[2018年文献] ナトリウム摂取量が多い人では,カリウム摂取による血圧への影響が小さい

INTERSALT研究では,24時間蓄尿によるナトリウム排泄量と血圧とのあいだに有意に正の関連があることが報告されている。しかし,INTERSALT研究では,食品の摂取量のデータは解析に含まれていなかった。そこで,日本・中国・英国・米国のINTERMAP参加者を対象として,24時間蓄尿によるナトリウムとカリウムの排泄量ならびに24時間蓄尿から換算したナトリウムとカリウムの摂取量と,血圧との関連を調べた。その結果,ナトリウム排泄量が少ない人ではカリウムの血圧に対する影響がみとめられたが,ナトリウム排泄量が多い人では,カリウムの血圧に対する影響は小さくなった。また,ナトリウム排泄量が多い人では,血圧値との有意な正の関連がみとめられ,その関連は主要栄養素ならびに微量栄養素の摂取量による調整後も同様であった。24時間蓄尿ナトリウム/カリウム比と血圧との関連についても,収縮期血圧・拡張期血圧ともに有意な正の関連がみとめられた。

Stamler J, et al.; INTERMAP Research Group. Relation of Dietary Sodium (Salt) to Blood Pressure and Its Possible Modulation by Other Dietary Factors: The INTERMAP Study. Hypertension. 2018; 71: 631-637.pubmed

コホート
INTERMAP研究に参加した日本(4集団),中国(3集団),英国(2集団)および米国(8集団)の40~59歳の4895人のうち,計4回行われた調査のいずれかに参加しなかった人,食事調査への回答が信頼できないと判断された人,総摂取エネルギーが極端に少なかった(500 kcal/日未満)または極端に多かった(男性8000 kcal/日超,女性5000 kcal/日超)人,2回行った尿検査のいずれかの検体に不備のあった人,そのほかのデータに不備があった人,プロトコル違反のあった人を除外した4680人。

4回の調査により,食品の摂取量(4回の24時間思い出し法),血圧(8回)を調査し,24時間蓄尿検査を2回行った。
結 果
◇ 対象背景
参加者全体(4680人)と米国(2195人)の参加者の背景は以下のとおり。

 収縮期血圧(SBP)の平均値(mmHg): [参加者全体]118.9,[米国の参加者]118.6
 拡張期血圧(DBP)の平均値(mmHg): 73.8,73.4
 24時間蓄尿から換算したナトリウム(Na)摂取量(mmol/日): 171.1,159.1
 24時間蓄尿から換算したカリウム(K)摂取量(mmol/日): 70.2,74.6
 食事からとるNa/K比: 2.70,2.32
 尿中Na排泄量(mmol/日): 181.1,162.6
 尿中Na/K比: 3.89,3.08
 高血圧*(%): 27.1%,21.6%
 *SBP: ≧140 mmHgまたはDBP: 90≧ mmHgまたは降圧薬服用

◇ K排泄量と血圧との関連に対するNa排泄量の影響
対象者を24時間蓄尿によるNa排泄量ならびにK排泄量の四分位値で,それぞれ4つのカテゴリー(Na: Na1,Na2,Na3,Na4,K: K1,K2,K3,K4)に分けた。

 ・尿中Na排泄量(mmol/日)の四分位値
  男性: 145.96,187.12,236.47,女性: 118.83,153.40,196.08
 ・尿中K排泄量(mmol/日)の四分位値
  男性: 41.58,53.60,69.94,女性36.43,46.48,59.09

Na1~4,K1~4を組み合わせた16のグループにおける参加者全体のSBPの評価は以下のとおり。Na排泄量の多いカテゴリーほど,K排泄量と血圧との負の関連が弱まった。

 ・参加者全体のSBP(mmHg)
  Na1・K1: 120.1,Na1・K4: 116.5,差3.6
  Na2・K1: 119.6,Na2・K4: 118.5,差1.1
  Na3・K1: 120.6,Na3・K4: 119.6,差1.0
  Na4・K1: 122.1,Na4・K4: 121.9,差0.2

◇ 尿中Na排泄量と血圧との関連
(1)多変量回帰分析による尿中Na排泄量と血圧との関連
尿中Na排泄量(mmol/日)の2 SD(全体: 134.0,米国: 118.7)と血圧増加との関連は以下のとおり。SBP,DBPともに,多変量調整後も有意な正の関連がみとめられたが,さらにBMIで調整すると関連はみとめられなかった(年齢,性別,集団,教育年数,身体活動,喫煙,心血管疾患または糖尿病既往,高血圧の家族歴,特別な食事,サプリメントの服用,飲酒,尿中のK排泄)

 ・参加者全体
  SBP: +3.45 mmHg(95%信頼区間2.45-4.45),P<0.0001
  DBP: +1.71 mmHg(1.04-2.38),P<0.0001
  SBP(さらにBMIで調整後): +0.80 mmHg(-0.18-1.78),P=0.11
  DBP(さらにBMIで調整後): +0.15 mmHg(-0.51-0.82),P=0.65

 ・米国の参加者
  SBP: +3.73 mmHg(2.45-5.01),P<0.0001
  DBP: +1.75 mmHg(0.87-2.62),P<0.0001
  SBP(さらにBMIで調整後): +1.11 mmHg(-0.15-2.38),P=0.08
  DBP(さらにBMIで調整後): +0.25 mmHg(-0.62-1.13),P=0.57

標準体重(BMI<25 kg/m2)の人,または肥満(BMI≧30 kg/m2)の人と比較して,過体重の人(25≦BMI<30 kg/m2)では,Na排泄量の2 SDとSBP増加との関連が弱かった。

 ・標準体重(全体[1666人]: +1.7 mmHg[P=0.08],米国[614人]: +2.1 mmHg[P=0.060])
 ・過体重(全体[1861人]: +0.5 mmHg[P=0.54],米国[800人]: +0.4 mmHg[P=0.71])
 ・肥満(全体[1073人]: +2.1 mmHg[P=0.04],米国[775人]: +2.1 mmHg[P=0.05])
 
◇ 主要栄養素・微量栄養素の摂取量で調整後の尿中Na排泄量と血圧との関連
尿中Na排泄量(mmol/日)の2 SDと血圧増加との関連は以下のとおり。SBP,DBPともに,多変量調整後,さらに12種の主要栄養素,微量栄養素(12種のビタミン,7種のミネラル,18種のアミノ酸など)の摂取量による調整後も,有意な正の関連がみとめられた(動物性蛋白質,植物性蛋白質,コレステロール,飽和脂肪酸,一価不飽和脂肪酸,ω-3多価不飽和脂肪酸,ω-6多価不飽和脂肪酸,トランス脂肪酸,炭水化物,澱粉,食物繊維,カフェイン)。

 ・参加者全体
  SBP: +3.24 mmHg(95%信頼区間 2.19-4.28),P<0.0001
  DBP: +1.73 mmHg(1.03-2.43),P<0.0001

 ・米国の参加者
  SBP: +2.97 mmHg(1.64-4.29),P<0.0001
  DBP: +1.43 mmHg(0.52-2.33),P=0.002

◇ 24時間蓄尿Na/K比と血圧との関連
24時間蓄尿Na/K比の2 SD(全体: 3.3,米国: 2.5)と血圧増加との関連は以下のとおり。SBP,DBPとも,多変量調整後,さらにBMIでの調整後も有意な正の関連がみとめられた。

 ・参加者全体
  SBP: +3.52 mmHg(95%信頼区間2.55-4.49),P<0.0001,
  DBP: +1.67 mmHg(1.03-2.31),P<0.0001
  SBP(さらにBMIで調整): +2.15 mmHg(1.21-3.08),P<0.0001
  DBP(さらにBMIで調整): +0.88 mmHg(0.26-1.50),P=0.005

 ・米国の参加者
  SBP: +3.45 mmHg(2.37-4.71),P<0.0001
  DBP: +1.96 mmHg(1.16-2.76),P<0.0001
  SBP(さらにBMIで調整): +2.13 mmHg(1.00-3.27),P<0.0001
  DBP(さらにBMIで調整): +1.18 mmHg(0.39-1.96),P=0.003

◇ 結論
INTERSALT研究では,24時間蓄尿によるナトリウム排泄量と血圧とのあいだに有意に正の関連があることが報告されている。しかし,INTERSALT研究では,食品の摂取量のデータは解析に含まれていなかった。そこで,日本・中国・英国・米国のINTERMAP参加者を対象として,24時間蓄尿によるナトリウムとカリウムの排泄量ならびに24時間蓄尿から換算したナトリウムとカリウムの摂取量と,血圧との関連を調べた。その結果,ナトリウム排泄量が少ない人ではカリウムの血圧に対する影響がみとめられたが,ナトリウム排泄量が多い人では,カリウムの血圧に対する影響は小さくなった。また,ナトリウム排泄量が多い人では,血圧値との有意な正の関連がみとめられ,その関連は主要栄養素ならびに微量栄養素の摂取量による調整後も同様であった。24時間蓄尿ナトリウム/カリウム比と血圧との関連についても,収縮期血圧・拡張期血圧ともに有意な正の関連がみとめられた。


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