[2012年文献] 糖尿病と心血管疾患リスクの関連は,肥満の有無を問わず同程度
肥満の有無によって糖尿病と心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連が異なるかどうかを検討するために,痩せ型~標準体重の人の多いアジア人を含む31の前向きコホート研究の約16万人を対象としたメタ解析を実施した。その結果,糖尿病のCVD,虚血性脳卒中,出血性脳卒中,および冠動脈疾患発症リスクに対する有害な影響は,いずれも肥満者と非肥満者とでほぼ同程度であることが示された。この結果は,年齢層や性別,地域ごとに行った層別化解析でも同様であった。以上より,肥満の人と非肥満の人とで糖尿病管理・予防対策を区別する必要はないことが示唆される。
Murakami Y, et al.; Asia Pacific Cohort Studies Collaboration. Diabetes, body mass index and the excess risk of coronary heart disease, ischemic and hemorrhagic stroke in the Asia Pacific Cohort Studies Collaboration. Prev Med. 2012; 54: 38-41.
- コホート
- Asia Pacific Cohort Studies Collaboration(APCSC: アジア・太平洋地域の44の前向きコホート研究を対象とした個人ベースのメタ解析)の参加コホートのうち,糖尿病罹患状況,BMI,喫煙状況のデータを有する30歳以上の16万1161人(31コホート)。
平均追跡期間は8年間(129万4663人・年)。
女性は46%,アジア人の割合は46%。
BMIについては,WHO Asia基準による以下のカテゴリーを用いた。
低体重: 12.0 kg/m2以上18.5 kg/m2未満
正常: 18.5 kg/m2以上23.0 kg/m2未満
正常高値: 23.0 kg/m2以上25.0 kg/m2未満
過体重: 25.0 kg/m2以上30.0 kg/m2未満
肥満: 30.0 kg/m2以上60.0 kg/m2未満
糖尿病の罹患状況については,経口糖負荷試験を実施していた1研究を除き,自己申告された既往歴により判断した。 - 結 果
- ◇ 対象背景
BMIの平均は25 kg/m2で,糖尿病の有病率は4%。
アジアにおけるBMIカテゴリーごとの糖尿病有病率は,低体重の人で2%。正常では2%,正常高値では3%,過体重では5%,肥満では10%で,オーストラリア・ニュージーランドではそれぞれ1%,2%,3%,5%,8%であった。
追跡期間中の心血管疾患(CVD)発症は6366件(アジア42%,女性36%,致死性は80%)で,このうち761件が虚血性脳卒中(53%,39%,41%),603件が出血性脳卒中(73%,38%,81%),2714件が冠動脈疾患(CHD)(22%,30%,78%)。
◇ 糖尿病とCVDリスクに対するBMIの影響
すべてのBMIカテゴリーにおいて,糖尿病の人のCVD,虚血性脳卒中,出血性脳卒中およびCHD発症リスクはそれぞれ非糖尿病の人の約2倍であり,いずれもBMIによる有意な相互作用はみとめられなかった。
各BMIカテゴリーにおける,糖尿病の人のCVD発症の調整ハザード比(vs. 非糖尿病,年齢,収縮期血圧および喫煙状況により調整)は以下のとおり。
・CVD(P for interaction=0.19)
全体: 1.83(95%信頼区間1.66-2.01)
低体重: 1.09(0.55-2.15)
正常: 1.74(1.40-2.17)
正常高値: 2.18(1.76-2.70)
過体重: 1.82(1.58-2.10)
肥満: 1.66(1.36-2.04)
・虚血性脳卒中(P for interaction=0.97)
全体: 2.09(1.61-2.70)
低体重: 2.81(0.67-11.73)
正常: 2.11(1.19-3.73)
正常高値: 1.72(0.89-3.29)
過体重: 2.06(1.40-3.03)
肥満: 2.14(1.21-3.79)
・出血性脳卒中(P for interaction=0.98)
全体: 1.45(0.97-2.17)
低体重: 2.47(0.34-18.04)
正常: 1.49(0.65-3.40)
正常高値: 1.25(0.50-3.09)
過体重: 1.57(0.84-2.94)
肥満: 1.57(0.54-4.52)
・CHD(P for interaction=0.33)
全体: 1.89(1.65-2.16)
低体重: 2.11(0.74-6.02)
正常: 1.85(1.29-2.64)
正常高値: 2.49(1.83-3.40)
過体重: 1.66(1.35-2.04)
肥満: 1.78(1.35-2.34)
糖尿病とCVD発症リスクに対するBMIの影響について,年齢層(65歳未満/以上),性別,地域(アジア/オーストラリア・ニュージーランド)による層別化解析を実施したが,性別を除き,有意な相互作用がみとめられたものはなかった(P≧0.14)。女性では,BMIが正常高値の人において,糖尿病によるCVD発症リスクがとくに高くなっていた(P for interaction=0.04)。
◇ 結論
肥満の有無によって糖尿病と心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連が異なるかどうかを検討するために,痩せ型~標準体重の人の多いアジア人を含む31の前向きコホート研究の約16万人を対象としたメタ解析を実施した。その結果,糖尿病のCVD,虚血性脳卒中,出血性脳卒中,および冠動脈疾患発症リスクに対する有害な影響は,いずれも肥満者と非肥満者とでほぼ同程度であることが示された。この結果は,年齢層や性別,地域ごとに行った層別化解析でも同様であった。以上より,肥満の人と非肥満の人とで糖尿病管理・予防対策を区別する必要はないことが示唆される。