[2005年文献] 主要な危険因子と心血管疾患発症リスクとの関連は,アジアとオーストララシアで同様
主要な6つの危険因子(収縮期血圧,総コレステロール,トリグリセリド,BMI,糖尿病,喫煙)が,心血管疾患の発症に対し,アジアおよびオーストララシアでそれぞれ同程度の効果をもつかどうかを検討するために,32の前向きコホート研究の約33万人を対象としたメタ解析を実施した。その結果,これらの危険因子と冠動脈疾患,出血性脳卒中および虚血性脳卒中との関連はアジアとオーストララシアとでほぼ同様・同程度であったが,血圧については,オーストララシアにくらべ,アジアで出血性脳卒中および冠動脈疾患とより強く関連していることが示された。以上より,これまでに欧米から報告されているこれらの既知の危険因子の管理の重要性は,アジア・太平洋地域でも何ら変わることはないと考えられる。
Woodward M, et al.; Asia Pacific Cohort Studies Collaboration. A comparison of the associations between risk factors and cardiovascular disease in Asia and Australasia. Eur J Cardiovasc Prev Rehabil. 2005; 12: 484-91.
- コホート
- Asia Pacific Cohort Studies Collaboration(APCSC: アジア・太平洋地域の44の前向きコホート研究を対象とした個人ベースのメタ解析)の参加コホートのうち,総コレステロール,BMI,喫煙のデータを有する33万1100人(32コホート)。
追跡期間は平均4年間。
女性は41%,アジア地域の人の割合は75%。 - 結 果
- ◇ 対象背景
オーストララシア(オーストラリア,ニュージーランド)とアジアにおける,6つの主要な危険因子の保有状況は以下のとおりで,オーストララシアでは血圧,血清脂質およびBMIが有意に高く,一方のアジアでは糖尿病有病率と喫煙率が有意に高かった。
収縮期血圧: オーストララシア132.1 mmHg,アジア123.9 mmHg(P<0.0001)
総コレステロール: 214 mg/dL,191 mg/dL(P<0.0001)
トリグリセリド: 109 mg/dL,106 mg/dL(P<0.0001)
BMI: 26.2 kg/m2,22.9 kg/m2(P<0.0001)
糖尿病: 3.3%,5.6%(P<0.0001)
喫煙率: 20.9%,36.0%(P<0.0001)
追跡期間中の心血管疾患発症状況は,致死的な冠動脈疾患(CHD)が2082件,致死的な出血性脳卒中が600件,致死的な虚血性脳卒中が420件であった。
◇ 心血管疾患発症リスクに対する各危険因子の影響
CHD,出血性脳卒中,虚血性脳卒中のそれぞれについて,6つの主要な危険因子(血圧+10 mmHg,総コレステロール+38.6 mg/dL,トリグリセリド+44.3 mg/dL,BMI+5 kg/m2,糖尿病あり[vs. なし],喫煙[vs. 非喫煙])による疾患発症の調整ハザード比をアジアとオーストララシアで比較した。
(1)CHD
各危険因子によるCHD発症の調整ハザード比は以下のとおりで,いずれの危険因子もCHD発症の有意かつ独立した予測因子であった。
有意な地域差はトリグリセリドについてのみみとめられた。ただし血圧とBMIについても,オーストララシアよりアジアで調整ハザード比が高い傾向がみられた。
収縮期血圧: オーストララシア1.23(1.18-1.27),アジア1.31(1.24-1.39)[P for homogeneity=0.06]
総コレステロール: 1.33(1.24-1.43),1.26(1.12-1.41)[P for homogeneity=0.43]
トリグリセリド: 1.66(1.33-2.07),1.19(0.97-1.46)[P for homogeneity=0.03]
BMI: 1.17(1.08-1.26),1.36(1.17-1.59)[P for homogeneity=0.09]
糖尿病: 1.80(1.49-2.17),1.84(1.36-2.49)[P for homogeneity=0.89]
喫煙: 1.87(1.67-2.10),1.84(1.51-2.25)[P for homogeneity=0.90]
(2)出血性脳卒中
各危険因子による出血性脳卒中発症の調整ハザード比は以下のとおりで,有意かつ独立した予測因子となったのは血圧,喫煙,および総コレステロール(総コレステロール値については出血性脳卒中発症リスクと負の関連)。
有意な地域差がみとめられたのは血圧のみで,オーストララシアよりアジアで調整ハザード比が高くなっていた。
収縮期血圧: オーストララシア1.49(1.31-1.70),アジア1.72(1.63-1.82)[P for homogeneity=0.04]
総コレステロール: 0.67(0.49-0.92),0.84(0.72-0.98)[P for homogeneity=0.21]
トリグリセリド: 0.49(0.17-1.44),1.15(0.88-1.51)[P for homogeneity=0.13]
BMI: 0.92(0.68-1.25),0.95(0.79-1.14)[P for homogeneity=0.87]
糖尿病: 1.06(0.46-2.45),1.52(1.02-2.25)[P for homogeneity=0.58]
喫煙: 1.77(1.09-2.88),1.15(0.94-1.42)[P for homogeneity=0.11]
(3)虚血性脳卒中
各危険因子による虚血性脳卒中発症の調整ハザード比は以下のとおりで,有意かつ独立した予測因子となったのは血圧,糖尿病および喫煙。総コレステロールについては,わずかに有意ではないものの,正の関連の傾向がみられた(P=0.06)。
いずれも有意な地域差はみとめられなかった。ただし血圧とBMIについては,CHDや出血性脳卒中と同様に,オーストララシアよりアジアで調整ハザード比が高い傾向がみられた。
収縮期血圧: オーストララシア1.36(1.17-1.57),アジア1.44(1.35-1.54)[P for homogeneity=0.46]
総コレステロール: 1.42(1.04-1.94),1.09(0.92-1.29)[P for homogeneity=0.15]
トリグリセリド: 0.45(0.11-1.77),1.09(0.77-1.54)[P for homogeneity=0.21]
BMI: 0.75(0.52-1.10),1.07(0.87-1.31)[P for homogeneity=0.11]
糖尿病: 1.82(0.77-4.34),2.27(1.43-3.61)[P for homogeneity=0.66]
喫煙: 1.00(0.52-1.95),1.61(1.24-2.08)[P for homogeneity=0.19]
◇ 結論
主要な6つの危険因子(収縮期血圧,総コレステロール,トリグリセリド,BMI,糖尿病,喫煙)が,心血管疾患の発症に対し,アジアおよびオーストララシアでそれぞれ同程度の効果をもつかどうかを検討するために,32の前向きコホート研究の約33万人を対象としたメタ解析を実施した。その結果,これらの危険因子と冠動脈疾患,出血性脳卒中および虚血性脳卒中との関連はアジアとオーストララシアとでほぼ同様・同程度であったが,血圧については,オーストララシアにくらべ,アジアで出血性脳卒中および冠動脈疾患とより強く関連していることが示された。以上より,これまでに欧米から報告されているこれらの既知の危険因子の管理の重要性は,アジア・太平洋地域でも何ら変わることはないと考えられる。