[2011年文献] アジア人では,LDL-Cやトリグリセリド高値を伴わない「単独低HDL-C血症」も冠動脈疾患発症リスクと関連
ほかの脂質異常症を伴わない「単独低HDL-C血症(isolated low HDL-C)」という病態がアジア人に多いかどうか,また冠動脈疾患や脳卒中の発症リスクと関連するかどうかについて,アジア・太平洋地域のコホート研究のメタアナリシスによる検討を行った。その結果,アジア人における単独HDL-C血症の頻度は非アジア人にくらべて高かった。また,アジア人では単独低HDL-C血症が冠動脈疾患発症リスクと有意に関連しており,その関連の強さはほかの脂質異常症を伴う低HDL-C血症と同程度であった。単独低HDL-C血症の人は,現在のガイドラインでは薬物治療の対象とはならないことから,アジアではこの病態に対し,禁煙や減量,運動の推進など,HDL-Cの増加につながるような保健施策が有益となる可能性がある。
Huxley RR, et al.; for the Asia Pacific Cohort Studies Collaboration and the Obesity in Asia Collaboration. Isolated Low Levels of High-Density Lipoprotein Cholesterol Are Associated With an Increased Risk of Coronary Heart Disease: An Individual Participant Data Meta-Analysis of 23 Studies in the Asia-Pacific Region. Circulation. 2011; 124: 2056-2064.
- コホート
- Asia Pacific Cohort Studies Collaboration(APCSC: アジア・太平洋地域の43の前向きコホート研究を対象に個人ベースのメタアナリシスを行っている)の参加コホートのうち,血清脂質のデータに不備のない23コホートの69145人,ならびにObesity in Asia Collaboration(OAC: アジア・太平洋地域の横断研究のデータを集め,肥満の各指標と心血管危険因子との関連を検討している)の参加コホートのうち,血清脂質のデータに不備のない13コホートの150915人。
アジア人の占める割合は,男性87%,女性86%であった。
低HDL-C血症の定義は男性<40 mg/dL,女性<50 mg/dLとし,以下の3つのカテゴリーに対象者を分類した。
HDL-C正常
単独低HDL-C血症(isolated low HDL-C): ほかの脂質異常症を伴わない,すなわちLDL-Cとトリグリセリドがともに正常の場合
低HDL-C血症: ほかの脂質異常症を伴う,すなわちLDL-C≧160 mg/dLまたはトリグリセリド≧200 mg/dLの場合 - 結 果
- ◇ 対象背景
アジア人および非アジア人(オーストラリアまたはニュージーランド)における,おもな脂質異常症の頻度(95%信頼区間)は以下のとおり。
アジア人では低HDL-C血症がもっとも多く(うち2/3が単独低HDL-C血症),高LDL-C血症や高トリグリセリド血症の頻度より高かった。
低HDL-C血症: アジア人33.1%(32.9-33.3),非アジア人27.0%(26.5-27.5),P<0.001
単独低HDL-C血症: 22.4%(22.2-22.5),14.5%(14.1-14.9),P<0.001
高LDL-C血症(≧160 mg/dL): 26.1%(25.6-26.6),13.4%(13.3-13.6)
高トリグリセリド血症(≧200 mg/dL): 12.6%(12.2-13.0),11.6%(11.5-11.8)
APCSCのコホートにおける追跡期間の中央値は6.8年(アジア人6.6年,非アジア人8.3年)。
追跡期間中の冠動脈疾患(CHD)の発症は574件(42%がアジア人),脳卒中の発症は739件(76%がアジア人)で,脳卒中のうち虚血性脳卒中の発症は253件,出血性脳卒中の発症186件であった。
◇ HDL-CとCHD発症リスク
HDL-CのカテゴリーごとにみたCHD発症の調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,低HDL-C血症におけるリスクは人種を問わず有意に高かったが,単独低HDL-C血症におけるリスクは,アジア人でのみ有意に高かった。
アジア人における単独低HDL-C血症とCHD発症リスクとの関連の強さは,低HDL-C血症のリスクと同等であった。
(†年齢,収縮期血圧,喫煙で調整)
[全体]HDL-C正常: 1.00(0.89-1.22),単独低HDL-C血症: 1.17(0.95-1.46),低HDL-C血症: 1.57(1.31-1.87)
[アジア人]1.00(0.82-1.22),1.67(1.27-2.19),1.63(1.24-2.15)
[非アジア人]1.00(0.87-1.15),0.79(0.54-1.15),1.54(1.22-1.94)
HDL-CとCHD発症リスクとの関連に対して,人種および性による有意な相互作用がみとめられたが(それぞれP for interaction=0.016,P for interaction=0.04),喫煙や飲酒による相互作用はみられなかった。
◇ HDL-Cと脳卒中発症リスク
HDL-Cのカテゴリーごとにみた脳卒中発症の調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,人種を問わず,有意な関連はみとめられなかったが,単独低HDL-C血症については正常に比して20%ほどリスクが低い傾向がみられた。
[全体]HDL-C正常: 1.00(0.90-1.11),単独低HDL-C血症: 0.81(0.67-1.00),低HDL-C血症: 0.95(0.78-1.17)
[アジア人]1.00(0.89-1.13),0.82(0.65-1.02),1.03(0.82-1.29)
[非アジア人]1.00(0.84-1.19),0.84(0.51-1.38),0.75(0.48-1.18)
HDL-Cと脳卒中発症リスクとの関連について層別解析を行った結果,有意な相互作用がみとめられた因子はなかった。
◇ 結論
ほかの脂質異常症を伴わない「単独低HDL-C血症(isolated low HDL-C)」という病態がアジア人に多いかどうか,また冠動脈疾患や脳卒中の発症リスクと関連するかどうかについて,アジア・太平洋地域のコホート研究のメタアナリシスによる検討を行った。その結果,アジア人における単独HDL-C血症の頻度は非アジア人にくらべて高かった。また,アジア人では単独低HDL-C血症が冠動脈疾患発症リスクと有意に関連しており,その関連の強さはほかの脂質異常症を伴う低HDL-C血症と同程度であった。単独低HDL-C血症の人は,現在のガイドラインでは薬物治療の対象とはならないことから,アジアではこの病態に対し,禁煙や減量,運動の推進など,HDL-Cの増加につながるような保健施策が有益となる可能性がある。