[2014年文献] 降圧薬服用者の心血管疾患死亡リスクは非服用者より高い

国内のコホート研究の個人データによるメタ解析の手法を用いて,血圧レベルと心血管疾患(CVD)死亡リスクならびにその内訳との関連について,降圧薬服用の有無ごとに検討を行った。その結果,ベースライン時の血圧レベルが同じであっても,降圧薬服用者では非服用者に比してCVD死亡リスクが高いことが示された。ただし,降圧薬服用者の血圧とリスクとの関連のしかたは死因(冠動脈疾患死亡,心不全死亡,脳卒中死亡)によって異なっていた。以上の結果は,高血圧治療中の患者におけるCVDの残存リスクにさらなる注意が必要であることを示唆するものであり,降圧薬服用がCVD死亡リスクを増加させることを示しているわけではない。

Asayama K, et al.; Evidence for Cardiovascular Prevention From Observational Cohorts in Japan (EPOCH-JAPAN) Research Group. Cardiovascular risk with and without antihypertensive drug treatment in the Japanese general population: participant-level meta-analysis. Hypertension. 2014; 63: 1189-97.pubmed

コホート
EPOCH-JAPANの13コホート中,死因別死亡,降圧薬服用,心血管疾患死亡のいずれかのデータのない7コホートを除外した6コホートの参加者44682人のうち,40歳未満または90歳以上の4504人,血圧のデータに不備のある42人,降圧薬服用のデータに不備のある181人,BMIのデータに不備のある250人を除いた39705人。
追跡期間は10.0年間(中央値)。

血圧については,日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2009(JSH2009)』に基づく以下の分類を用いた。
 至適血圧: 収縮期血圧(SBP)<120 mmHgかつ拡張期血圧(DBP)<80 mmHg
 正常血圧: SBP 120~129 mmHgまたはDBP 80~84 mmHg
 正常高値血圧: SBP 130~139 mmHgまたはDBP 85~89 mmHg
 I度高血圧: SBP 140~159 mmHgまたはDBP 90~99 mmHg
 II度高血圧: SBP 160~179 mmHgまたはDBP 100~109 mmHg
 III度高血圧: SBP≧180 mmHgまたはDBP≧110 mmHg
結 果
◇ 対象背景
女性58.4%,60歳以上53.1%,心血管疾患(CVD)既往10.1%,喫煙率(過去または現在)38.8%,飲酒率(過去または現在)44.7%,糖尿病7.9%,脂質異常症17.2%。

降圧薬服用者は8098人。
降圧薬服用者のベースラインの血圧の平均値は146.0 / 84.3 mmHgで,非服用者よりも14.1 / 5.3 mmHg高かった(収縮期血圧[SBP],拡張期血圧[DBP]ともP<0.0001)。
降圧薬服用者で非服用者に比して有意に高い値を示していたのは糖尿病の割合,脂質異常症の割合,CVD既往の割合で,有意に低い値を示していたのは喫煙率。

◇ 降圧薬服用の有無とCVD死亡リスク
追跡期間中にCVDで死亡したのは2032人。
うち冠動脈疾患(CHD)が401人,心不全が371人,脳卒中が903人であった。

降圧薬非服用者に比した服用者のCVD死亡,ならびにその内訳の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,降圧薬服用者ではいずれの死亡リスクも有意に高かった。この結果は,性,年齢層(60歳以上/未満),BMI(25 kg/m2以上/未満)ごとにみても同様であった。
収縮期血圧,性,年齢,BMI,CVD既往,総コレステロール,糖尿病,喫煙,習慣的な飲酒およびコホートで調整)

 全CVD死亡: 1.50(1.36-1.66),P<0.0001
  CHD死亡: 1.53(1.23-1.90),P<0.001
  心不全死亡: 1.39(1.09-1.76),P<0.01
  脳卒中死亡: 1.48(1.28-1.72),P<0.0001

◇ 降圧薬服用の有無ごとの血圧カテゴリーとCVD死亡リスク
降圧薬服用者と非服用者でそれぞれ,CVD死亡ならびにその内訳のリスクを6つの血圧カテゴリー間で比較した。その結果,降圧薬非服用者では,全CVD死亡,CHD死亡,心不全死亡,脳卒中死亡のいずれのリスクも血圧が高いカテゴリーほど直線的に増加していた(それぞれP for trend<0.0001,P for trend=0.0050,P for trend=0.011,P for trend<0.0001)。降圧薬服用者では,全CVD死亡,CHD死亡,心不全死亡のリスクが血圧に伴って直線的に増加していたが(それぞれP for trend=0.0003,P for trend=0.040,P for trend=0.033),脳卒中死亡については関連はみられなかった(P for trend=0.19)。
これらの結果は,性,年齢層,BMIごとにみても同様であった。

降圧薬服用者における血圧と脳卒中死亡リスクとの関連について,血圧の二次項(quadratic term)をモデルに加えた解析を行ったが,予測能の有意な改善はみられなかった。
また,ベースライン時にCVD既往を有していた3966人を除外した解析を行うと,死因を問わず,降圧薬非服用者では血圧が高いカテゴリーほど直線的にリスクが増加していたが(P for trend≦0.0039),服用者では関連はみられなかった(P≧0.10)。


◇ 結論
国内のコホート研究の個人データによるメタ解析の手法を用いて,血圧レベルと心血管疾患(CVD)死亡リスクならびにその内訳との関連について,降圧薬服用の有無ごとに検討を行った。その結果,ベースライン時の血圧レベルが同じであっても,降圧薬服用者では非服用者に比してCVD死亡リスクが高いことが示された。ただし,降圧薬服用者の血圧とリスクとの関連のしかたは死因(冠動脈疾患死亡,心不全死亡,脳卒中死亡)によって異なっていた。以上の結果は,高血圧治療中の患者におけるCVDの残存リスクにさらなる注意が必要であることを示唆するものであり,降圧薬服用がCVD死亡リスクを増加させることを示しているわけではない。


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