[2018年文献] 日本人男性では,腹部脂肪全体に占める内臓脂肪の割合が日系アメリカ人男性より高い

腹部脂肪の分布は,人種や環境因子によって異なることが知られているが,これまでに,人種が同じで環境が異なる場合の比較を行った検討はほとんどない。そこで,40~49歳の日本人男性,日系アメリカ人男性,白人男性,ならびに韓国人男性を対象とした断面解析を行い,腹部CT検査で評価した内臓脂肪(VAT)および皮下脂肪(SAT)の分布について比較・検討した。その結果,人種が同じで環境が異なる場合は,SAT面積,ならびに腹部脂肪全体に占めるVATの割合が有意に異なっており,日本人男性ではVATの割合が日系アメリカ人男性より高くなっていた。一方,人種が異なるが環境が似ている場合は,VAT面積やVATの割合に有意差はほとんどみられなかった。今後の研究によって,腹部脂肪の分布に影響を及ぼす環境因子についての検討が必要と考えられる。

Kadowaki S, et al.; ERA JUMP Study Group. International Comparison of Abdominal Fat Distribution Among Four Populations: The ERA-JUMP Study. Metab Syndr Relat Disord. 2018; 16: 166-173.pubmed

コホート
2002~2006年に以下の4地域でそれぞれ無作為に抽出された40~49歳の男性1227人のうち,CT検査のデータに不備のある15人を除いた1212人(断面解析)。
 滋賀県草津市の日本人男性(310人)
 韓国京畿道安山市に住む韓国人男性(295人)
 米国ハワイ州ホノルルに住む日系アメリカ人男性(300人)
 米国ペンシルベニア州アレゲーニーに住む白人男性(307人)
結 果
◇ 対象背景
おもな対象背景は以下のとおり(*P<0.05 vs. 日本人男性)。

  年齢(歳): 韓国人男性44.8,日本人男性45.1,日系アメリカ人男性46.1*,白人男性45.0
  身長(cm): 169.8,170.2,169.5,180*
  体重(kg): 71.2,68.7,80.7*,90.8*
  BMI(kg/m2): 24.7*,23.7,28.0*,28.0*
  腹囲(cm): 83.4,85.2,94.0*,99.0*
  収縮期血圧(mmHg): 121.6*,125.0,127.7,122.6
  拡張期血圧(mmHg): 76.2,76.5,77.8,73.1*
  空腹時血糖(mg/dL): 102.9*,106.8,112.3*,101.7*
  トリグリセリド(mg/dL): 160.5,154.9,184.5*,151.7
  HDL-C(mg/dL): 45.6*,54.1,50.7*,47.7*
  内臓脂肪組織(visceral adipose tissue: VAT)面積(cm2): 130.4,133.4,173.7*,172.4*
  皮下脂肪組織(subcutaneous adipose tissue: SAT)面積(cm2): 138.1,136.1,232.5*,253.6*
  VAT面積+SAT面積(cm2): 268.5,269.5,406.3*,425.9*
  VAT%: 48.5%,50.0%,43.2%*,41.0%*
  喫煙率: 37.9%,49.2%,12.9%,7.7%
  週2回超の習慣的な飲酒: 44.2%,67.1%,37.3%,44.2%
  エタノール摂取量(g/日): 26.3,26.8,17.8*,10.0*
  勤務時における中程度~強度の身体活動: 25.5%,30.3%,36.3%,22.9%

VAT面積+SAT面積に対するVAT面積の割合

◇ 腹部脂肪の分布に対する人種および環境の影響
BMI(24 kg/m2未満/24 kg/m2以上27 kg/m2未満/27 kg/m2以上)ごとに,各コホートの対象者におけるVAT面積,SAT面積,VAT+SAT面積,ならびにVAT%を比較した。

(1)人種も環境も似ている場合(韓国人男性 vs. 日本人男性)
・VAT面積: いずれのBMIカテゴリーでも有意差はみられなかった。
・SAT面積: いずれのBMIカテゴリーでも有意差はみられなかった。
・VAT+SAT面積: BMI 24 kg/m2以上27 kg/m2未満のカテゴリーでは,日本人男性のほうが有意に高値であった(それぞれ286.2 cm2 vs, 316.1 cm2)。
・VAT%: いずれのBMIカテゴリーでも有意差はみられなかった。

(2)人種が同じだが,環境が異なる場合(日系アメリカ人男性 vs. 日本人男性)
・VAT面積: いずれのBMIカテゴリーでも有意差はみられなかった。
・SAT面積: すべてのBMIカテゴリーで,日系アメリカ人男性のほうが有意に高値であった。
・VAT+SAT面積: BMI 24 kg/m2未満と27 kg/m2以上のカテゴリーでは,日系アメリカ人男性のほうが有意に高値であった。
・VAT%: BMI 24 kg/m2未満と24 kg/m2以上27 kg/m2未満のカテゴリーでは,日本人男性のほうが有意に高値であった。

(3)人種は異なるが,環境は似ている場合(日系アメリカ人男性 vs. 白人男性)
・VAT面積: いずれのBMIカテゴリーでも有意差はみられなかった。
・SAT面積: BMI 27 kg/m2以上のカテゴリーでは,白人男性のほうが有意に高値であった。
・VAT+SAT面積: いずれのBMIカテゴリーでも有意差はみられなかった。
・VAT%: BMI 27 kg/m2以上のカテゴリーでは,日系人男性のほうが有意に高値であった。

(4)人種も環境も異なる場合
日本人男性と白人男性,および韓国人男性と白人男性の比較では,以下のように同様の結果が得られた。
・VAT面積: 白人男性のほうが高値の傾向であった。
・SAT面積: すべてのBMIカテゴリーで,白人男性のほうが有意に高値であった。
・VAT+SAT面積: ほとんどのBMIカテゴリーで,白人男性のほうが有意に高値であった。
・VAT%: すべてのBMIカテゴリーで,日本人男性または韓国人男性のほうが有意に高値であった。

◇ BMIごとにみた心血管危険因子の違い
BMIごとに収縮期血圧,拡張期血圧,空腹時血糖,トリグリセリド,HDL-Cを比較した結果,いずれのBMIカテゴリーでも,日系アメリカ人男性と日系人男性とのあいだには有意差はみとめられなかった。

◇ 多変量調整後の腹部脂肪の分布
24 kg/m2以上27 kg/m2未満の男性における多変量調整後のVAT面積およびSAT面積は以下のとおり(年齢,身長,腹囲,喫煙,飲酒,勤務時の身体活動強度,収縮期血圧,空腹時血糖,トリグリセリドおよびHDL-Cで調整)。

・VAT面積
  韓国人男性: 153.9(95%信頼区間146.0-161.9)
  日本人男性: 148.9(140.4-157.4)
  日系アメリカ人男性: 137.8(128.9-146.8)
  白人男性: 138.3(129.2-147.4)

・SAT面積
  韓国人男性: 168.2(159.8-176.5)
  日本人男性: 159.3(150.4-168.3)
  日系アメリカ人男性: 188.3(178.9-197.7)
  白人男性: 165.8(156.2-175.3)

日本人男性および韓国人男性のVAT%(多変量調整)は,いずれも日系アメリカ人男性にくらべて有意に高値であった(P<0.05)。


◇ 結論
腹部脂肪の分布は,人種や環境因子によって異なることが知られているが,これまでに,人種が同じで環境が異なる場合の比較を行った検討はほとんどない。そこで,40~49歳の日本人男性,日系アメリカ人男性,白人男性,ならびに韓国人男性を対象とした断面解析を行い,腹部CT検査で評価した内臓脂肪(VAT)および皮下脂肪(SAT)の分布について比較・検討した。その結果,人種が同じで環境が異なる場合は,SAT面積,ならびに腹部脂肪全体に占めるVATの割合が有意に異なっており,日本人男性ではVATの割合が日系アメリカ人男性より高くなっていた。一方,人種が異なるが環境が似ている場合は,VAT面積やVATの割合に有意差はほとんどみられなかった。今後の研究によって,腹部脂肪の分布に影響を及ぼす環境因子についての検討が必要と考えられる。


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