[2005年文献] 急性心筋梗塞発症後の喫煙は死亡リスクが高い
阪神地区における急性心筋梗塞(AMI)患者を前向きに登録した観察研究により,発症前後の喫煙状況と長期的な予後との関連について検討した。その結果,AMI発症後も喫煙をやめなかった人では有意な死亡リスクの上昇がみとめられた一方,AMI発症後に禁煙した人の死亡リスクは非喫煙者と同等であった。
Kinjo K, et al.; Osaka Acute Coronary Insufficiency Study (OACIS) Group. Impact of smoking status on long-term mortality in patients with acute myocardial infarction. Circ J. 2005; 69: 7-12.
- コホート
- 1998年4月~2003年3月の期間に,阪神地区の25の心臓救急病院に発症1週間以内に受診し,以下の3つの基準のうち2つ以上を満たしたうえで退院後3か月以上生存した急性心筋梗塞(AMI)患者4,035人のうち,登録時,および退院後3か月の両時点における喫煙の調査を完了した2,579人。平均追跡期間は平均885日間。
(1) 胸中央部の痛み,絞扼感,圧迫感が30分以上続く
(2) 心電図の特徴的変化: 2つ以上の胸部誘導または1つ以上の標準誘導における0.1 mV以上のST上昇,2誘導以上における0.1 mV以上のST下降,異常Q波,または2誘導以上におけるT波陰転
(3) 血清クレアチンキナーゼの上昇(正常値の2倍以上)
登録時,および退院後3か月における喫煙の状況により,対象者を以下のように分類した。
非喫煙者: 定期的に喫煙したことがない人
禁煙者: AMI発症よりも前に喫煙をやめていた人
喫煙者: AMI発症時に喫煙していた人
AMI後禁煙者: AMI発症時まで喫煙しており,発症後にやめた人
喫煙継続者: AMI発症時まで喫煙しており,発症後も継続している人 - 結 果
- ◇ 喫煙状況と対象背景
急性心筋梗塞(AMI)発症前後における喫煙状況は以下のとおり。
非喫煙者: 823人 (31.9 %)
禁煙者: 332人 (12.9 %)
喫煙者: 1,424人 (55.2 %)
AMI後禁煙者: 1,056人 (74.2 %)
喫煙継続者: 368人 (25.8 %)
非喫煙者は,年齢が高く,女性が多く,高血圧,前壁心筋梗塞,心房細動/粗動が多く,Killip分類*が高かった。また,非喫煙者は経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行率,ACE阻害薬治療の割合が低かった。
* Killip分類とは,身体所見から心機能を評価する分類。クラスが上がるほど重症。
喫煙者において,AMI発症後の喫煙継続に有意に関連していたのは,低い年齢(P=0.044),および登録以前の心筋梗塞既往(P=0.003)だった。
◇ 喫煙状況とAMI発症後の長期予後
喫煙継続者の死亡リスクは,非喫煙者にくらべて有意に高かった。
一方,AMI後禁煙者の死亡リスクに,非喫煙者との差はみられなかった。
喫煙状況別の全死亡の多変量調整ハザード比(95 %信頼区間)は以下のとおり。
非喫煙者: 1.0 (対照)
禁煙者: 1.53 (0.88-2.66)
AMI後禁煙者: 0.81 (0.45-1.43)
喫煙継続者: 2.27 (1.17-4.44)
AMI後禁煙者と喫煙継続者の長期的な死亡率を比較すると,死亡率はそれぞれ3.0 %,5.2 %と有意差がみとめられた(P=0.032)。
AMI後の禁煙は,死亡リスクを有意に低下させた(ハザード比0.39,95 %信頼区間0.20-0.77,vs. 喫煙継続者)。
◇ 結論
阪神地区における急性心筋梗塞(AMI)患者を前向きに登録した観察研究により,発症前後の喫煙状況と長期的な予後との関連について検討した。その結果,AMI発症後も喫煙をやめなかった人では有意な死亡リスクの上昇がみとめられた一方,AMI発症後に禁煙した人の死亡リスクは非喫煙者と同等であった。