[2008年文献] 韓国人男性の頸動脈IMTは,日本人男性よりも高い
遺伝的に近い日本人と韓国人における頸動脈IMTを比較したはじめての報告である。韓国では1980年代以降,冠動脈疾患死が増加しているが,日本では1970年代以降,減少している。遺伝的背景や生活習慣の欧米化の程度などが近似したこの2国間で,こうした違いが表れた要因の探索を目的として,検討が行われた。その結果,40~49歳の韓国人男性は,日本人男性よりも有意に高い頸動脈IMTを示すことが明らかになった。この差がメタボリックシンドロームやその他の既知の危険因子の影響を受けていなかったことから,頸動脈IMTには今回検討されなかった環境因子が寄与している可能性が考えられる。
Choo J, et al. Difference in carotid intima-media thickness between Korean and Japanese men. Ann Epidemiol. 2008; 18: 310-5.
- コホート
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第二次世界大戦後出生コホート(Post World War II Birth Cohort)。
・日本(滋賀県草津市)
2003~2004年に住民基本台帳から無作為に抽出され,心血管疾患,1型糖尿病,皮膚癌を除く過去2年以内の癌,腎不全,家族性高脂血症の既往のない40~49歳の地域住民男性250人。
・韓国(京畿道安山市)
現在進行中の前向きコホート研究であるKorean Health and Genome Study(KHGS)の対象者である40~49歳の地域住民男性から無作為に抽出され,心血管疾患,1型糖尿病,皮膚癌を除く過去2年以内の癌,腎不全,家族性高脂血症の既往のない102人。
日本,韓国ともに参加率は約50 %。
超音波により頸動脈内膜-中膜厚(intima-media thickness: IMT)を評価。
高血圧の定義: 収縮期血圧140 mmHg以上,拡張期血圧90 mmHg以上,または降圧薬服用。
糖尿病の定義: 空腹時血糖126 mg/dL以上,または糖尿病治療。
メタボリックシンドロームの定義: NCEP-ATP III基準の要素を3つ以上満たすもの。 - 結 果
- ◇ 背景因子
韓国人のほうが日本人よりも望ましい値を示していたのは,総コレステロール,LDL-C,空腹時血糖,喫煙率,喫煙量。
日本人と韓国人で有意な差がみとめられた項目は以下のとおり(それぞれ韓国人,日本人の値)。
BMI(kg/m2): 24.6,23.8 (P=0.001)
拡張期血圧(mmHg): 80.0,76.5 (P=0.006)
総コレステロール(mg/dL): 182.0,218.5 (P<0.001)
LDL-C(mg/dL): 111.3,134.1 (P<0.001)
HDL-C(mg/dL): 41.9,53.6 (P<0.001)
空腹時血糖(mg/dL): 100.0,105.9 (P<0.001)
空腹時血中インスリン(microIU/mL):11.5,10.4 (P=0.026)
教育年数(年): 13.3,14.3 (P=0.001)
喫煙率(%): 33.3,49.2 (P=0.009)
喫煙量(箱・年): 10.3,18.9 (P=0.003)
腹囲,収縮期血圧,トリグリセリド,総コレステロール/HDL-C比,メタボリックシンドローム,飲酒率,飲酒量,高血圧,糖尿病,脂質低下薬治療では有意差なし。
◇ 頸動脈内膜-中膜厚(intima-media thickness: IMT)
韓国人の頸動脈IMT(0.654 mm)は,日本人(0.616 mm)よりも有意に高かった。この結果は,年齢,BMI,血中脂質,血糖値,喫煙,メタボリックシンドローム,高血圧,糖尿病などにより調整を行っても変わらなかった。
日本人でも韓国人でも,頸動脈IMTはほぼ正規分布に近い形を示した。
◇ 頸動脈IMTに関連する因子
・ 韓国: 頸動脈IMTと有意な相関を示したのは,年齢,収縮期血圧,拡張期血圧,総コレステロール,メタボリックシンドローム。
・ 日本: 頸動脈IMTと有意な相関を示したのは,年齢,BMI,腹囲,収縮期血圧,拡張期血圧,LDL-C,総コレステロール/HDL-C比,空腹時血糖,メタボリックシンドローム,高血圧,糖尿病。
◇ 結論
遺伝的に近い日本人と韓国人における頸動脈IMTを比較したはじめての報告である。韓国では1980年代以降,冠動脈疾患死が増加しているが,日本では1970年代以降,減少している。遺伝的背景や生活習慣の欧米化の程度などが近似したこの2国間で,こうした違いが表れた要因の探索を目的として,検討が行われた。その結果,40~49歳の韓国人男性は,日本人男性よりも有意に高い頸動脈IMTを示すことが明らかになった。この差がメタボリックシンドロームやその他の既知の危険因子の影響を受けていなかったことから,頸動脈IMTには今回検討されなかった環境因子が寄与している可能性が考えられる。