[2011年文献] 血漿アルドステロン値はインスリン抵抗性発症の予測因子
インスリン抵抗性をもつ人では高血圧の合併が多いことから,高血圧の発症に重要な役割を果たすアルドステロンの血漿中濃度とインスリン抵抗性との関連について,農村地区の日本人一般住民を対象に,断面解析および縦断解析を行った。その結果,断面解析では,血漿アルドステロン値とHOMA indexとの有意な関連が示された。縦断解析(10年間追跡)では,アルドステロン値が最高三分位にある人では,最低三分位にある人にくらべ,交絡因子で調整後のインスリン抵抗性発症リスクが有意に高かったことより,血漿アルドステロン濃度はインスリン抵抗性発症の予測因子であることが示唆された。
Kumagai E, et al. Plasma aldosterone levels and development of insulin resistance: prospective study in a general population. Hypertension. 2011; 58: 1043-8.
- コホート
- Seven Countries Studyの田主丸コホート
(1)断面解析
1999年,定期健診を受診した40歳以上の田主丸の町民1235人のうち,糖尿病(空腹時血糖値≧126 mg/dL,HbA1c(JDS値)≧6.0%,インスリン治療中または経口血糖降下薬投与中)の147人を除く1088人を対象とした。
(2)縦断解析
(1)の対象者のうち,ベースライン時にインスリン抵抗性(homeostasis model assessment[HOMA]index≧1.73)を有していた123人を除く965人を2009年まで10年間追跡。このうち,死亡した141人,再検診を拒否した260人を除く564人(男性215人,女性349人)を対象とした。
ベースラインと追跡時の血漿アルドステロン値については,朝の採血による値を用いた(ラジオイムノアッセイにより定量)。 - 結 果
- (1)断面解析
対象背景は,平均年齢62.4歳,男性39.1%,平均血漿アルドステロン値3.26 ng/dL。
もっとも多くみられた既往症は高血圧475人(43.6%)であり,このうちI度高血圧は371人(78.1%),II度高血圧は80人(16.8%),III度高血圧は24人(5.1%)であった。
◇ 血漿アルドステロン値に関連する因子
多変量ステップワイズ回帰分析による検討で,血漿アルドステロン値と独立した有意な関連を示した因子は,年齢(β=-0.015,P<0.001),トリグリセリド(β=0.193,P<0.001),脂質異常症治療(β=0.218,P=0.021),HOMA index(β=0.071,P=0.029)であった。
(2)縦断解析
◇ インスリン抵抗性の発症に関連する因子
10年間の追跡期間中にインスリン抵抗性を発症したのは151人。
インスリン抵抗性の人で,非インスリン抵抗性の人にくらべて有意に高い値を示していたベースライン時の因子は,血漿アルドステロン値(P<0.05),年齢(P<0.001),BMI(P<0.01),腹囲(P<0.01),収縮期血圧(P<0.001),拡張期血圧(P<0.01),空腹時血糖(P<0.001),HbA1c(JDS値)(P<0.001),インスリン(P<0.001),HOMA index(P<0.001)で,有意に低い値を示していたのはHDL-C(P<0.01),降圧薬治療中の人の割合(P<0.001)であった。
◇ 血漿アルドステロン値とインスリン抵抗性発症リスク
ベースライン時の血漿アルドステロン値の三分位によるカテゴリー(≦2.5 ng/dL[190人],2.6~4.6 ng/dL[184人],≧4.7 ng/dL[190人])ごとの,インスリン抵抗性の発症者数,および多変量調整相対リスク*(95%信頼区間)は以下のとおりで,血漿アルドステロン値がもっとも高いカテゴリーで有意なリスク増加がみとめられた。
*年齢,性別,BMI,腹囲,HOMA index,収縮期血圧,HDL-C,降圧薬治療により調整
≦2.5 ng/dL:発症36人,相対リスク1.00(対照)
2.6~4.6 ng/dL:58人,1.60(0.97-2.64)
≧4.7 ng/dL:57人,1.71(1.03-2.84,P<0.05)
◇結論
インスリン抵抗性をもつ人では高血圧の合併が多いことから,高血圧の発症に重要な役割を果たすアルドステロンの血漿中濃度とインスリン抵抗性との関連について,農村地区の日本人一般住民を対象に,断面解析および縦断解析を行った。その結果,断面解析では,血漿アルドステロン値とHOMA indexとの有意な関連が示された。縦断解析(10年間追跡)では,アルドステロン値が最高三分位にある人では,最低三分位にある人にくらべ,交絡因子で調整後のインスリン抵抗性発症リスクが有意に高かったことより,血漿アルドステロン濃度はインスリン抵抗性発症の予測因子であることが示唆された。