[2008年文献] 白人男性ではlarge-VLDLが高くlarge-HDLが低かったが,頸動脈IMTとの関連は日本人と同様だった
白人男性では日本人男性よりも頸動脈内膜-中膜肥厚(IMT)が進んでいるが,LDL-Cレベルは同程度であることが示されている。そこで,LDL-Cレベルとは独立に頸動脈IMTと関連するとされている各種リポ蛋白分画の血中濃度分布および平均粒子サイズと頸動脈IMTとの関連を断面解析により検討した結果,白人男性では日本人男性よりもlarge-VLDLが高く,large-HDLが低いことがわかった。頸動脈IMTは白人男性のほうが日本人男性よりも有意に高い値を示したが,この違いは,以上のような各種リポ蛋白分画の血中濃度分布の違いにより説明できるものではなかった。
Sekikawa A, et al. Intima-media thickness of the carotid artery and the distribution of lipoprotein subclasses in men aged 40 to 49 years between whites in the United States and the Japanese in Japan for the ERA JUMP study. Metabolism. 2008; 57: 177-82.
- コホート
- 白人男性では日本人男性よりも頸動脈内膜-中膜肥厚(IMT)が進んでいるが,LDL-Cレベルは同程度であることが示されている。そこで,LDL-Cレベルとは独立に頸動脈IMTと関連するとされている各種リポ蛋白分画の血中濃度分布および平均粒子サイズと頸動脈IMTとの関連を断面解析により検討した。
第二次世界大戦後出生コホート(Post World War II Birth Cohort)。
2002~2005年に滋賀県草津市の住民基本台帳から無作為に抽出された40~49歳の地域住民男性250人,および米国ペンシルベニア州アレゲーニーの有権者登録リストから無作為に抽出された40~49歳の白人男性243人の計493人(いずれも心血管疾患既往なし)。
以下のリポ蛋白の平均粒子サイズ,および各分画の血中濃度を調べて検討を行った。
(1) 超低密度リポ蛋白(VLDL): 総VLDL,small-VLDL,medium-VLDL,large-VLDL
(2) 低密度リポ蛋白(LDL): 総LDL,中間比重リポ蛋白(intermediate-density lipoprotein: IDL),large-LDL
(3) 高密度リポ蛋白(HDL): 総HDL,small-HDL,medium-HDL,large-HDL
高血圧の定義は,収縮期血圧140 mmHg以上,拡張期血圧90 mmHg以上,または降圧薬服用。 - 結 果
- ◇ 背景因子の比較
日本人男性は,白人男性にくらべて拡張期血圧,HDL-C,空腹時血糖,喫煙率,飲酒率,高血圧の割合が高かった。
日本人男性と白人男性との間で有意な差がみとめられた項目は以下のとおり(それぞれ白人,日本人の値)。
BMI(kg/m2): 27.5,23.8 (P<0.01)
拡張期血圧(mmHg): 73.5,76.3 (P<0.01)
HDL-C(mg/dL): 47.9,53.7 (P<0.01)
空腹時血糖(mg/dL): 99.5,105.7 (P<0.01)
血中インスリン(pmol/L): 100.9,72.0 (P<0.01)
フィブリノーゲン(micromol/L): 8.60,7.38 (P<0.01)
CRP(mg/L): 0.85,0.31 (P<0.01)
喫煙率(%): 5.6,49.8 (P<0.01)
週2回以上飲酒する人の割合(%): 47.0,66.4 (P<0.01)
高血圧(%): 13.5,26.1 (P<0.01)
収縮期血圧,総コレステロール,LDL-C,トリグリセリドでは有意な差はみとめられなかった。
◇ 頸動脈内膜-中膜厚(imtima-media thickness: IMT)の比較
頸動脈IMTは,白人男性0.676 mm,日本人男性0.613 mmと,白人男性のほうが有意に高い値を示した(P<0.01)。
この結果は,各種リポ蛋白分画,およびその他の因子による多変量調整を行ったうえでも同様だった。
◇ リポ蛋白分画の血中濃度分布の比較
白人男性で,日本人男性にくらべて有意に高い値を示したのは,large-VLDL,総LDL,中間比重リポ蛋白(IDL),small-HDL,VLDL粒子サイズ。
日本人男性で,白人男性にくらべて有意に高い値を示したのは,総HDL,large-HDL,small-HDL,medium-HDL,HDL粒子サイズ。
◇ リポ蛋白と頸動脈IMT
各種リポ蛋白と頸動脈IMTとの関連について,日本人男性と白人男性との間に違いはみとめられなかった。
白人男性の各種リポ蛋白には,血清脂質とは独立に頸動脈IMTと関連しているものが多かったが,日本人では血清脂質と独立した相関はみられなかった。
・ VLDL: 頸動脈IMTとの有意な相関を示したのはlarge-VLDLとVLDL粒子サイズ(白人男性のみ)。ただし,トリグリセリドで調整すると,有意な相関は消失した。
・ LDL: 日本人男性,白人男性ともに,頸動脈IMTとの有意な相関を示したのは総LDLと中間比重リポ蛋白で,有意な負の相関を示したのはsmall-LDLとLDL粒子サイズ。白人男性の総LDL,small-LDL,LDL粒子サイズは,いずれもLDL-Cとは独立した相関を示していた。
・ HDL: 日本人男性,白人男性ともに,頸動脈IMTとの有意な負の相関を示したのはlarge-HDLとHDL粒子サイズ。白人男性では,いずれもHDL-Cとは独立した相関を示していた。
◇ 結論
白人男性では日本人男性よりも頸動脈内膜-中膜肥厚(IMT)が進んでいるが,LDL-Cレベルは同程度であることが示されている。そこで,LDL-Cレベルとは独立に頸動脈IMTと関連するとされている各種リポ蛋白分画の血中濃度分布および平均粒子サイズと頸動脈IMTとの関連を断面解析により検討した結果,白人男性では日本人男性よりもlarge-VLDLが高く,large-HDLが低いことがわかった。頸動脈IMTは白人男性のほうが日本人男性よりも有意に高い値を示したが,この違いは,以上のような各種リポ蛋白分画の血中濃度分布の違いにより説明できるものではなかった。