[2013年文献] 日本人男性では,喫煙量の多い喫煙経験者における冠動脈石灰化および大動脈石灰化のリスクが高い
先進国のなかで喫煙率の高い日本および韓国に住む40歳代の男性を対象として,喫煙状況と冠動脈および大動脈の石灰化との関連を断面解析により検討した。その結果,日本人男性では,喫煙量の多い喫煙経験者で,喫煙未経験者に比した有意な冠動脈石灰化および大動脈石灰化のリスク増加がみとめられた。一方,韓国人男性では,喫煙量の多い喫煙経験者で有意な大動脈石灰化リスクの増加がみられたが,喫煙状況と冠動脈石灰化との関連はみられなかった。この結果には,韓国人男性の平均LDL-C値が116.0 mg/dLと低かったことが影響している可能性がある。
Hirooka N, et al. Influence of cigarette smoking on coronary artery and aortic calcium among random samples from populations of middle-aged Japanese and Korean men. J Epidemiol Community Health. 2013; 67: 119-24.
- コホート
- 2002~2006年に,滋賀県草津市の住民から無作為に抽出された40~49歳の日本人男性313人,ならびに韓国京畿道安山市の住民から無作為に抽出された40~49歳の韓国人男性302人(断面解析)。
電子線CTを用いて,冠動脈の石灰化(coronary artery calcification: CAC)および大動脈の石灰化(aortic calcification: AC)の状況をAgatstonスコアで評価した。
冠動脈についてはスコア≧10を「CACあり」とし,大動脈についてはスコア>0,およびスコア≧100の2つのカットオフ値を用いた。
喫煙状況については,喫煙未経験,喫煙経験あり(現在禁煙・現在喫煙を問わず,喫煙量[箱・年]が中央値未満),喫煙経験あり(現在喫煙・現在禁煙を問わず,喫煙量が中央値以上)の3つのカテゴリーを用いた。 - 結 果
- ◇ 対象背景
おもな対象背景は以下のとおり。
年齢: 日本人男性45.1歳,韓国人男性44.8歳
喫煙経験あり: 49.2%,37.7%(P<0.01)
喫煙経験ありの人の喫煙量: 19.7箱・年,14.1箱・年(P<0.001)
毎日飲酒する人: 67.3%,44.0%(P<0.001)
毎日飲酒する人のアルコール摂取量: 26.8 g/日,21.1 g/日
BMI: 23.7 kg/m2,24.7 kg/m2(P<0.001)
空腹時血糖値: 106.8 mg/dL,102.9 mg/dL(P<0.05)
総コレステロール: 217.2 mg/dL,192.8 mg/dL(P<0.001)
トリグリセリド: 154.9 mg/dL,160.5 mg/dL
HDL-C: 54.1 mg/dL,45.6 mg/dL(P<0.001)
LDL-C: 132.2 mg/dL,116.0 mg/dL(P<0.001)
収縮期血圧: 125.0 mmHg,121.6 mmHg(P<0.01)
拡張期血圧: 76.5 mg/dL,76.2 mg/dL
冠動脈石灰化(CAC)あり: 11.5%,10.6%
大動脈石灰化(AC)あり(スコア>0): 35.5%,68.9%(P<0.001)
ACあり(スコア≧100): 19.2%,23.5%
◇ 喫煙状況とCACおよびACの割合
喫煙状況ごとのCACおよびACの割合(95%信頼区間)は以下のとおりであった(*P<0.05 vs. 喫煙未経験)。
・日本人男性
CACあり: 喫煙未経験5.3%(1.8-14.4),喫煙経験あり(16.0箱・年未満)7.9%(4.4-14.0),喫煙経験あり(16.0箱・年以上)17.7%(12.1-25.2)*
ACあり(スコア>0): 19.3%(11.1-31.3),25.4%(18.6-33.7),52.3%(43.8-60.7)*
ACあり(スコア≧100): 3.5%(1.0-11.9),9.5%(5.5-9.5),35.4%(27.7-43.9)*
・韓国人男性
CACあり: 喫煙未経験9.0%(95%信頼区間4.4-17.4),喫煙経験あり(18.0箱・年未満)9.0%(5.0-15.8),喫煙経験あり(18.0箱・年以上)13.4%(8.3-20.9)
ACあり(スコア>0): 69.2%(58.3-78.4),63.1%(53.8-71.5),75.0%(66.2-82.1)
ACあり(スコア≧100): 11.5%(6.2-20.5),23.4%(16.5-32.1),32.1%(24.2-42.3)*
◇ 喫煙状況とCACおよびACのリスク
喫煙経験ありの人における,喫煙未経験に比したCACおよびACの多変量調整オッズ比(95%信頼区間)†は以下のとおり(*P<0.05 vs. 喫煙未経験)。
日本人男性ではCACおよびACについて,喫煙量の多い経験者における有意なリスク増加がみられたが,韓国人男性では,スコア≧100で評価したACについてのみ,喫煙量の多い経験者での有意なリスク増加がみとめられた。
(†年齢,収縮期血圧,HDL-C,LDL-C,BMI,空腹時血糖,アルコール摂取量で調整)。
・日本人男性
CAC: 喫煙経験あり(16.0箱・年未満)1.0(0.2-4.2),喫煙経験あり(16.0箱・年以上)2.9(0.8-11.3)
AC(スコア>0): 1.3(0.6-2.9),4.1(1.8-9.4)*
AC(スコア≧100): 2.0(0.4-9.8),10.4(2.3-47.1)*
・韓国人男性
CAC: 喫煙経験あり(18.0箱・年未満)0.9(0.3-2.4),喫煙経験あり(18.0箱・年以上)1.3(0.5-3.8)
AC(スコア>0): 0.7(0.4-1.4),1.1(0.5-2.4)
AC(スコア≧100): 2.1(0.9-4.9),3.6(1.5-8.6)*
◇ 結論
先進国のなかで喫煙率の高い日本および韓国に住む40歳代の男性を対象として,喫煙状況と冠動脈および大動脈の石灰化との関連を断面解析により検討した。その結果,日本人男性では,喫煙量の多い喫煙経験者で,喫煙未経験者に比した有意な冠動脈石灰化および大動脈石灰化のリスク増加がみとめられた。一方,韓国人男性では,喫煙量の多い喫煙経験者で有意な大動脈石灰化リスクの増加がみられたが,喫煙状況と冠動脈石灰化との関連はみられなかった。この結果には,韓国人男性の平均LDL-C値が116.0 mg/dLと低かったことが影響している可能性がある。