[2012年文献] 血漿エンドセリン-1高値は全死亡リスク

エンドセリン-1(ET-1)は強力な血管収縮作用をもち,心血管疾患および悪性腫瘍の患者では血漿中ET-1値の上昇が予後因子とされている。一方,一般住民における血漿中ET-1値に関しては,心血管疾患死亡および癌死亡との関連を示す情報は乏しい。そこで,農村地区の日本人一般住民における10年間の前向き追跡研究を実施し,ET-1値と脳血管疾患死亡および癌死亡との関連について検討を行った。その結果,ET-1高値が全死亡リスクと有意に関連することが示されたが,癌死亡および脳血管疾患死亡については,ET-1値との関連はみとめられなかった。

Yokoi K, et al. Plasma Endothelin-1 Level Is a Predictor of 10-Year Mortality in a General Population. Circ J. 2012; 76: 2779-84.pubmed

コホート
Seven Countries Studyの田主丸コホート。
1999年に定期健診を受診した40歳以上の田主丸(現・久留米市)の町民1492人のうち,心筋梗塞,脳卒中,または癌の既往のある人,ならびにQ波異常の12人を除いた1440人(男性580人,女性860人)を,2010年6月まで10年間追跡。

ベースライン時の血漿エンドセリン1(ET-1)値の四分位により,全体を以下のカテゴリーに分けて解析した。
  Q1: ≦3.8 pg/mL (367人)(対照)
  Q2: 3.9~4.8 pg/mL (358人)
  Q3: 4.9~5.8 pg/mL (373人)
  Q4: ≧5.9 pg/mL (342人)
結 果
◇ 対象背景
ベースラインの血漿エンドセリン-1(ET-1)値と有意な関連を示していたのは以下の項目。
平均年齢(歳): Q1 60.9,Q2 60.1,Q3 63.4,Q4 66.4 (P for trend<0.0001)
収縮期血圧(SBP)(mmHg): 132,132,133,137 (P for trend=0.003)
HDL-C(mg/dL): 55,55,57,58 (P for trend<0.001)
推算糸球体濾過量(eGFR)(mL/分/1.73 m2): 63.2,62.8,61.6,58.7 (P for trend<0.001)
尿酸(mg/dL): 4.7,4.9,4.7,5.2 (P for trend<0.001)
降圧薬の服用(%): 18.3,15.4,18.2,24.5 (P for trend=0.018)

追跡期間中の全死亡は175人で,このうち癌死亡は59人,脳血管疾患(CeVD)死亡は36人。

◇ ET-1と死亡リスク
ET-1値のカテゴリーごとの全死亡,癌死亡,CeVD死亡の調整ハザード比(年齢,性別,SBP,HDL-C,eGFR,尿酸,降圧薬服用で調整)は以下のとおりで,ET-1値と全死亡リスクとの有意な関連がみとめられたが,CeVD死亡リスクおよび癌死亡リスクとの関連はみとめられなかった。

・全死亡
  Q1:1.00
  Q2:1.47(95%信頼区間0.91-2.38)
  Q3:0.99(0.61-1.60)
  Q4:1.54(1.09-2.20)

・癌死亡
  Q1:1.00
  Q2:1.70(0.81-3.59)
  Q3:0.87(0.39-1.96)
  Q4:1.28(0.60-2.71)

・CeVD死亡
  Q1:1.00
  Q2:1.39(0.46-4.18)
  Q3:1.37(0.50-3.78)
  Q4:1.23(0.44-3.41)


◇ 結論
エンドセリン-1(ET-1)は強力な血管収縮作用をもち,心血管疾患および悪性腫瘍の患者では血漿中ET-1値の上昇が予後因子とされている。一方,一般住民における血漿中ET-1値に関しては,心血管疾患死亡および癌死亡との関連を示す情報は乏しい。そこで,農村地区の日本人一般住民における10年間の前向き追跡研究を実施し,ET-1値と脳血管疾患死亡および癌死亡との関連について検討を行った。その結果,ET-1高値が全死亡リスクと有意に関連することが示されたが,癌死亡および脳血管疾患死亡については,ET-1値との関連はみとめられなかった。


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