[2009年文献] グルタミン酸を多く摂取する人では血圧が低い

INTERMAP研究ではこれまでに,植物性蛋白質摂取と血圧が独立した負の関連を示すことを報告している。そこで,4か国17集団における断面解析により,植物性蛋白質に多く含まれるアミノ酸であるグルタミン酸の摂取が血圧低下と関連するという仮説を検証した。その結果,食事からのグルタミン酸摂取量は血圧と独立した負の関連を示しており,グルタミン酸が植物性蛋白質摂取と血圧との負の関連に寄与している可能性が示唆された。

Stamler J, et al.; INTERMAP Research Group. Glutamic acid, the main dietary amino acid, and blood pressure: the INTERMAP Study (International Collaborative Study of Macronutrients, Micronutrients and Blood Pressure). Circulation. 2009; 120: 221-8.pubmed

コホート
INTERMAP研究に参加した日本(4集団),中国(3集団),イギリス(2集団)および米国(8集団)の40~59歳の4680人(断面解析)。
結 果
◇ 対象背景
グルタミン酸の平均摂取量は15.7 g/日で,総摂取エネルギーに占める割合は3.0%kJ,総蛋白質摂取に占める割合は20.1%。
グルタミン酸が総蛋白質摂取に占める割合を国ごとにみると,中国がもっとも高く(24.1%),日本がもっとも低く(17.8%),イギリスは20.5%,アメリカは19.8%であった。

国ごとにみた平均収縮期血圧(SBP)は117.2mmHg(日本)~121.3mmHg(中国),拡張期血圧(DBP)は73.2mmHg(中国)~77.3mmHg(イギリス)。

◇ グルタミン酸摂取量と血圧
グルタミン酸摂取量と収縮期血圧は負の関連を示しており,この関連は,グルタミン酸摂取量を総蛋白質摂取に占める割合により評価した場合にもっとも顕著に示された。

重回帰分析において,多変量調整モデル(年齢,性別,特別な食事の有無,サプリメント摂取の有無,心血管疾患または糖尿病の有無,運動量,高血圧家族歴の有無,尿中ナトリウム排泄量,尿中カリウム排泄量,14日間アルコール摂取量,コレステロール摂取量,総飽和脂肪酸摂取量,総多価不飽和脂肪酸摂取量により調整),および,さらにリン,マグネシウム,カルシウム,鉄,食物繊維の摂取によりそれぞれ調整を行ったモデルを用いた解析を行った結果,グルタミン酸摂取量が2 SD(総蛋白質摂取に占める割合が+4.72%)高いと,SBPが1.5~2.5mmHg低く(zスコア*-2.21~-3.66),DBPが1.0~1.6mmHg低いことが示された(zスコア-2.15~-3.57)。

* zスコア=回帰係数/標準誤差。統計的有意性を示しており,zスコア≧1.96で未調整のP≦0.05,zスコア≧2.58で未調整のP≦0.01,zスコア≧3.29で未調整のP≦0.001に相当。

国ごとに算出したグルタミン酸摂取量の四分位数を用いて全対象者を四分位に分け,SBPおよびDBPとの関連を検討した結果,グルタミン酸摂取量が多いほどSBPおよびDBPが低いという有意な関連がみとめられた(SBPのP for trend<0.001,DBPのP for trend=0.12)。

◇ その他のアミノ酸の摂取量と血圧
植物性蛋白質に多く含まれるグルタミン酸以外のアミノ酸(プロリン,フェニルアラニン,セリン,シスチン)についても血圧との関連を検討した結果,シスチン以外の3つのアミノ酸の摂取量はいずれも血圧と負の関連を示したが,その関連およびzスコアはグルタミン酸にくらべて小さかった。
さらに,これら4つのアミノ酸のそれぞれについて,グルタミン酸を変数として加えたモデルによる解析を行い,摂取量(総蛋白質摂取量に占める割合)が2 SD高い場合のSBPおよびDBPの変化量およびzスコアを算出した(コホート,年齢,性別,特別な食事の有無,サプリメント摂取の有無,心血管疾患または糖尿病の有無,運動量,高血圧家族歴の有無,尿中ナトリウム排泄量,尿中カリウム排泄量,14日間アルコール摂取量,コレステロール摂取量,総飽和脂肪酸摂取量,総多価不飽和脂肪酸摂取量,マグネシウム摂取量により調整)。

その結果は以下のとおりで,いずれのアミノ酸による調整を行っても,グルタミン酸摂取量が2 SD高いとSBPが2.0~2.9 mmHg低く,DBPが1.2~2.0 mmHg低いことが示された。グルタミン酸以外のアミノ酸と血圧との関連は弱かった。

・ プロリンとグルタミン酸を含めたモデル
  グルタミン酸(+4.72%): SBP -2.72 mmHg(zスコア-2.51),DBP -2.00 mmHg(-2.82)
  プロリン(+2.54%): SBP 0.30 mmHg(0.26),DBP 0.55 mmHg(0.72)
・ フェニルアラニンとグルタミン酸を含めたモデル
  グルタミン酸(+4.72%): SBP -1.99 mmHg(-2.48),DBP-1.24 mmHg(-2.32)
  フェニルアラニン(+0.35%): SBP -0.72 mmHg(-1.32),DBP-0.63 mmHg(-1.71)
・ セリンとグルタミン酸を含めたモデル
  グルタミン酸(+4.72%): SBP-2.27 mmHg(-2.84),DBP-1.37 mmHg(-2.58)
  セリン(+0.45%): SBP-0.51 mmHg(-0.96),DBP-0.40 mmHg(-1.12)
・ シスチンとグルタミン酸を含めたモデル
  グルタミン酸(+4.72%): SBP-2.88 mmHg(-3.63),DBP-1.56 mmHg(-2.95)
  シスチン(+0.27%): SBP 0.57 mmHg(1.00),DBP-0.09 mmHg(-0.25)

* zスコア=回帰係数/標準誤差。統計的有意性を示しており,zスコア≧1.96で未調整のP≦0.05,zスコア≧2.58で未調整のP≦0.01,zスコア≧3.29で未調整のP≦0.001に相当。


◇結論
INTERMAP研究ではこれまでに,植物性蛋白質摂取と血圧が独立した負の関連を示すことを報告している。そこで,4か国17集団における断面解析により,植物性蛋白質に多く含まれるアミノ酸であるグルタミン酸の摂取が血圧低下と関連するという仮説を検証した。その結果,食事からのグルタミン酸摂取量は血圧と独立した負の関連を示しており,グルタミン酸が植物性蛋白質摂取と血圧との負の関連に寄与している可能性が示唆された。


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