[2004年文献] トリグリセリド高値は冠動脈疾患と脳卒中の独立した予測因子
トリグリセリドと心血管疾患リスクとの関連を検討するために,アジア・太平洋地域の26の前向きコホート研究のメタアナリシスを実施した。その結果,地域・コホートを問わず,トリグリセリド高値は冠動脈疾患および脳卒中の独立した予測因子であることが示された。
Patel A, et al.; Asia Pacific Cohort Studies Collaboration. Serum triglycerides as a risk factor for cardiovascular diseases in the Asia-Pacific region. Circulation. 2004; 110: 2678-86.
- コホート
- Asia Pacific Cohort Studies Collaboration(APCSC: アジア・太平洋地域の43の前向きコホート研究を対象に個人ベースのメタアナリシスを行っている)の参加コホートのうち,トリグリセリドのデータを有する26コホートの96224人(うち,アジアは22コホート77636人,オーストラリア+ニュージーランドは5コホート18588人)。
追跡期間の中央値は7.9年間(79万6671追跡人・年)。
ベースライン時の平均年齢は48.4歳で,女性は47.7%。
ベースラインのトリグリセリドにより,以下のように全体を五分位に分けて解析を行った。
Q1: ≦0.7 mmol/L,Q2: 0.8~1.0 mmol/L,Q3: 1.1~1.3 mmol/L,Q4: 1.4~1.8 mmol/L,Q5: ≧1.9 mmol/L - 結 果
- トリグリセリドの平均は,アジア128 mg/dL(1.45 mmol/L),オーストラリア+ニュージーランド(ANZ)127 mg/dL(1.44 mmol/L)だった。
また,男性では140 mg/dL(1.58 mmol/L)と,女性の116 mg/dL(1.31 mmol/L)よりも有意に高かった(P<0.001)。
トリグリセリドの五分位ごとに背景を比較すると,値が高いグループほど年齢,BMI,収縮期血圧,総コレステロール,総コレステロール/HDL-C比,空腹時血糖,喫煙率および糖尿病の割合が有意に高かった(すべてP<0.001)。HDL-Cはトリグリセリドと有意な負の関連を示した(P<0.001)。
追跡期間中に死亡したのは5137人で,このうち心血管疾患による死亡とされたのは1932人(38%)。
内訳をみると,脳卒中により死亡したのは667人(アジア577人,ANZ 90人),冠動脈疾患(CHD)により死亡したのは670人(アジア349人,ANZ 321人)だった。
脳卒中とCHDは,アジアの心血管疾患死亡のそれぞれ41%,25%を占めており,ANZでは17%,61%であった。
◇ トリグリセリドとCHDリスク
トリグリセリドは,致死的CHDの多変量調整ハザード比との連続した正の関連を示した(P<0.001)。
ベースラインのトリグリセリドがもっとも高いQ5では,Q1にくらべて致死的CHDリスクが+70%(95%信頼区間47-96%)と,有意に高かった。
非致死的イベントのデータを有している8コホート(発症は180人)を含めた解析でも結果は同様で,トリグリセリドは致死的+非致死的CHDリスクとの連続した正の関連を示した(P<0.01)。
対数変換したトリグリセリドの1 SD増加ごとに,致死的CHDのハザード比は1.33(95%信頼区間1.09-1.62),致死的+非致死的CHDのハザード比は1.56(1.20-2.03)と有意に増加した。
・ 層別化解析
地域ごとにみると,トリグリセリドと致死的CHDリスクとの関連はアジアよりANZで強い傾向がみとめられたが,有意な異質性はみとめられなかった(P for heterogeneity=0.09)。
また,年齢,性別,糖尿病の有無のいずれについても,有意な異質性はみられなかった。
◇ トリグリセリドと脳卒中リスク
トリグリセリドと致死的脳卒中の多変量調整ハザード比との有意な関連はみとめられなかった(P=0.14)。
ただし,非致死的イベントのデータを有している10コホート(発症は456人)を含めた解析では,トリグリセリドと致死的+非致死的脳卒中リスクとの正の対数-線形の関連がみられた(P=0.01)。
ベースラインのトリグリセリドがもっとも高いQ5では,Q1にくらべて致死的+非致死的脳卒中のハザード比が1.50(95%信頼区間1.29-1.76)と有意に増加していた。
・ 病型別の検討
致死的虚血性脳卒中についてはトリグリセリドとの有意な関連はみとめられなかったが(P=0.30),致死的+非致死的虚血性脳卒中リスクはトリグリセリドとの有意な正の関連を示していた(P=0.02)。
ベースラインのトリグリセリドがもっとも高かったQ5における致死的+非致死的虚血性脳卒中のハザード比は1.97(95%信頼区間1.52-2.55)。
対数変換したトリグリセリドの1 SD増加ごとに,致死的+非致死的虚血性脳卒中のハザード比は1.35(1.00-1.83)と有意に増加した。
一方,出血性脳卒中については,致死的,非致死的イベントを問わず,トリグリセリドとの関連はみられなかった(致死的出血性脳卒中: P=0.56,致死的+非致死的出血性脳卒中: P=0.26)。
◇ 感度分析
以上の結果について感度分析を行った結果,トリグリセリドと各心血管疾患リスクとの関連について,コホート間の有意な異質性はみとめられなかった。
◇ 結論
トリグリセリドと心血管疾患リスクとの関連を検討するために,アジア・太平洋地域の26の前向きコホート研究のメタアナリシスを実施した。その結果,地域・コホートを問わず,トリグリセリド高値は冠動脈疾患および脳卒中の独立した予測因子であることが示された。