[2002年文献] 若年層のピロリ菌感染は急性心筋梗塞と関連

ヘリコバクター(H.)ピロリ菌感染と冠動脈疾患との関連について,H. ピロリ菌感染の頻度が欧米よりも高い日本人において検討するため,OACISに登録された急性心筋梗塞(AMI)患者,および健康な成人を対象とした症例対照研究を行った。その結果,55歳未満の若年層において,既知の危険因子とは独立したH. ピロリ抗体陽性とAMIとの関連がみとめられた。

Kinjo K, et al.; Osaka Acute Coronary Insufficiency Study (OACIS) Group. Prevalence of Helicobacter pylori infection and its link to coronary risk factors in Japanese patients with acute myocardial infarction. Circ J. 2002; 66: 805-10.pubmed

コホート
・ 症例
1999年4月~2000年3月の期間に,阪神地区の25の心臓救急病院に発症1週間以内に受診し,以下の3つの基準のうち2つ以上を満たした急性心筋梗塞(AMI)患者618人。
   (1) 胸中央部の痛み,絞扼感,圧迫感が30分以上続く
   (2) 心電図の特徴的変化: 2つ以上の胸部誘導または1つ以上の四肢誘導における0.1 mV以上のST上昇
   (3) 血清クレアチンキナーゼの上昇(正常値の2倍以上)

・ 対照
OACIS参加施設に健診目的で受診した人のうち,冠動脈疾患既往のある人,および受診前4週間以内に感染症にかかった,または手術を受けたと報告した人を除く健康な一般住民967人。

血液検体中のヘリコバクターピロリ抗体IgGを検出し,感染の有無を調べた。
結 果
◇ 対象背景
症例群は,対照群よりも年齢,BMI,喫煙率が高く,糖尿病,高血圧の割合が高く,HDL-Cが低かった。

◇ ヘリコバクター(H.)ピロリの血清反応陽性率
H. ピロリの血清反応陽性率は以下のとおりで,対照群では年齢とともに陽性率が増加していたが,症例群ではそのような傾向はみとめられなかった。
   <44歳: 症例群54.2 %,対照群29.2 %
   45~54歳: 61.1 %,46.2 %
   55~64歳: 63.7 %,60.4 %
   65~74歳: 55.8 %,62.6 %
   75~84歳: 60.0 %,80.0 %
   84歳超: 70.0 %,(対照群データなし)

◇ H. ピロリ感染とAMI
年齢層を問わず,症例群と対照群におけるH. ピロリ抗体陽性率に有意な差はみとめられなかった(それぞれ60.0 % vs.57.7 %,P=0.359)。

一方,55歳未満,55~64歳,65歳以上の3つの年齢層ごとに解析を行うと,55~64歳,65歳以上の年齢層における陽性率には,いずれも有意な群間差はみとめられなかった。
一方,55歳未満においては,症例群における陽性率は対照群よりも有意に高かった(それぞれ58.7 %,43.3 %,P=0.009)。

多変量ロジスティック回帰分析を行った結果,H. ピロリ抗体陽性とAMIとの有意な関連はみとめられなかった(多変量調整オッズ比0.97,95 %信頼区間0.71-1.32,P=0.836 vs. 陰性)が,年齢で層別化した結果,55歳未満の年齢層では,H. ピロリ抗体陽性はAMIと有意に関連していた(多変量調整オッズ比2.97,95 %信頼区間1.37-6.41,P=0.006)。

◇ H. ピロリ感染と冠動脈疾患危険因子
・ 全体
症例群,対照群をとわず,年齢,男性の割合,糖尿病の割合,高血圧の割合,喫煙率,BMI,総コレステロール,HDL-Cについて,H. ピロリ抗体の有無による有意な差はみとめられなかった。

・ 若年層
55歳未満の年齢層では,症例群におけるH. ピロリ抗体陽性の人では陰性の人にくらべて有意に糖尿病の割合が低く,BMI,および総コレステロールが低かった。対照群においても,H. ピロリ交代陽性の人では陰性の人よりも有意に糖尿病の割合が低かった。この結果より,AMI発症機序に対してH. ピロリ感染が間接的に関与していることが示唆された。


◇ 結論
ヘリコバクター(H.)ピロリ菌感染と冠動脈疾患との関連について,H. ピロリ菌感染の頻度が欧米よりも高い日本人において検討するため,OACISに登録された急性心筋梗塞(AMI)患者,および健康な成人を対象とした症例対照研究を行った。その結果,55歳未満の若年層において,既知の危険因子とは独立したH. ピロリ抗体陽性とAMIとの関連がみとめられた。


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