[2009年文献] 高血圧患者は治療例でも脳卒中リスクが高い
降圧薬治療状況を考慮したうえでの血圧レベルと脳卒中リスクとの関連について,前向きコホート研究のデータを用いたメタ解析により検討した。その結果,ベースライン時の血圧レベルが同じであっても,降圧薬治療例は非治療例にくらべて高い脳卒中リスクを有することが示された。この結果には,治療例の多くが他の心血管危険因子をあわせもつことや,血圧が適切に管理されていない治療例が含まれていたことなどが影響していた可能性がある。以上の結果より,降圧薬治療例は,同じ血圧レベルの未治療例よりもリスクが高いということに注意する必要がある。
Asayama K, et al.; Japan Arteriosclerosis Longitudinal Study (JALS) group. Stroke risk and antihypertensive drug treatment in the general population: the Japan arteriosclerosis longitudinal study. J Hypertens. 2009; 27: 357-64.
- コホート
- JALS 0次研究(JALS-ECC: JALS-existing cohorts combine)に参加した国内の地域コホート研究の55,151人から,降圧薬治療に関する情報のない26,458人,治療中の人のみを対象としているコホートの5,301人,脳卒中発症または血液検査のデータがない10,397人,40歳未満または90歳以上の92人,交絡因子のデータがない595人,心血管疾患既往のある937人を除いた11,371人を平均9.5年間追跡。
参加コホートは北海道(1,511人),秋田(2,356人),茨城(4,023人),大阪(3,481人)。
血圧のカテゴリーは以下のとおりとし,さらに降圧薬治療(治療中/非治療)を考慮した計12のカテゴリーにより解析を行った。
至適血圧: 120 / 80 mmHg 未満 (2,409人)
正常血圧: 120 / 80~129 / 84 mmHg (2,167人)
正常高値血圧: 130 / 85~139 / 89 mmHg (2,536人)
グレード1(軽症)高血圧: 140 / 90~159 / 99 mmHg (2,811人)
グレード2(中等症)高血圧: 160 / 100~179 / 109 mmHg (1,143人)
グレード3(重症)高血圧: 180 / 110 mmHg以上 (305人) - 結 果
- ◇ 対象背景
対象者の平均年齢は55.1歳,男性の割合は40.2 %,血圧は134 / 80 mmHg,BMIは23.3 kg/m2,糖尿病は6.6 %,高脂血症は13.3 %,喫煙率は28.4 %,飲酒率は34.7 %。
血圧カテゴリーと有意な正の関連を示していたのは年齢,男性の割合,BMI,糖尿病の割合,高脂血症の割合,喫煙率,飲酒率。
この結果は非治療例においても同じだったが,治療例においてはいずれも血圧との有意な関連はみられなかった。
◇ 降圧薬治療例における脳卒中リスク
脳卒中の発症は324人。うち脳梗塞が198人(61.1 %),脳出血が71人(21.9 %),くも膜下出血が53人(16.4 %),病型不明が2人(0.6 %)だった。
治療例では,血圧で調整後も,全脳卒中,脳梗塞および脳出血リスクの有意な増加がみとめられた。男女別に解析を行うと,女性では治療例における有意な全脳卒中リスク増加はみられなかった。
全脳卒中および各病型の相対ハザード(vs. 非治療例,収縮期血圧および拡張期血圧で調整後)は以下のとおり。
全脳卒中: 1.72 (95 %信頼区間1.34-2.21)
脳梗塞: 1.63 (1.19-2.23)
脳出血: 1.97 (1.17-3.32)
くも膜下出血: 1.90 (0.99-3.62)
◇ 血圧と脳卒中リスクの関連に対する降圧薬治療の影響
降圧薬治療の有無で調整したうえで血圧カテゴリーと全脳卒中リスクおよび脳梗塞リスクとの関連を検討した結果,血圧カテゴリーにともなう有意な相対ハザードの上昇がみとめられた(全脳卒中: P for trend<0.0001,脳梗塞: P for trend=0.0002)。
正常血圧者においても,至適血圧者に比した有意な全脳卒中リスクおよび脳梗塞発症リスクの増加がみとめられた(相対ハザードは全脳卒中2.28 [95 %信頼区間1.29-4.04],脳梗塞2.74 [1.33-5.64])。
降圧薬治療の有無ごとに血圧カテゴリーと全脳卒中の多変量調整リスクとの関連を検討した結果,非治療例では血圧カテゴリーにともなって直線的にリスクが上昇した(P for trend=0.0001)。一方,治療例でははっきりした関連はみとめられなかった(P for trend=0.1)。
治療例では,至適血圧であっても,非治療例の至適血圧(対照)に比した有意な全脳卒中リスクの増加がみとめられた(相対ハザード4.10 [95 %信頼区間1.17-14.4])。
脳卒中リスクとの関連において,血圧カテゴリーと降圧薬治療は有意な相互作用を示していた(P=0.0004)。
◇ 結論
降圧薬治療状況を考慮したうえでの血圧レベルと脳卒中リスクとの関連について,前向きコホート研究のデータを用いたメタ解析により検討した。その結果,ベースライン時の血圧レベルが同じであっても,降圧薬治療例は非治療例にくらべて高い脳卒中リスクを有することが示された。この結果には,治療例の多くが他の心血管危険因子をあわせもつことや,血圧が適切に管理されていない治療例が含まれていたことなどが影響していた可能性がある。以上の結果より,降圧薬治療例は,同じ血圧レベルの未治療例よりもリスクが高いということに注意する必要がある。