[2013年文献] 生の果物および果物ジュースの摂取量と血圧とのあいだに有意な関連はない
これまで,前向きコホート研究などにおいて,生の果物や野菜の摂取は,心血管疾患(CVD)や脳卒中の発症リスクと負に関連することが示唆されている。また,血圧の上昇は,CVDのリスク因子となることが知られているが,生の果物や果物ジュースの摂取量と血圧との独立した関連について調べた研究は少ない。そこで,日本・中国・英国・米国のINTERMAP参加者を対象として,生の果物ならびに果物ジュースの摂取量と血圧との関連について検討した。その結果,4か国全体では,生の果物および果物ジュースの摂取量と血圧とのあいだに有意な関連はみとめられなかったが,東アジア2か国では拡張期血圧(DBP)と正の関連がみとめられた。また,果物別でみると,東アジア2か国では,リンゴと梨の摂取量とDBPとのあいだに正の関連がみとめられ,4か国全体と欧米2か国では,柑橘類の摂取量とDBPとのあいだに正の関連がみとめられた。しかし,各果物の摂取量と血圧とのあいだに,4か国で一貫した関連はみとめられず,果物の種類によって,血圧への影響が異なる可能性が示唆された。
Oude Griep LM, et al.; for the INTERMAP Research Group. Association of raw fruit and fruit juice consumption with blood pressure: the INTERMAP Study. Am J Clin Nutr. 2013; 97: 1083-91.
- コホート
- INTERMAP研究に参加した日本(4集団),中国(農村部3集団),英国(2集団)および米国(8集団)の40~59歳の4895人のうち,1996~1999年に4回行われた調査のすべてに参加しなかった110人,食事調査への回答が信頼できないと判断された7人,総摂取エネルギーが極端に少なかった(500 kcal/日未満)または極端に多かった(男性8000 kcal/日超,女性5000 kcal/日超)37人,2回行った尿検査のいずれかの検体に不備のあった人,またはその他のデータに不備があったかプロトコル違反のあった61人を除外した4680人(男性2359人,女性2321人)(断面解析)。
4回の受診により,食品の摂取量(4回の24時間思い出し法),血圧(8回)を調査し,24時間蓄尿検査を2回行った。 - 結 果
- ◇ 対象背景
総摂取エネルギー1000 kcalあたりの生の果物の摂取量は,日本(1145人),中国(839人),英国(501人),米国(2195人)で,それぞれ63±56 g,68±70 g,89±87 g,52±65 g,ジュースからの果物の摂取量は,それぞれ5±14 g,0±2 g,27±44 g,46±70 gであった。
よく摂取されていた果物は,リンゴ・梨・柑橘類・バナナで,よく摂取されていた果物ジュースは,柑橘類であった。
生の果物の摂取量が,中央値より少ない人と多い人の背景は以下のとおり(生の果物の摂取量が少ない人 vs. 多い人)。
年齢(歳): (東アジア2か国[日本+中国])49.1 vs. 49.3,(欧米2か国[英国+米国])48.6 vs. 49.6
男性の割合(%): 62.6% vs. 37.2%,56.7% vs. 44.9%
喫煙の習慣(%): 42.2% vs. 23.4%,23.6% vs. 10.2%
飲酒の習慣(%): 19.2% vs. 7.8%,9.7% vs. 7.1%
日常的なサプリメントの摂取(%): 15.0% vs. 15.5%,42.4% vs. 55.7%
収縮期血圧(mm Hg): 119.1 vs. 118.8,120.4 vs. 117.5
拡張期血圧(mm Hg): 73.6 vs. 73.3,74.9 vs. 73.3
総エネルギー摂取量(kcal/日): 2100 vs. 1974,2349 vs. 2111
生の果物の摂取量(g/1000 kcal): 16±15 vs. 106±57,10±11,99±69
ジュースによる果物の摂取量(g/1000 kcal): 3±12 vs. 3±10,36±59 vs. 49±72
◇ 生の果物の摂取量と各栄養素との関連
偏相関分析による,生の果物の摂取量と各栄養素の相関度は,ビタミンC(r=0.50)・食物繊維(r=0.48)・カリウム(r=0.48)・マグネシウム(r=0.30)・24時間後の尿中のカリウム排出量(r=0.27)であった。
また,欧米では,脂肪摂取量と負に関連(r=-0.35)し,野菜由来の蛋白質摂取量と正に関連(r=0.27)した。東アジアでは,砂糖摂取量と正に関連(r=0.52)し,澱粉摂取量と負に関連(r=-0.20)した。
◇ 生の果物と果物ジュースの摂取量と血圧との関連
生の果物の摂取量1000 kcalあたり50 gの増加と血圧との関連は以下のとおり(平均値の差)。4か国全体・欧米・東アジアにおいて,BMIを加えた多変量調整†後も,生の果物の摂取量の増加と収縮期血圧(SBP)とのあいだでは有意な関連はみとめられなかったが,東アジアでは,拡張期血圧(DBP)とのあいだに,有意な正の関連がみとめられた(†年齢,性別,集団,摂取エネルギー量,飲酒量,喫煙歴,教育年数,身体活動の程度,サプリメントの服用習慣,特殊な食事の有無,心血管疾患または糖尿病既往,心血管疾患の家族歴,尿中ナトリウム排出量,降圧薬の服用の有無,低脂肪乳製品の摂取量,生または調理野菜の摂取量,食物繊維の多いシリアルまたは穀物の摂取量,赤身肉または加工肉の摂取量,ナッツ類の摂取量,魚介類の摂取量で調整)。
・SBP
4か国: 0.05([95%信頼区間]-0.26,0.36),P=0.74
欧米: -0.04(-0.39,0.38),P=0.07
東アジア: 0.15(-0.37,0.67),P=0.56
・DBP
4か国: 0.02(-0.07,0.41),P=0.07
欧米: 0.09(-0.18,0.36),P=0.52
東アジア: 0.37(0.22,0.71),P=0.04*
4か国における,ジュースによる果物の摂取量1000 kcalあたり50 g増加と,血圧との関連は以下のとおり。SBP,DBPともに有意な関連はみとめられなかった。
SBP: -0.14(-0.50,0.22),P=0.45
DBP: 0.04(-0.21,0.30),P=0.74
◇ 各種の果物摂取量と血圧との関連
各種の果物(リンゴと梨・柑橘類・バナナ)の摂取量1000 kcalあたり25 gの増加と血圧との関連は以下のとおり。東アジアでは,リンゴと梨の摂取量とDBPのあいだに,4か国と欧米では,柑橘類の摂取量とDBPのあいだに,BMIを加えた多変量調整†後も有意な正の関連がみとめられた。
・リンゴと梨
4か国: [SBP]0.08(-0.25,0.41),P=0.64,[DBP]0.12(-0.10,0.34),P=0.28
欧米: -0.002(-0.48,0.48),P=0.99,-0.13(-0.46,0.34),P=0.44
東アジア: 0.15(-0.31,0.60),P=0.53,0.31(0.02,0.60),P=0.04*
・柑橘類
4か国: 0.24(-0.06,0.54),P=0.12,0.25(0.04,0.46),P=0.02*
欧米: 0.21(-0.18,0.61),P=0.29,0.33(0.05,0.46),P=0.02*
東アジア: 0.28(-0.19,0.76),P=0.24,0.14(-0.20,0.47),P=0.43
・バナナ
4か国: -0.27(-0.84,0.30),P=0.35,-0.03(-0.42,0.36),P=0.88
欧米2か国: 0.01(-0.68,0.70),P=0.97,0.23(-0.25,0.70),P=0.36
東アジア2か国: -0.91(-1.94,0.12),P=0.08,-0.53(-1.20,0.14),P=0.12
◇ 結論
これまで,前向きコホート研究などにおいて,生の果物や野菜の摂取は,心血管疾患(CVD)や脳卒中の発症リスクと負に関連することが示唆されている。また,血圧の上昇は,CVDのリスク因子となることが知られているが,生の果物や果物ジュースの摂取量と血圧との独立した関連について調べた研究は少ない。そこで,日本・中国・英国・米国のINTERMAP参加者を対象として,生の果物ならびに果物ジュースの摂取量と血圧との関連について検討した。その結果,4か国全体では,生の果物および果物ジュースの摂取量と血圧とのあいだに有意な関連はみとめられなかったが,東アジア2か国では拡張期血圧(DBP)と正の関連がみとめられた。また,果物別でみると,東アジア2か国では,リンゴと梨の摂取量とDBPとのあいだに正の関連がみとめられ,4か国全体と欧米2か国では,柑橘類の摂取量とDBPとのあいだに正の関連がみとめられた。しかし,各果物の摂取量と血圧とのあいだに,4か国で一貫した関連はみとめられず,果物の種類によって,血圧への影響が異なる可能性が示唆された。