[2013年文献] 変性LDLの指標であるLOX-1リガンドの血清中濃度は,白人男性では頸動脈IMTと関連するが,日本人男性では関連しない
無作為に抽出された白人および日本人の一般住民男性を対象とした断面解析において,レクチン様酸化LDL受容体-1(LOX-1)に対する,アポリポ蛋白Bを含むリガンド(LAB)の血清中濃度(変性LDLの指標)と潜在性動脈硬化との関連を検討した。その結果,白人男性では,主要な心血管危険因子で調整後も,LABが高いほど頸動脈内膜-中膜肥厚度が大きいという有意な傾向がみとめられたが,日本人男性ではそのような関連はみられなかった。
Okamura T, et al.; ERA JUMP Study Group. LOX-1 ligands containing apolipoprotein B and carotid intima-media thickness in middle-aged community-dwelling US Caucasian and Japanese men. Atherosclerosis. 2013; 229: 240-5.
- コホート
- 2002~2006年に以下の2地域でそれぞれ無作為に抽出された,心血管疾患既往のない40~49歳の男性623人のうち,データに不備のある16人を除いた607人(断面解析)。
滋賀県草津市の日本人男性: 310人
米国ペンシルベニア州アレゲーニーの白人男性: 297人
レクチン様酸化LDL受容体-1(LOX-1)に対する,アポリポ蛋白Bを含むリガンド(ligand containing ApoB: LAB)*の血清中濃度(μg/L)を測定し,その四分位による以下の4つのカテゴリーに対象者を分類した。
[日本人男性]Q1: ≦688,Q2: 689~943,Q3: 944~1258,Q4: ≧1259
[白人男性]Q1: ≦776,Q2: 777~1110,Q3: 1111~1530,Q4: ≧1531
* 血管内皮機能障害を誘発することが知られている変性LDLには,酸化LDLだけでなく,炎症やその他の原因で変性したLDLも含まれるため,従来の抗酸化LDL抗体(特定の酸化LDLの抗原部位のみを認識する)を用いた血中濃度測定法には課題があった。そこで,変性LDLの受容体であり,その内皮機能障害および動脈硬化作用を介すると考えられているLOX-1に着目し,これに結合するリガンド(LAB)の血清中濃度を測定して変性LDLの指標とした。高値ほど催動脈硬化作用が強いと考えられる。
頸動脈超音波検査により,左右の頸動脈における総頸動脈(CCA,近位と遠位の両方),総頸動脈球部(bulb),内頸動脈(ICA)の内膜-中膜肥厚度(IMT)をそれぞれ測定し,これら8つの値の平均を「平均IMT」とした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
日本人男性で,白人男性にくらべて有意に高い値を示していたのはHDL-C,高血圧の割合,収縮期血圧,拡張期血圧,CRP,喫煙率,および飲酒率で,有意に低い値を示していたのはBMI,脂質低下薬の服用率であった。
レクチン様酸化LDL受容体-1(LOX-1)に対する,アポリポ蛋白Bを含むリガンド(ligand containing ApoB: LAB)の中央値は,白人男性1321 μg/L,日本人男性940 μg/Lで(P<0.001),可溶性LOX-1の中央値はそれぞれ520 ng/L,328 ng/Lであった(P<0.001)。
平均IMTは,白人男性0.678 mm,日本人男性0.614 mm(P<0.001)。
◇ LABに関連する背景因子
白人男性において,LABが高いカテゴリーほど有意に高い値を示していたのはLDL-C,全LDL粒子,トリグリセリド,CRP,喫煙率および平均IMTで,有意に低い値を示していたのはHDL-Cであった(すべてP<0.05)。
一方,日本人男性において,LABが高いカテゴリーほど有意に高い値を示していたのは可溶性LOX-1,BMI,LDL-C,全LDL粒子,およびトリグリセリドで,有意に低い値を示していたのはHDL-C,降圧薬服用率,および飲酒率であった(すべてP<0.05)。
◇ LABと頸動脈の潜在性動脈硬化
白人男性と日本人男性のそれぞれにおいて,LABの四分位によるカテゴリー間で平均IMTを比較した結果は以下のとおりで,白人男性でのみ,LABと平均IMTの有意な関連がみとめられた(P=0.020)。
[日本人男性]Q1: 0.609 mm,Q2: 0.605 mm,Q3: 0.624 mm,Q4: 0.618 mm
[白人男性]Q1: 0.653 mm,Q2: 0.667 mm,Q3: 0.688 mm,Q4: 0.702 mm
線形回帰分析において,LAB(対数変換)は,白人男性では多変量調整†後も平均IMTと有意に関連していたが(P=0.004),日本人男性では有意な関連はみられなかった(P=0.973)。
(†年齢,HDL-C,トリグリセリド,高血圧,糖尿病,BMI,可溶性LOX-1,喫煙,飲酒,脂質低下薬服用,CRP,LDL-Cおよび全LDL粒子で調整)
以上の結果は,脂質低下薬の服用者を除外した解析でも同様であった。
◇ 結論
無作為に抽出された白人および日本人の一般住民男性を対象とした断面解析において,レクチン様酸化LDL受容体-1(LOX-1)に対する,アポリポ蛋白Bを含むリガンド(LAB)の血清中濃度(変性LDLの指標)と潜在性動脈硬化との関連を検討した。その結果,白人男性では,主要な心血管危険因子で調整後も,LABが高いほど頸動脈内膜-中膜肥厚度が大きいという有意な傾向がみとめられたが,日本人男性ではそのような関連はみられなかった。