=0.007)。
CACスコア>0の人のみで解析を行うと,中央値は日本5.7,ハワイ34.2で(P<0.001),80パーセンタイル値は日本で36.6,ハワイで141.4だった(P<0.001)。

◇ 背景因子の比較
日本でハワイよりも有意に高い値を示したのは,喫煙率,以前喫煙していた人の割合,LDL-C,HDL-C,ホモシステイン,飲酒量,魚の摂取,大豆製品の摂取。
一方,ハワイで日本よりも有意に高い値を示したのは,年齢,BMI,収縮期血圧,降圧治療,糖尿病,空腹時血糖,血中インスリン,高脂血症,脂質低下治療,トリグリセリド,CRP,フィブリノーゲン,親の冠動脈疾患既往,座ることが多い職業,牛肉または豚肉の摂取。

◇ CACスコア高値に関連する因子
CACスコア≧10の相対オッズの有意な上昇と関連していたのは,日本では年齢,BMI,LDL-C,飲酒で,ハワイでは年齢と喫煙だった。
各因子の多変量調整相対オッズ(95 %信頼区間)は以下のとおり。
・ 日本
   年齢(+5歳): 2.9 (1.3-6.6,P=0.012)
   BMI(+6 kg/m2): 2.8 (1.1-7.0,P=0.025)
   LDL-C(+50 mg/dL): 2.1 (1.2-3.8,P=0.011)
   飲酒(+36 g/日): 1.7 (1.1-2.7,P=0.028)
・ ハワイ
   年齢(+5歳): 2.0 (1.2-3.4,P=0.007)
   喫煙: 3.2 (1.5-6.9,P=0.002)

◇ 結論
日本人とハワイの日系人(40~49歳)において,潜在性動脈硬化の進展度を冠動脈カルシウム(CAC)スコアにより比較することを目的として検討を行った。その結果,ハワイではCACスコア≧10の割合が日本の約3倍であり,対象者が若い年齢層にあるにもかかわらず,顕著な閉塞性動脈硬化が疑われるレベルの冠動脈カルシウムがみとめられた。以上の結果より,共通した遺伝的背景をもつ日本本土の日本人においても,生活習慣の欧米化がさらに進むことによって同程度の動脈硬化の進展が起こるおそれがあると考えられる。


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