[2010年文献] 1988~2004年の脳梗塞の病型別発症率: もっとも多いのはラクナ梗塞
日本人一般住民を対象とした循環器疾患発症登録研究により,1988~2004年の17年の脳梗塞病型(ラクナ梗塞,心原性脳塞栓,非ラクナ梗塞)ごとの発症率を調査した。その結果,全脳梗塞に占める割合がもっとも高いのはラクナ梗塞であり,欧米とは疾病構造が異なることが確認された。経時的な変化をみると,ラクナ梗塞と心原性脳塞栓については変化はみられなかったが,非ラクナ梗塞では有意な減少傾向がみられた。
Turin TC, et al. Ischemic stroke subtypes in a Japanese population: Takashima Stroke Registry, 1988-2004. Stroke. 2010; 41: 1871-6.
- コホート
- 滋賀県高島市(旧・高島郡)の住民のうち,1988年1月1日~2004年12月31日(17年間)に脳梗塞を初発した1389人(男性781人,女性608人)。発症時平均年齢は男性73.7歳,女性76.8歳。
期間中の高島市の毎年の人口統計データから発症率を算出した。
脳梗塞(虚血性脳卒中)の定義は,画像診断で急性梗塞がみとめられるか,脳出血のみとめられない脳卒中とした。あわせて塞栓形成の可能性のある心疾患を有している場合は心原性脳塞栓とした。ラクナ梗塞は,局所神経学的症状/徴候がみとめられ,前記の心疾患を有さず,典型的な部位で梗塞サイズが2 cm以下のもの/サイズ不明のもの/画像診断が陰性のものとし,非ラクナ梗塞は,2 cm超の梗塞サイズ,前記の心疾患を有さない,中等度~高度の動脈狭窄,その他の原因が明らかな梗塞,のいずれかに合致する場合とした。以上のいずれにも当てはまらない,または適切な評価が行われなかったと考えられるものは病型不明とした。 - 結 果
- ◇ 発症の状況
脳梗塞発症者に占める各病型の割合は,ラクナ梗塞が54.1%,心原性脳塞栓が22.9%,非ラクナ梗塞が21.0%であった。
2000年の日本の人口に基づいて年齢調整した10万人・年あたりの発症率は以下のとおり。
・ 男性
全脳梗塞: 189.3(95%信頼区間175.9-202.7)
ラクナ梗塞: 102.8(92.9-112.6)
心原性脳塞栓: 42.7(36.2-49.1)
非ラクナ梗塞: 38.7(32.6-44.7)
・ 女性
全脳梗塞: 102.2(93.9-110.4)
ラクナ梗塞: 55.9(49.7-62.1)
心原性脳塞栓: 23.3(19.5-27.2)
非ラクナ梗塞: 21.9(18.1-25.7)
年齢層ごとの各病型の10万人・年あたりの発症率は以下のとおりで,病型・性別を問わず,年齢が高いほど発症率が高くなっていた。
・ 男性
44歳未満: 全脳梗塞3.8,ラクナ梗塞2.1,心原性脳塞栓0.4,非ラクナ梗塞1.3
45~64歳: 159.7,98.1,18.2,38.2
65~84歳: 747.1,395.8,185.7,143.9
85歳以上: 1362.6,671.4,414.7,256.7
・ 女性
44歳未満: 1.8,1.3,0,0
45~64歳: 62.9,42.8,7.0,13.1
65~84歳: 427.0,226.9,99.5,97.2
85歳以上: 1203.4,553.5,393.1,240.7
◇ 経時的な発症率の変化
観察期間を3つ(初期: 1988~1993年,中期: 1994~1998年,後期: 1999~2004年)に分けて各病型の発症率の変化をみると,中期から後期にかけてラクナ梗塞が有意に減少していたが,年単位でみると変化は有意ではなかった。心原性脳塞栓についても有意な年単位の変化はみられなかったが,非ラクナ梗塞は有意に低下していた(1年あたりの変化率-4.01%,95%信頼区間-6.59~-1.44,P=0.002)。
◇ 脳梗塞各病型の危険因子
心原性脳塞栓発症者にくらべ,ラクナ梗塞発症者では年齢,一過性脳虚血発作既往の割合,習慣的な飲酒の割合が有意に低かった。非ラクナ梗塞発症者にくらべると,ラクナ梗塞発症者では年齢および習慣的な飲酒の割合が有意に低かった。
非ラクナ梗塞発症者にくらべ,心原性脳塞栓発症者では年齢が有意に高かった。
高血圧既往,糖尿病既往,脂質異常症既往に関しては,病型による差はみられなかった。
◇ 結論
日本人一般住民を対象とした循環器疾患発症登録研究により,1988~2004年の17年の脳梗塞病型(ラクナ梗塞,心原性脳塞栓,非ラクナ梗塞)ごとの発症率を調査した。その結果,全脳梗塞に占める割合がもっとも高いのはラクナ梗塞であり,欧米とは疾病構造が異なることが確認された。経時的な変化をみると,ラクナ梗塞と心原性脳塞栓については変化はみられなかったが,非ラクナ梗塞では有意な減少傾向がみられた。