[2011年文献] 男性の心筋梗塞後の抑うつ症状は心血管疾患イベントリスク
阪神地区における急性心筋梗塞(AMI)患者を前向きに登録し,3.9年間追跡した観察研究により,AMI発症から1年後の抑うつ症状とその後の心血管疾患(CVD)イベント発生リスクとの関連について検討した。その結果,男性ではAMI発症1年後の抑うつ症状は,CVDイベント発生の有意な予測因子であったことから,AMI発症後の抑うつ症状の評価はAMI後の男性患者の長期予後予測に有用であることが示唆された。女性では,抑うつ症状とCVDイベント発生リスクとの有意な関連はみとめられなかった。
Shiozaki M, et al. Longitudinal risk of cardiovascular events in relation to depression symptoms after discharge among survivors of myocardial infarction. Osaka Acute Coronary Insufficiency Study. Circ J. 2011; 75: 2878-84.
- コホート
- 1998年4月~2006年4月の期間に阪神地区の25の心臓救急病院を発症1週間以内に受診し,以下の3つの基準のうち2つ以上を満たした急性心筋梗塞患者4271人のうち,発症から1年後の質問票に回答した3,233人より,ツァンの自己評価式抑うつ性尺度(Zung Self-Rating Depression Scale: SDS)*の発症後1年のデータがない1282人,1年以内に心血管疾患を発症した364人を除いた1587人(男性1307人,女性280人)を解析対象とした。追跡期間は発症から3.9年間(中央値)。
1. 胸中央部の痛み,絞扼感,圧迫感が30分以上続く
2. 心電図の特徴的変化: 2つ以上の胸部誘導または1つ以上の肢誘導における0.1 mV超のST上昇
3. 血清クレアチンキナーゼの上昇(正常値上限の2倍以上)
SDS*スコアにより,性別ごとに,以下のように三分位に分けて検討を行った。
・男性
≦33:403人,34~41:446人,≧42:458人
・女性
≦35:82人,36~43:101人,≧44:97人
*自己評価による抑うつ症状の診断スケール。20項目の症状について,1(ほとんど感じない)~4(常に感じている)のスコアをつけてもらい,合計点が40以上の場合に「臨床的な抑うつ症状あり」と診断。
一次エンドポイントは心血管イベント(心臓死,脳卒中死,非致死的心筋梗塞再発,冠動脈血管形成術またはバイパス術,心不全による再入院,不安定狭心症,脳卒中,または難治性不整脈)。 - 結 果
- ◇ 対象背景
心筋梗塞発症1年後におけるSDSスコアは,全体で平均38.9。男性(平均38.5)にくらべ,女性(40.8)のほうが有意に高かった(P<0.001)。
男性で,心筋梗塞発症1年後のSDSスコアと有意に関連していたのは,ベースライン時の年齢,雇用状況(失業),糖尿病,喫煙(いずれもP for trend<0.05)。
女性では,心筋梗塞発症1年後のSDSスコアと有意な関連をみとめたベースラインの患者背景因子はなかった。
◇ 抑うつ症状と心血管疾患(CVD)イベント発生リスク
SDSスコアごとのCVDイベント発生の多変量調整ハザード比*(95%信頼区間)は以下のとおりで,男性では,SDSスコア42以上のカテゴリーにおいてCVDイベント発生リスクが有意に増加していたが,女性では有意な関連はみられなかった。
非致死的CVDイベントについては,多変量調整後*は男女ともSDSスコアとの有意な関連はみとめられなかった。
*年齢,脂質異常症,高血圧,糖尿病,喫煙状況,以前の心筋梗塞既往により調整
・ CVDイベント
男性
SDS≦33:1(対照)
SDS 34~41:1.26(0.74-2.17),P=0.39,
SDS≧42:1.67(1.01-2.77),P=0.04
女性
SDS≦35:1
SDS 36~43:0.50(0.15-1.61),P=0.25
SDS≧44:0.97(0.33-2.87),P=0.97
・ 非致死的CVDイベント
男性
SDS≦33:1
SDS 34~41:1.30(0.73-2.33),P=0.38
SDS≧42:1.64(0.95-2.84),P=0.08
女性
SDS≦35:1
SDS 36~43:0.55(0.17-1.84),P=0.33
SDS≧44:1.07(0.35-3.28),P=0.90
SDSスコアを連続変数とした解析では,男性のSDSスコアの1 SD増加と多変量調整したCVDイベント発生リスクは有意な関連を示しており,この関連は,さらに心筋梗塞発症後3か月以内の抑うつ症状によって調整を行ったうえでもみとめられた(ハザード比1.25,95%信頼区間1.00-1.56,P=0.046)。また,男性のSDSスコアの1 SD増加は多変量調整した非致死的CVDイベント発生リスクとも有意に関連していたが,女性では,CVDイベント,非致死的CVDイベントのいずれについてもSDSスコアとの有意な関連はみられなかった。
◇ 結論
阪神地区における急性心筋梗塞(AMI)患者を前向きに登録し,3.9年間追跡した観察研究により,AMI発症から1年後の抑うつ症状とその後の心血管疾患(CVD)イベント発生リスクとの関連について検討した。その結果,男性ではAMI発症1年後の抑うつ症状は,CVDイベント発生の有意な予測因子であったことから,AMI発症後の抑うつ症状の評価はAMI後の男性患者の長期予後予測に有用であることが示唆された。女性では,抑うつ症状とCVDイベント発生リスクとの有意な関連はみとめられなかった。