[2009年文献] 高血圧の評価には収縮期血圧がよい
4つの血圧指標(収縮期血圧[SBP],拡張期血圧[DBP],脈圧[PP],平均血圧[MBP])の心血管疾患発症リスクの予測能を,16の前向きコホート研究のデータを用いたメタ解析により比較した。その結果,全脳卒中,虚血性脳卒中,心筋梗塞のリスク予測能がもっとも高いのはSBPおよびMBPだった。ただし出血性脳卒中についてはMBPの予測能がもっとも高く,男性ではSBPよりDBPのほうが高い予測能を示した。PPの脳卒中リスク予測能はもっとも低く,70歳以上の高齢者においても同様の結果だった。以上より,脳卒中および心筋梗塞の長期的リスクとしての高血圧の評価にはおもにSBPを用い,DBPにも注意するべきである。PPのみを重視するのは高齢者においても避けたほうがよい。MBPは高い予測能を示したが,まだ臨床や健診の場で実用的とはいえない。
Miura K, et al.; Japan Arteriosclerosis Longitudinal Study (JALS) Group. Four blood pressure indexes and the risk of stroke and myocardial infarction in Japanese men and women: a meta-analysis of 16 cohort studies. Circulation. 2009; 119: 1892-8.
- コホート
- JALS 0次研究(JALS-ECC: JALS-existing cohorts combine)に参加した21コホートの66,691人のうち,脳卒中または心筋梗塞の発症率のデータに不備がある3コホート,BMI・総コレステロール・喫煙に関するベースラインデータに不備がある2コホート,40歳未満または90歳以上の7,484人,ベースラインデータに不備がある4,223人,および追跡不能となった685人を除外した48,224人(男性21,061人,女性27,163人)を平均8.4年間追跡。
平均年齢は56.7歳。40~69歳は男性18,596人,女性23,557人で,70~89歳は男性2,465人,女性3,606人。
脳卒中の解析対象は15コホートの40,982人,心筋梗塞の解析対象は13コホートの36,015人。 - 結 果
- ◇ 対象背景
対象となった48,224人の背景は以下のとおり。
年齢: 56.7歳 (男性56.0歳,女性57.3歳)
収縮期血圧(SBP): 130.4 mmHg (131.6 mmHg,129.5 mmHg)
拡張期血圧(DBP): 77.8 mmHg (79.6 mmHg,76.3 mmHg)
脈圧(PP): 52.7 mmHg (52.0 mmHg,53.2 mmHg)
平均血圧(MBP): 95.3 mmHg (96.9 mmHg,94.0 mmHg)
BMI: 23.2 kg/m2 (22.9 kg/m2,23.3 kg/m2)
総コレステロール: 200.0 mg/dL (194.0 mg/dL,204.1 mg/dL)
喫煙率: 26.1 % (53.8 %,4.5 %)
◇ 心血管疾患発症率
対象となった48,224人のうち,脳卒中を発症したのは1,231人,心筋梗塞を発症したのは220人。
10,000人あたりの年間発症率は以下のとおり。
脳卒中: 男性43.8,女性29.2
虚血性脳卒中: 32.2,16.9 (それぞれ脳卒中の74 %,58 %)
出血性脳卒中: 11.4,11.9
脳卒中(40~69歳): 34.6,22.3
脳卒中(70~89歳): 131.6,92.3
心筋梗塞: 12.3,4.6
◇ 血圧指標と心血管疾患リスク
(1) 全脳卒中
男女とも,4つの血圧指標はすべて脳卒中発症リスクと有意に関連しており,MBPの予測能がもっとも高く,SBPも高い予測能を示した。
SBPとDBPの両方を含めたモデルでは,SBPのほうがDBPより高い予測能を示した。
PPは4つの指標の中でもっとも予測能が低く,PPとMBPを両方含めたモデルではさらにハザード比が低くなった。
各血圧指標の1 SD増加ごとの多変量調整ハザード比(95 %信頼区間)は以下のとおり。
<男性>
SBP: 1.51 (1.41-1.63) [DBPで調整後1.33 (1.20-1.46)]
DBP: 1.53 (1.41-1.65) [SBPで調整後1.24 (1.12-1.38)]
PP: 1.27 (1.19-1.36) [MBPで調整後1.05 (0.97-1.14)]
MBP: 1.60 (1.48-1.72)[PPで調整後1.55 (1.42-1.70)]
<女性>
SBP: 1.46 (1.35-1.58) [DBPで調整後1.30 (1.17-1.44)]
DBP: 1.45 (1.33-1.57) [SBPで調整後1.21 (1.08-1.35)]
PP: 1.26 (1.16-1.36) [MBPで調整後1.05 (0.96-1.15)]
MBP: 1.52 (1.40-1.64) [PPで調整後1.48 (1.34-1.62)]
・ 年齢層別の解析
40~69歳,70~89歳の2つの年齢層ごとの解析を行った結果,男女とも,年齢層にかかわらず予測能がもっとも高いのはMBPだった。PPとMBPを含めたモデルでは,PPは脳卒中の有意な予測因子とならなかった。
・ 脳卒中病型別の解析
虚血性脳卒中については,男女とも,SBPとMBPの予測能がもっとも高かった。SBPとDBPを含めたモデルでは,DBPは虚血性脳卒中の有意な危険因子とはならなかった。
出血性脳卒中については,男女とも,MBPの予測能がもっとも高く,PPの予測能がもっとも低かった。SBP,DBPのいずれも出血性脳卒中の有意な予測因子であった。男性では,SBPとDBPを両方含めたモデルにおいて,DBPのほうがSBPよりも高い予測能を示した。
(2) 心筋梗塞
男女とも,1 SD上昇あたりの心筋梗塞発症のハザード比がもっとも高いのはSBPで,MBPも同等だったが,有意な関連がみとめられないものもあった。
各血圧指標の1 SD増加ごとの多変量調整ハザード比(95 %信頼区間)は以下のとおり。
<男性>
SBP: 1.23 (1.06-1.44) [DBPで調整後1.22 (0.99-1.51)]
DBP: 1.17 (0.99-1.39) [SBPで調整後1.01 (0.81-1.27)]
PP: 1.17 (1.01-1.36) [MBPで調整後1.09 (0.92-1.30)]
MBP: 1.22 (1.04-1.44) [PPで調整後1.17 (0.97-1.41)]
<女性>
SBP: 1.25 (0.99-1.58) [DBPで調整後1.23 (0.91-1.66)]
DBP: 1.18 (0.92-1.52) [SBPで調整後1.03 (0.75-1.42)]
PP: 1.18 (0.95-1.47) [MBPで調整後1.09 (0.84-1.41)]
MBP: 1.25 (0.98-1.59) [PPで調整後1.19 (0.89-1.58)]
降圧薬治療に関するデータを有していた7コホート18,587人のうちベースライン時に降圧薬治療を受けていなかった15,878人を対象に以上の解析を行っても,結果は同様だった。
◇ 結論
4つの血圧指標(収縮期血圧[SBP],拡張期血圧[DBP],脈圧[PP],平均血圧[MBP])の心血管疾患発症リスクの予測能を,16の前向きコホート研究のデータを用いたメタ解析により比較した。その結果,全脳卒中,虚血性脳卒中,心筋梗塞のリスク予測能がもっとも高いのはSBPおよびMBPだった。ただし出血性脳卒中についてはMBPの予測能がもっとも高く,男性ではSBPよりDBPのほうが高い予測能を示した。PPの脳卒中リスク予測能はもっとも低く,70歳以上の高齢者においても同様の結果だった。以上より,脳卒中および心筋梗塞の長期的リスクとしての高血圧の評価にはおもにSBPを用い,DBPにも注意するべきである。PPのみを重視するのは高齢者においても避けたほうがよい。MBPは高い予測能を示したが,まだ臨床や健診の場で実用的とはいえない。