[2003年文献] 糖尿病有病者の心血管疾患死亡リスクは,地域にかかわらず非有病者の約2倍
アジア・太平洋地域における心血管疾患に対する糖尿病の影響について検討するため,APCSCの24の前向きコホート研究を対象にメタ解析を実施した。その結果,地域(アジア・オーストララシア)を問わず,糖尿病有病者では非有病者にくらべて心血管疾患死亡のリスクが約2倍になるだけでなく,非心血管疾患を含むさまざまな死因による死亡のリスクが高くなることが示された。
Woodward M, et al.; Asia Pacific Cohort Studies Collaboration. The effects of diabetes on the risks of major cardiovascular diseases and death in the Asia-Pacific region. Diabetes Care. 2003; 26: 360-6.
- コホート
- Asia Pacific Cohort Studies Collaboration(APCSC: アジア・太平洋地域の前向きコホート研究の個人データに基づくメタ解析)の参加コホートのうち,糖尿病および死亡年月日に関するデータに不備のない,24コホートの20歳以上の16万1214人(女性50%)。
追跡期間は5.4年間(中央値)。
ベースライン時に糖尿病既往を有している場合に「糖尿病」とした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
オーストララシア(オーストラリア,ニュージーランド)のコホートでは,アジアにくらべて収縮期血圧,総コレステロール,BMI,喫煙率が高かった。
ベースライン時の糖尿病有病率は3.0%で,地域,性別,年齢層ごとの値は以下のとおり。アジア,オーストララシアのいずれにおいても,糖尿病の人は年齢,血圧,BMIが高い傾向がみられた。
全体: 3.0%
アジア: 2.9%,オーストララシア: 3.2%。
男性: 3.2%,女性: 2.8%
60歳以下: 2.1%,61~74歳: 5.3%,75歳以上: 6.1%
脳卒中発症は747人,冠動脈疾患(CHD)発症は486人。
死亡は9277人で,年間粗死亡率は糖尿病有病者2.4%,非有病者1.1%だった。
死因の詳細は以下のとおりで,心血管疾患死亡のなかで多かったのはアジアでは脳卒中(42%),オーストララシアではCHD(59 %)だった。
心血管疾患死亡: 3635人
CHD死亡: 1,414人
脳血管疾患死亡: 1154人
非心血管疾患死亡: 4983人
死因不明: 659人
◇ 糖尿病とCHDリスク
年齢,性別,コホートで調整した糖尿病有病者のCHD死亡のハザード比(vs. 非有病者)は2.19(95%信頼区間1.81-2.66)で,アジアとオーストララシアに差はなかった。
男性(ハザード比2.03,1.60-2.59)と女性(2.54,1.84-3.49)にも差はみられなかった(P for interaction=0.27)。
また,年齢層ごとにみると,60歳以下ではハザード比4.38(2.63-7.31),75歳以上では1.57(1.14-2.16)と,年齢が高くなるほど糖尿病の影響は小さくなっていた(P for homogeneity=0.0003)。
糖尿病有病者のCHD死亡+非致死的心筋梗塞のハザード比(vs. 非有病者)は1.73(1.34-2.22)だった。
◇ 糖尿病と脳血管疾患リスク
年齢,性別,コホートで調整した糖尿病有病者の脳血管疾患死亡のハザード比(vs. 非有病者)は2.02(95%信頼区間1.57-2.59)で,アジアとオーストララシアに差はなかった。
男性(ハザード比2.04,1.46-2.84)と女性(2.00,1.37-2.92)にも差はみられなかった。
また,年齢が高くなるほどハザード比は小さくなっていた(P for homogeneity=0.008)。
糖尿病有病者の脳血管疾患死亡+非致死的脳卒中のハザード比(vs. 非有病者)は2.09(1.65-2.64)だった。
病型別にみると,虚血性脳卒中のハザード比は2.64(1.78-3.92),出血性脳卒中のハザード比は1.13(0.55-2.36)だった。
◇ 糖尿病とその他の心血管疾患死亡リスク
糖尿病有病者のその他の心血管疾患(CHD,脳血管疾患以外)死亡のハザード比(vs. 非有病者)は1.61(95%信頼区間1.22-2.13)で,アジアとオーストララシアに差はなかった。
男性と女性にも差はみられなかった。
また,年齢が高くなるほどハザード比は小さくなっていた(P for homogeneity<0.0001)。
◇ 糖尿病と非心血管疾患死亡リスク
糖尿病有病者の非心血管疾患死亡のハザード比(vs. 非有病者)は1.56(95%信頼区間1.38-1.77)だった。
◇ 結論
アジア・太平洋地域における心血管疾患に対する糖尿病の影響について検討するため,APCSCの24の前向きコホート研究を対象にメタ解析を実施した。その結果,地域(アジア・オーストララシア)を問わず,糖尿病有病者では非有病者にくらべて心血管疾患死亡のリスクが約2倍になるだけでなく,非心血管疾患を含むさまざまな死因による死亡のリスクが高くなることが示された。