[2012年文献] BMIにかかわらず,血圧は心血管疾患,冠動脈疾患,虚血性脳卒中,出血性脳卒中の発症リスクと直線的に関連
肥満は血圧と心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連を弱めるという報告があるが,CVDに対するBMIと血圧の相互作用について,これまでに一貫した結果は得られておらず,さらに脳卒中病型別の検討は行われていない。そこで,BMIと収縮期血圧の組み合わせと心血管疾患ならびにその内訳(冠動脈疾患[CHD],虚血性脳卒中,出血性脳卒中)との関連を検討するために,アジア・太平洋地域の39の前向きコホート研究の約42万人のメタ解析を実施した。その結果,BMIにかかわらず,SBPの増加(>120 mmHg)はCVD,CHD,虚血性脳卒中,出血性脳卒中のいずれの発症リスクとも直線的に関連していた。CVDとCHDについては,BMIが相対的に高い人では血圧と発症リスクとの関連が弱まる傾向がみとめられたが,BMIカテゴリー間でみられた血圧増加によるリスクの違いは大きくはなく,この結果をもとに既存のガイドラインを変更する必要はないと考えられる。
Tsukinoki R, et al.; on behalf of the Asia Pacific Cohort Studies Collaboration. Does Body Mass Index Impact on the Relationship Between Systolic Blood Pressure and Cardiovascular Disease?: Meta-Analysis of 419 488 Individuals From the Asia Pacific Cohort Studies Collaboration. Stroke. 2012;
- コホート
- Asia Pacific Cohort Studies Collaboration(APCSC: アジア・太平洋地域の44の前向きコホート研究を対象に個人ベースのメタアナリシスを行っている)の参加コホートのうち,収縮期血圧ならびにBMIのデータを有し,BMIが極端な値(<12 kg/m2または>60 kg/m2)ではない,30歳超の41万9488人(39コホート)。
平均追跡期間は6.2年間(261万9241人・年)。
女性は41%,アジア人の割合は78%。
BMIについては,WHO基準による以下のカテゴリー,ならびに五分位によるカテゴリーを用いた。
低体重: 12.0 kg/m2以上18.5 kg/m2未満
正常: 18.5 kg/m2以上23.0 kg/m2未満
正常高値: 23.0 kg/m2以上25.0 kg/m2未満
過体重: 25.0 kg/m2以上30.0 kg/m2未満
肥満: 30.0 kg/m2以上60.0 kg/m2以下
各BMIカテゴリーにおける収縮期血圧については,以下のカテゴリーを用いた解析,ならびに連続変数として扱った解析を行った。
120 mmHg未満
120 mmHg以上140 mmHg未満
140 mmHg以上160 mmHg未満
160 mmHg以上 - 結 果
- ◇ 対象背景
各コホートにおけるベースライン時の収縮期血圧(SBP)の平均は120.3~157.1 mmHgで,BMIの平均は21.5~26.9 kg/m2であった。
SBPとBMIのいずれも,オーストラリア・ニュージーランドのほうがアジアにくらべ高値であった。
追跡期間中の心血管疾患(CVD)発症は10877件(アジア59%,女性34%,致死性は71%)で,このうち7010件が脳卒中(虚血性脳卒中1993件,出血性脳卒中1508件,未分類3509件),3867件が冠動脈疾患(CHD)。
◇ SBPとCVDリスクに対するBMIの影響
すべてのBMIカテゴリーにおいて,SBPが高いカテゴリーほどCVD発症の調整ハザード比が直線的に高くなっていた。
各BMIカテゴリーにおける,SBP 10 mmHg増加あたりのCVD発症の調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおり。肥満の人ほどSBP増加によるCVD発症リスクの増加幅が少なく,BMIと血圧の有意な相互作用がみとめられた(P for interaction<0.001)。この結果は,五分位によるBMIカテゴリーを用いた解析でも同様であった。
(†年齢および喫煙状況で調整し,コホートおよび性で層別)
全体: 1.34(1.32-1.36)
低体重: 1.30(1.23-1.37)
正常: 1.35(1.32-1.38)
正常高値: 1.36(1.33-1.39)
過体重: 1.29(1.26-1.32)
肥満: 1.28(1.20-1.36)
SBP<120 mmHgかつ体重が正常の人に比した,SBP≧160 mmHgかつ肥満の人のCVD発症リスクは4倍以上であった(調整ハザード比4.4,95%信頼区間3.9-5.1)。
◇ SBPとCHDリスクに対するBMIの影響
すべてのBMIカテゴリーにおいて,SBPが高いカテゴリーほどCHD発症の調整ハザード比が直線的に高くなっていた。
各BMIカテゴリーにおける,SBP 10 mmHg増加あたりのCHD発症の調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおり。肥満の人ほどSBP増加によるCHD発症リスクの増加幅が少なく,BMIと血圧の有意な相互作用がみとめられた(P for interaction=0.01)。この結果は,五分位によるBMIカテゴリーを用いた解析でも同様であった。
全体: 1.24(1.21-1.27)
低体重: 1.24(1.09-1.41)
正常: 1.27(1.22-1.32)
正常高値: 1.21(1.125-1.27)
過体重: 1.17(1.12-1.22)
肥満: 1.31(1.21-1.42)
SBP<120 mmHgかつ体重が正常の人に比した,SBP≧160 mmHgかつ肥満の人のCHD発症リスクは約4倍であった(調整ハザード比4.1,95%信頼区間3.3-5.1)。
◇ SBPと虚血性脳卒中リスクに対するBMIの影響
すべてのBMIカテゴリーにおいて,SBPが高いカテゴリーほど虚血性脳卒中発症の調整ハザード比が直線的に高くなっていた。
各BMIカテゴリーにおける,SBP 10 mmHg増加あたりの虚血性脳卒中発症の調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,カテゴリー間で一貫した関連がみられた。肥満の人では関連が弱くなっていたが(P for interaction=0.03),これは,このカテゴリーにおける発症数が少ないことの影響と考えられ,五分位によるBMIカテゴリーを用いると有意な相互作用はみられなかった(P for interaction=0.24)。
全体: 1.46(1.41-1.51)
低体重: 1.40(1.22-1.61)
正常: 1.43(1.36-1.50)
正常高値: 1.45(1.37-1.54)
過体重: 1.41(1.33-1.49)
肥満: 1.32(1.12-1.55)
SBP<120 mmHgかつ体重が正常の人に比した,SBP≧160 mmHgかつ肥満の人の虚血性脳卒中発症リスクは6倍近くであった(調整ハザード比5.9,95%信頼区間4.2-8.3)。
◇ SBPと出血性脳卒中リスクに対するBMIの影響
すべてのBMIカテゴリーにおいて,SBPが高いカテゴリーほど出血性脳卒中発症の調整ハザード比が直線的かつ顕著に高くなっていた。
各BMIカテゴリーにおける,SBP 10 mmHg増加あたりの出血性脳卒中発症の調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,カテゴリー間で一貫した関連がみられ,肥満による相互作用はみとめられなかった(P for interaction=0.18)。この結果は,五分位によるBMIカテゴリーを用いた解析でも同様であった。
全体: 1.65(1.59-1.71)
低体重: 1.83(1.61-2.08)
正常: 1.60(1.53-1.67)
正常高値: 1.62(1.52-1.73)
過体重: 1.64(1.54-1.75)
肥満: 1.55(1.29-1.86)
SBP<120 mmHgかつ体重が正常の人に比した,SBP≧160 mmHgかつ肥満の人の出血性脳卒中発症リスクは7倍以上であった(調整ハザード比7.5,95%信頼区間5.0-11.2)。
◇ 結論
肥満は血圧と心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連を弱めるという報告があるが,CVDに対するBMIと血圧の相互作用について,これまでに一貫した結果は得られておらず,さらに脳卒中病型別の検討は行われていない。そこで,BMIと収縮期血圧の組み合わせと心血管疾患ならびにその内訳(冠動脈疾患[CHD],虚血性脳卒中,出血性脳卒中)との関連を検討するために,アジア・太平洋地域の39の前向きコホート研究の約42万人のメタ解析を実施した。その結果,BMIにかかわらず,SBPの増加(>120 mmHg)はCVD,CHD,虚血性脳卒中,出血性脳卒中のいずれの発症リスクとも直線的に関連していた。CVDとCHDについては,BMIが相対的に高い人では血圧と発症リスクとの関連が弱まる傾向がみとめられたが,BMIカテゴリー間でみられた血圧増加によるリスクの違いは大きくはなく,この結果をもとに既存のガイドラインを変更する必要はないと考えられる。