[2006年文献] リンホトキシンα(TNF-β)遺伝子の多型は心筋梗塞発症後の死亡リスクと関連
これまでに,心筋梗塞(MI)の初発に関連する遺伝子多型がいくつか報告されているが,MIの再発を含めた予後に関しても同様の関連がみとめられるかどうかについてはまだ十分に検討されていない。そこで,MI患者の登録研究において,73の候補遺伝子の遺伝子多型と予後との関連を検討した。その結果,リンホトキシンα遺伝子の多型がMI発症者における全死亡リスクと有意に関連していることが示され,MI後の再発イベントの有用な遺伝的マーカーとなる可能性が示唆された。
Mizuno H, et al.; Osaka Acute Coronary Insufficiency Study (OACIS) Group. Impact of atherosclerosis-related gene polymorphisms on mortality and recurrent events after myocardial infarction. Atherosclerosis. 2006; 185: 400-5.
- コホート
- 1998年4月~2004年4月の期間にOACIS研究に登録された急性心筋梗塞患者3,788人のうち,血液検査結果や遺伝子型のデータに不備がなく生存していた1,586人を平均831日間追跡。
PubMedなどのデータベースから,動脈硬化,血管の炎症,凝固機能,線溶能,および糖尿病や高血圧,高脂血症などの既知の危険因子に関連する73の候補遺伝子を選び,そのなかの87の遺伝子多型について,スクリーニングのために対象者から無作為に抽出した507人における解析を行った。そこで単変量χ2検定によりP<0.1となった多型について,全対象者を含めた解析を行って検討した。
各遺伝子多型について,死亡,死亡+非致死的心筋梗塞(MI),および主要心イベント(major adverse cardiac events: MACE)* の発生率をそれぞれ比較した。* MACE: 全死亡,MI,不安定狭心症,または血行再建術(標的血管血行再建術,一次標的血管以外に対する経皮的冠動脈インターベンション,冠動脈バイパス手術を含む)。 - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢64.0歳,男性77.2 %,BMI 23.4 kg/m2,糖尿病35.1 %,高血圧52.5 %,高脂血症47.0 %,喫煙率66.3 %,以前の心筋梗塞(MI)既往:11.5 %,梗塞前狭心症23.6 %,前壁中隔梗塞48.3 %,Killip分類クラスIII以上12.5 %,24時間以内の再灌流療法87.4 %,クレアチンキナーゼ(ピーク値)2,628 IU/L。
死亡は76人,死亡または非致死的MIが158人,MACEは522件だった。
◇ スクリーニングのための検討
無作為に抽出した507人におけるスクリーニング解析で,イベントとの関連がみとめられたのは以下の9つの遺伝子多型であった。
・ MACE: 肝性リパーゼ遺伝子(C-480T),可溶性エポキシド加水分解酵素遺伝子(G860A)
・ 死亡+非致死的MI: インターロイキン4受容体α遺伝子(A398G[Ile50Val])
・ 全死亡: インターロイキン18遺伝子(G-137C),リンホトキシンα遺伝子(A252G),プラスミノゲンアクチベーター-1遺伝子(4G/5G),形質転換増殖因子-β1遺伝子(T29C[Leu10Pro]),トロンボポエチン遺伝子(A5713G),フォン=ビルブランド因子遺伝子(G-1051A)
◇ 対象者全員における検討
スクリーニングのための検討で見出された9つの遺伝子多型について,全対象者(1,586人)における多変量Cox回帰分析により検討を行った。
その結果,リンホトキシンα遺伝子*のA252G多型が全死亡リスクと有意に関連していた。Gアレルを有する人(遺伝子型がAGまたはGG)の全死亡のハザード比は,有しない人(遺伝子型がAA)に比して2.46(95 %信頼区間1.24-4.86)であった。
いずれの遺伝子多型についても,MACEとの有意な関連はみとめられなかった。* リンホトキシンα(腫瘍壊死因子[TNF-β])は,炎症反応に関与するTNFファミリーに含まれる分子。リンホトキシンα遺伝子はヒト染色体6p21上の白血球抗原クラスIII遺伝子に位置している。
◇ 結論
これまでに,心筋梗塞(MI)の初発に関連する遺伝子多型がいくつか報告されているが,MIの再発を含めた予後に関しても同様の関連がみとめられるかどうかについてはまだ十分に検討されていない。そこで,MI患者の登録研究において,73の候補遺伝子の遺伝子多型と予後との関連を検討した。その結果,リンホトキシンα遺伝子の多型がMI発症者における全死亡リスクと有意に関連していることが示され,MI後の再発イベントの有用な遺伝的マーカーとなる可能性が示唆された。