[2005年文献] 危険因子プロファイルが悪くても日本人男性の潜在性動脈硬化は進展していなかった
日本人男性とアメリカ人男性(40~49歳)において,電子線CT(EBCT)で評価した潜在性動脈硬化の進展度およびその背景因子を断面解析により比較した。その結果,日本人男性は血圧が高く,総コレステロール値や喫煙率も高いなど,危険因子プロファイルがアメリカ人男性よりも好ましくないものの,冠動脈カルシウムは顕著に少ないことが示された。この理由は不明であるが,日本人が動脈硬化に予防的に働くなんらかの因子(たとえばHDL-C)をもっている可能性が考えられる。
Sekikawa A, et al. Much lower prevalence of coronary calcium detected by electron-beam computed tomography among men aged 40-49 in Japan than in the US, despite a less favorable profile of major risk factors. Int J Epidemiol. 2005; 34: 173-9.
- コホート
- 日本人男性とアメリカ人男性(いずれも40~49歳)において,電子線CT(EBCT)で評価した潜在性動脈硬化の進展度およびその背景因子を比較することを目的として断面解析を行った。
第二次世界大戦後出生コホート(Post World War II Birth Cohort)。
・ 日本(滋賀県草津市)
住民基本台帳から無作為に抽出され,2001年5月~2002年12月の期間に電話連絡に応じた40~49歳の地域住民男性203人のうち,参加に同意した100人(心血管疾患,1型糖尿病,皮膚癌を除く2年以内の癌,腎不全,家族性高脂血症の既往なし)。うち,CT画像に不備があった2人を除外した。
・ 米国(ペンシルベニア州アレゲーニー)
2002年6月~10月の期間に,ピッツバーグ大学医療センター健康保険(おもに大学関係者が加入)による参加者公募に応じた40~49歳の男性100人(心血管疾患,1型糖尿病,皮膚癌を除く2年以内の癌,腎不全,家族性高脂血症の既往なし)。うち白人は99人。
潜在性動脈硬化については,電子線CT(electron beam computed tomography, EBCT)を用いて,冠動脈カルシウム(coronary artery calcification, CAC)スコアとして評価。 - 結 果
- ◇ 背景因子の比較
多くの因子について,日本人男性のほうが好ましくない値を示していた。
有意差がみとめられた項目は以下のとおり(それぞれアメリカ人,日本人の値)。
収縮期血圧(mmHg): 113.7,122.6 (P<0.01)
総コレステロール(mg/dL): 192.6,220.8 (P<0.01)
HDL-C(mg/dL): 46.0,54.8 (P<0.01)
LDL-C(mg/dL): 119.7,135.9 (P=0.01)
喫煙率(%): 15.0,48.0 (P<0.01)
毎日飲酒する人の割合(%): 16.0,45.9 (P<0.01)
空腹時血糖(mg/dL): 95.2,103.3 (P<0.01)
血中インスリン(pmol/L): 86.8,56.9 (P<0.01)
BMI(kg/m2): 27.0,23.3 (P<0.01)
腹囲(cm): 96.4,84.7 (P<0.01)
身長(cm): 180.6,170.2 (P<0.01)
CRP(mg/L): 0.9,0.43 (P<0.01)
拡張期血圧,トリグリセリド,フィブリノーゲンでは有意な差はみとめられなかった。
◇ 冠動脈カルシウム(coronary artery calcification, CAC)スコアの比較
アメリカ人では,日本人にくらべて顕著にCACスコアが高いことがわかった。
CACスコア>0の人は,日本人で13 %,アメリカ人で47 %。
CACスコア≧10の人は,日本人で5 %,アメリカ人で26 %。
◇ 冠動脈カルシウムに関連する因子
集団内で冠動脈カルシウムと有意な関連を示した因子は以下のとおり。
・ 米国
空腹時血糖(mg/dL): CAC>0の人で97.7,CAC=0の人で93.1 (P<0.01)
BMI(kg/m2): 27.9,26.3 (P=0.02)
腹囲(cm): 98.7,94.4 (P=0.03)
・ 日本
喫煙率(%): 76.9,43.5 (P=0.03)
フィブリノーゲン(micromol/L): 7.76,6.82 (P=0.03)
◇ 結論
日本人男性とアメリカ人男性(40~49歳)において,電子線CT(EBCT)で評価した潜在性動脈硬化の進展度およびその背景因子を断面解析により比較した。その結果,日本人男性は血圧が高く,総コレステロール値や喫煙率も高いなど,危険因子プロファイルがアメリカ人男性よりも好ましくないものの,冠動脈カルシウムは顕著に少ないことが示された。この理由は不明であるが,日本人が動脈硬化に予防的に働くなんらかの因子(たとえばHDL-C)をもっている可能性が考えられる。