[2013年文献] 蛋白尿とeGFRは,互いに独立して心血管疾患死亡リスクと関連
蛋白尿と推算糸球体濾過量(eGFR)は,それぞれ慢性腎臓病の危険因子であることが過去のコホート研究から示されているが,これらの心血管疾患リスクへの影響が互いに独立したものなのか,あるいは協調的なのかは明らかにされていない。そこで,国内の7のコホート研究のメタ解析を行った結果,心血管疾患(CVD)死亡リスクに対して,蛋白尿およびeGFRはいずれも有意かつ互いに独立に関連していることが示された。蛋白尿とeGFR低値をあわせもつとCVD死亡リスクがさらに高くなっていたことから,わが国におけるCVDリスク評価のために,蛋白尿とeGFRの両方を評価する必要性が示唆された。
Nagata M, et al.; EPOCH-JAPAN Research Group. Prediction of cardiovascular disease mortality by proteinuria and reduced kidney function: pooled analysis of 39,000 individuals from 7 cohort studies in Japan. Am J Epidemiol. 2013; 178: 1-11.
- コホート
- EPOCH-JAPANの13コホート中,死因別死亡のデータ,および蛋白尿と血清クレアチニン値のデータを有する7コホートの44588人のうち,40歳未満の5099人,90歳以上の59人,推算糸球体濾過量(eGFR)<15 mL/min/1.73 m2の25人を除いた39405人。
平均年齢は59歳,男性の割合は43.5%。
平均追跡期間は10.1年間。
蛋白尿は,試験紙法による「+1」以上と定義した。
GFRについては,血清クレアチニン値(酵素法での測定値に換算)を用いて日本人向けのCKD-EPI(Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration)式により推算し,以下の4つのカテゴリーに対象者を分類した。
45 mL/min/1.73 m2未満
45~59 mL/min/1.73 m2
60~89 mL/min/1.73 m2
90 mL/min/1.73 m2以上 - 結 果
- ◇ 対象背景
ベースラインの推算糸球体濾過量(eGFR)は84.6 mL/min/1.73 m2,蛋白尿の割合は2.9%,血圧は134 / 80 mmHg,BMIは23.3 kg/m2,喫煙率は25.9%,飲酒率は40.2%。
追跡期間中に心血管疾患(CVD)で死亡したのは1927人。
うち脳卒中死亡が846人,冠動脈疾患死亡が397人であった。
◇ 蛋白尿とCVD死亡リスク
蛋白尿をもつ人のCVD死亡の多変量調整ハザード比†(vs. もたない人),ならびにその内訳は以下のとおりで,いずれの死亡リスクも有意に高かった。この結果は,さらにeGFRによる調整を行っても変わらなかった。
(†年齢,性,収縮期血圧,糖尿病,総コレステロール,BMI,CVD既往,喫煙,飲酒により調整)
CVD死亡: 1.75(95%信頼区間1.44-2.11),P<0.001
冠動脈疾患死亡: 1.89(1.28-2.78),P<0.01
脳卒中死亡: 1.50(1.11-2.04),P<0.01
年齢層(60歳未満/以上)による解析を行っても,同様の結果がみとめられた。
蛋白尿検査の結果により,陰性,±,+1以上の3つのカテゴリーを用いた解析を行ったところ,±では陰性に比してCVD死亡リスクの多変量調整ハザード比が1.44(95%信頼区間1.17-1.77),+1以上では1.80(1.48-2.17)といずれも有意に高くなっていた。
◇ eGFRとCVD死亡リスク
eGFRの各カテゴリーにおけるCVD死亡の多変量調整ハザード比†,ならびにその内訳は以下のとおりで,CVD死亡リスクおよび脳卒中死亡リスクはeGFRが低いほど有意に高くなっており,冠動脈疾患死亡リスクについても同様の傾向がみられた。これらの結果は,さらに蛋白尿による調整を行ってもほとんど変わらなかった。
・CVD死亡(P for trend<0.001)
90 mL/min/1.73 m2以上: 1(対照)
60~89 mL/min/1.73 m2: 1.19(95%信頼区間0.96-1.48)
45~59 mL/min/1.73 m2: 1.58(1.21-2.05),P<0.001
45 mL/min/1.73 m2未満: 2.22(1.60-3.07),P<0.001
・冠動脈疾患死亡(P for trend=0.04)
90 mL/min/1.73 m2以上: 1
60~89 mL/min/1.73 m2: 0.75(0.51-1.10)
45~59 mL/min/1.73 m2: 0.96(0.57-1.62)
45 mL/min/1.73 m2未満: 1.71(0.90-3.23)
・脳卒中死亡(P for trend=0.002)
90 mL/min/1.73 m2以上: 1
60~89 mL/min/1.73 m2: 1.37(0.98-1.92)
45~59 mL/min/1.73 m2: 1.72(1.15-2.58),P<0.01
45 mL/min/1.73 m2未満: 2.06(1.23-3.47),P<0.01
年齢層(60歳未満/以上)による解析を行っても,同様の結果がみとめられた。
◇ 蛋白尿の有無とeGFRの組合せとCVD死亡リスク
蛋白尿の有無とeGFRのカテゴリーの組合せごとにCVD死亡の多変量調整ハザード比†を比較したところ,「蛋白尿なし+eGFR 90 mL/min/1.73 m2以上」に比し,「蛋白尿なし+eGFR 45~59 mL/min/1.73 m2」,「蛋白尿なし+eGFR 45 mL/min/1.73 m2未満」,ならびにeGFR値をとわず蛋白尿を有するすべてのカテゴリーにおいて,有意なリスク増加がみとめられた(P<0.05)。「蛋白尿あり+eGFR 45 mL/min/1.73 m2未満」の多変量調整ハザード比は4.05(95%信頼区間2.55-6.43)。
蛋白尿とeGFR低値の相互作用は有意ではなく(P for interaction=0.77),これらのCVD死亡リスクに対する影響は互いに独立していることが示された。
これらの結果は,蛋白尿について陰性,±,+1以上の3つのカテゴリーを用いた解析,ならびに,eGFRの推算に日本腎臓病学会・日本慢性腎臓病対策協議会による式(JSN-CKDI式)と日本人向け係数を用いた修正MDRD式を用いても,ほとんど変わらなかった。
◇ 結論
蛋白尿と推算糸球体濾過量(eGFR)は,それぞれ慢性腎臓病の危険因子であることが過去のコホート研究から示されているが,これらの心血管疾患リスクへの影響が互いに独立したものなのか,あるいは協調的なのかは明らかにされていない。そこで,国内の7のコホート研究のメタ解析を行った結果,心血管疾患(CVD)死亡リスクに対して,蛋白尿およびeGFRはいずれも有意かつ互いに独立に関連していることが示された。蛋白尿とeGFR低値をあわせもつとCVD死亡リスクがさらに高くなっていたことから,わが国におけるCVDリスク評価のために,蛋白尿とeGFRの両方を評価する必要性が示唆された。