[2010年文献] 欧米よりBMIの低い日本人でも,心血管疾患予防のためには積極的な体重管理が重要

16の前向きコホート研究の40万人・年以上の追跡データを用いたメタ解析により,過体重または肥満と心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連を検討した。その結果,収縮期血圧および総コレステロールを含む多変量調整後もBMIとの独立した有意な関連がみとめられたのは,男性では心筋梗塞(MI)および虚血性CVD(脳梗塞+MI),女性では全脳卒中および脳梗塞の発症リスクであった。BMIと脳卒中については,血圧を介した関連が示唆された。以上の結果より,脳卒中や冠動脈疾患の予防のためには,欧米よりBMIの低い日本人においても,年齢や性別にかかわらず積極的な体重管理を行うことが重要と考えられる。

Yatsuya H, et al.; Japan Arteriosclerosis Longitudinal Study (JALS) group. Body mass index and risk of stroke and myocardial infarction in a relatively lean population: meta-analysis of 16 Japanese cohorts using individual data. Circ Cardiovasc Qual Outcomes. 2010; 3: 498-505.pubmed

コホート
JALS 0次研究(JALS-ECC: JALS-existing cohorts combine)に参加した21コホートの66691人のうち,ベースラインのBMIデータのない2コホート,およびエンドポイント(脳卒中または心筋梗塞[MI]発症)のデータのない3コホートを除外した16コホートの60616人のなかから,さらに40歳未満または90歳以上の7484人,血圧・総コレステロール・喫煙・飲酒のいずれかのデータに不備のある6828人,心血管疾患(CVD)既往のある570人,追跡不能となった499人を除いた,45235人(男性19760人,女性25475人)を解析の対象とした。

脳卒中の解析対象は15コホートの38515人(33万7287人・年),MIの解析対象は13コホートの33128人(26万1702人・年),全CVDの解析および虚血性CVD(脳梗塞+MI)の解析の対象は12コホートの26408人(20万6011人・年)。

ベースラインのBMIにより,対象者を男女別にそれぞれ以下の5つのカテゴリーに分けて解析を行った。
21.0 kg/m2未満(男性4997人,女性6051人),21.0~22.9 kg/m2(5426人,6481人),23.0~24.9 kg/m2(4855人,5907人),25.0~27.4 kg/m2(3263人,4598人),27.5 kg/m2以上(1219人,2438人)
結 果
◇ 対象背景
平均年齢は男性55.4歳,女性56.5歳で,平均BMIはそれぞれ23.0 kg/m2,23.4 kg/m2

男女とも,BMIが高いカテゴリーほど,総コレステロール,収縮期血圧,拡張期血圧および降圧薬服用率が高く,21.0 kg/m2未満のカテゴリーでもっとも喫煙率が高かった。男性では,BMIが高いカテゴリーほど年齢が低かった。

◇ BMIと心血管疾患(CVD)発症リスク
追跡期間中の脳卒中発症は1113件(病型がわかっている954件の内訳: 脳梗塞725件,脳内出血229件),心筋梗塞(MI)発症は190件。
BMIとMI,脳内出血および脳梗塞の発症リスクとの関連について,コホート間の有意な異質性はみとめられなかった(それぞれP for heterogeneity=0.61,P for heterogeneity=0.60,P for heterogeneity=0.58)。

BMI(kg/m2)のカテゴリーごとのCVD発症の多変量調整ハザード比は以下のとおり(年齢,喫煙,飲酒,収縮期血圧[SBP],総コレステロールで調整)。
男性においては,年齢・喫煙・飲酒で調整したモデルで,BMIが高くなるほどすべてのCVD発症リスクが高くなる有意な関連がみとめられたが,SBPと総コレステロールも含めた多変量調整後もBMIとの有意な関連がみとめられたのは,MIと虚血性CVD(脳梗塞+MI)のみであった。
女性においては,年齢・喫煙・飲酒で調整したモデルで,BMIが高くなるほど全脳卒中,脳梗塞,脳内出血および全CVDの発症リスクが有意に高くなっており,脳内出血と全CVDを除いて多変量調整後も同様の結果がみとめられた。

・男性
[全脳卒中]<21: 1(対照),21.0~22.9: 1.25(95%信頼区間1.00-1.56),23.0~24.9: 1.17(0.92-1.48),25.0~27.4: 1.06(0.80-1.40),≧27.5: 1.50(1.06-2.14),P for trend=0.13
[脳梗塞]1,1.19(0.92-1.55),1.28(0.98-1.68),1.06(0.76-1.47),1.51(0.99-2.30),P for trend=0.12
[脳内出血]1,1.41(0.83-2.42),0.97(0.53-1.77),1.26(0.67-2.36),1.92(0.91-4.03),P for trend=0.26
[MI]1,0.93(0.54-1.63),1.30(0.77-2.21),1.53(0.87-2.69),2.12(1.10-4.10),P for trend=0.012
[虚血性CVD]1,1.17(0.85-1.60),1.51(1.11-2.05),1.13(0.78-1.63),1.75(1.13-2.70),P for trend=0.022
[全CVD]1,1.22(0.93-1.61),1.35(1.02-1.78),1.07(0.77-1.49),1.59(1.08-2.35),P for trend=0.070

・女性
[全脳卒中]<21: 1(対照),21.0~22.9: 1.00(0.77-1.31),23.0~24.9: 1.10(0.85-1.44),25.0~27.4: 1.25(0.96-1.62),≧27.5: 1.33(0.98-1.79),P for trend=0.021
[脳梗塞]1,0.96(0.67-1.39),1.11(0.78-1.57),1.41(1.00-1.99),1.27(0.85-1.90),P for trend=0.044
[脳内出血]1,0.81(0.46-1.43),0.89(0.50-1.55),1.15(0.67-1.99),1.44(0.80-2.59),P for trend=0.15
[MI]1,1.14(0.55-2.36),0.73(0.32-1.64),1.26(0.60-2.62),0.78(0.29-2.09),P for trend=0.86
[虚血性CVD]1,0.91(0.61-1.37),0.92(0.62-1.38),1.23(0.83-1.83),0.93(0.57-1.53),P for trend=0.65
[全CVD]1,0.87(0.62-1.22),0.99(0.72-1.37),1.25(0.91-1.73),1.21(0.84-1.76),P for trend=0.087

男性におけるBMIとMI発症リスクとの有意な関連は,さらに糖尿病およびHDL-Cで調整しても変わらなかった。

以上の結果は,ベースラインから1年以内の発症を除外した解析,ならびに年齢(60歳以下/超)・喫煙の有無・高脂血症(総コレステロール220 mg/dL以上または脂質低下薬服用)の有無による層別解析でも同様であった。
一方,高血圧(140 / 90 mmHg以上または降圧薬服用)の有無別にみると,非高血圧者でのみ,BMIと脳梗塞,ならびにBMIとMIとの有意な関連がみとめられたが(それぞれP for trend=0.002,P for trend=0.016),脳内出血については高血圧の有無による関連の違いはなかった。


◇ 結論
16の前向きコホート研究の40万人・年以上の追跡データを用いたメタ解析により,過体重または肥満と心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連を検討した。その結果,収縮期血圧および総コレステロールを含む多変量調整後もBMIとの独立した有意な関連がみとめられたのは,男性では心筋梗塞(MI)および虚血性CVD(脳梗塞+MI),女性では全脳卒中および脳梗塞の発症リスクであった。BMIと脳卒中については,血圧を介した関連が示唆された。以上の結果より,脳卒中や冠動脈疾患の予防のためには,欧米よりBMIの低い日本人においても,年齢や性別にかかわらず積極的な体重管理を行うことが重要と考えられる。


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