[2014年文献] 日本人男性の冠動脈石灰化の発症率は白人より低く,その差には血清長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸値が関与している
滋賀県草津市ならびに米国ペンシルベニア州アレゲーニーの地域住民から無作為に抽出された40~49歳の男性を対象とした前向きコホート研究によって,「冠動脈石灰化(CAC)の発症率は白人男性にくらべて日本人男性で低く,その差には血清長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸(LCn3PUFA)値の高さが関与している」という仮説を検討した。その結果,CACの発症率は日本人で白人よりも有意に低かった。この差は,既知の心血管危険因子で調整後も同様であったが,血清LCn3PUFAで調整をすると有意差が消失した。前向きの検討から得られた今回の結果は,以前の横断的な検討(抄録へ)による知見を発展させるものであり,日本人では食事からのLCn3PUFAの摂取量が多いことが動脈硬化の進展を遅くしている可能性があらためて示唆された。
Sekikawa A, et al.; ERA JUMP Study Group. Long chain n-3 polyunsaturated fatty acids and incidence rate of coronary artery calcification in Japanese men in Japan and white men in the USA: population based prospective cohort study. Heart. 2014; 100: 569-73.
- コホート
- 2002~2006年に滋賀県草津市の住民から無作為に抽出された40~49歳の日本人男性310人,ならびに2002~2006年に米国ペンシルベニア州アレゲーニーの住民から無作為に抽出された心血管疾患既往のない40~49歳の白人男性303人にベースライン健診と電子線CT検査を施行。このなかでそれぞれ262人(83.7%),245人(79.0%)が,2007~2010年に再度,追跡調査として電子線CT検査を受けたが,9人は冠動脈カルシウムスコア(coronary calcium score: CCS)のデータがなかったため除外。
今回の検討ではこのうち,電子線CTにより測定したベースライン時のCCS=0であった日本人男性175人,ならびに白人男性113人を対象とし,2007~2010年の追跡調査時にCCS≧10であった場合に冠動脈石灰化(coronary artery calcification: CAC)発症と定義した。
追跡期間は日本人男性で平均6.2年間,白人男性では平均4.6年間。
血清中のエイコサペンタエン酸(EPA),ドコサペンタエン酸(DPA),およびドコサヘキサエン酸(DHA)の濃度を測定し,血清中の総脂肪酸に対するこれらの割合(%)の和を,血清長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸(LCn3PUFA)値とした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
年齢: 日本人44.9歳,白人44.7歳,BMI: 23.2,26.3 kg/m2(P<0.05),収縮期血圧: 124.0,121.6 mmHg,降圧薬服用率: 4.0%,5.3%,LDL-C: 129,133 mg/dL,HDL-C: 54,48 mg/dL(P<0.05),トリグリセリド: 131,120 mg/dL,脂質低下薬服用率: 1.7%,8.0%,血糖: 105,99 mg/dL(P<0.05),糖尿病: 4.6%,1.8%,CRP: 0.3,0.83 mg/L(P<0.05),ベースライン喫煙率: 48.6%,8.0%(P<0.05),定期的飲酒率68.0%,54.9%,エタノール換算アルコール摂取量: 14.0,8.2 g/日,血清長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸(LCn3PUFA): 9.08%,3.84%(P<0.01),血清エイコサペンタエン酸(EPA): 2.36%,0.79%(P<0.01),血清ドコサヘキサエン酸(DHA): 5.88%,2.38%(P<0.01)。
追跡期間中に冠動脈石灰化(CAC)を発症したのは,日本人10人,白人15人。
◇ CAC発症に関連する因子
日本人と白人のそれぞれにおいて,CAC発症者と非発症者とのあいだで背景因子の比較を行った。
その結果,日本人の収縮期血圧(発症者140.6 mmHg,非発症者123.0 mmHg,P<0.01)を除いて,有意差のみられた因子はなかった。
◇ 日米のCAC発症率比に関連する因子
100人・年あたりの発症率はそれぞれ0.9,2.9と,日本人で有意に低かった(P<0.01)。
日本人に対する白人のCACの発症率比は0.321(95%信頼区間0.150-0.690,P<0.01)であり,これは年齢,収縮期血圧,LDL-C,HDL-C,トリグリセリド,糖尿病,BMI,喫煙量,ならびに降圧薬服用による調整を行っても同様であった(発症率比0.262,95%信頼区間0.094-0.731,P=0.01)。
ただし,さらに血清LCn3PUFAによる調整を行うと,発症率比は0.376(0.090-1.572,P=0.18)と,有意ではなくなった。
◇ 結論
滋賀県草津市ならびに米国ペンシルベニア州アレゲーニーの地域住民から無作為に抽出された40~49歳の男性を対象とした前向きコホート研究によって,「冠動脈石灰化(CAC)の発症率は白人男性にくらべて日本人男性で低く,その差には血清長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸(LCn3PUFA)値の高さが関与している」という仮説を検討した。その結果,CACの発症率は日本人で白人よりも有意に低かった。この差は,既知の心血管危険因子で調整後も同様であったが,血清LCn3PUFAで調整をすると有意差が消失した。前向きの検討から得られた今回の結果は,以前の横断的な検討(抄録へ)による知見を発展させるものであり,日本人では食事からのLCn3PUFAの摂取量が多いことが動脈硬化の進展を遅くしている可能性があらためて示唆された。