[2012年文献] 前高血圧,拡張期高血圧,収縮期高血圧,収縮期・拡張期高血圧は,いずれも心血管疾患発症リスクと関連
前高血圧と高血圧ならびにその各病型(拡張期高血圧,収縮期高血圧,収縮期・拡張期高血圧)と心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連を検討するために,アジア・太平洋地域の36の前向きコホート研究のメタアナリシスを実施した。その結果,前高血圧,高血圧ならびにその各病型は,いずれもCVD,冠動脈疾患,虚血性脳卒中,出血性脳卒中の発症リスクと有意に関連していた。各血圧カテゴリーとCVD発症リスクとの関連は,性別,年齢層,地域によるサブグループのすべてでみとめられたが,その関連の強さは年齢層と地域によって異なっていた。
Arima H, et al.; on behalf of the Asia Pacific Cohort Studies Collaboration. Effects of Prehypertension and Hypertension Subtype on Cardiovascular Disease in the Asia-Pacific Region. Hypertension. 2012; 59: 1118-1123.
- コホート
- Asia Pacific Cohort Studies Collaboration(APCSC: アジア・太平洋地域の前向きコホート研究の個人データに基づくメタ解析)の参加コホートのうち,喫煙状況ならびに総コレステロール値のデータに不備のない36コホートの,30~90歳の34万6570人。
平均追跡期間は7年間。
ベースライン時の平均年齢は48歳で,女性は41%,アジアからの登録の割合は78%。
血圧の各カテゴリーの定義は以下のとおり。
正常血圧: 収縮期血圧(SBP)<120 mmHgかつ拡張期血圧(DBP)<80 mmHg
前高血圧: SBP 120~139 mmHgかつ/またはDBP 80~89 mmHg
拡張期前高血圧: SBP<120 mmHgかつDBP 80~89 mmHg
収縮期前高血圧: SBP 120~139 mmHgかつDBP<80 mmHg
収縮期・拡張期前高血圧: SBP 120~139 mmHgかつDBP 80~89 mmHg
拡張期高血圧(isolated diastolic hypertension,IDH): SBP<140 mmHgかつDBP≧90 mmHg
収縮期高血圧(isolated systolic hypertension,ISH): SBP≧140 mmHgかつDBP<90 mmHg
収縮期・拡張期高血圧(systolic-diastolic hypertension,SDH): SBP≧140 mmHgかつDBP≧90 mmHg - 結 果
- 対象者のうち正常血圧は38%,前高血圧は38%,拡張期高血圧(IDH)は6%,収縮期高血圧(ISH)は8%,収縮期・拡張期高血圧(SDH)は11%であった。
◇ 高血圧の各病型と心血管疾患(CVD)発症リスク
心血管疾患を発症したのは8598人(2.5%)。うち冠動脈疾患が3270人(0.9%),虚血性脳卒中が1503人(0.4%),出血性脳卒中が1015人(0.3%)であった。
血圧のカテゴリーごとのCVD発症の調整ハザード比*(vs. 正常血圧)は以下のとおりで,どのカテゴリーでも心血管疾患発症リスクとの有意な関連がみとめられ,ハザード比は前高血圧,IDH,ISH,SDHの順に高くなっていた(*年齢,総コレステロール,喫煙で調整)。
前高血圧: 1.41(95%信頼区間1.31-1.53,P<0.0001 vs. 正常血圧)
IDH: 1.81(1.61-2.04,P<0.0001 vs. 前高血圧)
ISH: 2.18(2.00-2.37,P=0.0013 vs. IDH)
SDH: 3.42(3.17-3.70,P<0.0001 vs. ISH)
以上の結果は,CVDを非致死的CVDと致死的CVDに分けた解析でも同様であった。
さらに前高血圧の人を拡張期前高血圧,収縮期前高血圧,収縮期・拡張期前高血圧の3つに分けると,CVD発症の調整ハザード比*はそれぞれ1.08(0.91-1.29),1.42(1.30-1.56),1.47(1.34-1.61)であった。
血圧のカテゴリーごとの虚血性脳卒中,出血性脳卒中,冠動脈疾患の発症の調整ハザード比*は以下のとおりで,いずれについても各血圧カテゴリーとの有意な関連がみられ,CVDと同様に前高血圧,IDH,ISH,SDHの順にハザード比が高くなっていた。冠動脈疾患については,脳卒中にくらべて血圧との関連が弱く,脳卒中については虚血性よりも出血性脳卒中のほうが血圧との関連が強かった。
・虚血性脳卒中
前高血圧: 1.60(1.33-1.92,P<0.0001 vs. 正常血圧)
IDH: 1.81(1.37-2.39,P<0.0001 vs. 前高血圧)
ISH: 2.86(2.34-3.50,P=0.0008 vs. IDH)
SDH: 3.99(3.32-4.80,P<0.0001 vs. ISH)
・出血性脳卒中
前高血圧: 2.17(1.69-2.79,P<0.0001 vs. 正常血圧)
IDH: 3.07(2.19-4.30,P<0.0001 vs. 前高血圧)
ISH: 4.04(3.02-4.30,P=0.09 vs. IDH)
SDH: 9.26(7.25-11.82,P<0.0001 vs. ISH)
・冠動脈疾患
前高血圧: 1.31(1.14-1.50,P<0.0001 vs. 正常血圧)
IDH: 1.74(1.43-2.12,P<0.0001 vs. 前高血圧)
ISH: 1.76(1.54-2.01,P=0.95 vs. IDH)
SDH: 2.47(2.16-2.82,P<0.0001 vs. ISH)
◇ 降圧薬服用の有無を考慮した解析
降圧薬服用に関するデータが得られているのは12万1051人で,このうち服用者は1万8231人であった。
正常血圧(降圧薬非服用)に比したCVD発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。
前高血圧(降圧薬非服用): 1.25(1.10-1.42)
IDH(降圧薬非服用): 1.53(1.19-1.95)
ISH(降圧薬非服用): 1.62(1.43-1.85)
SDH(降圧薬非服用): 2.41(2.10-2.75)
降圧薬服用者: 2.77(2.43-3.16)
◇ サブグループによる層別化解析
・性別
前高血圧,高血圧ならびにその各病型とCVD発症リスクとの関連は,性別を問わず同様にみとめられた(P for homogeneity=0.16)。
・年齢層(65歳未満/以上)
前高血圧,高血圧ならびにその各病型とCVD発症リスクとの関連は,65歳以上にくらべ,65歳未満の若年者で強かった(P for homogeneity<0.001)。65歳以上の前高血圧者,ならびにIDHでは,有意なCVD発症リスクの増加はみとめられなかった。この結果は,冠動脈疾患(P for homogeneity=0.04),虚血性脳卒中(P for homogeneity<0.001),出血性脳卒中(P for homogeneity=0.002)についても同様であった。
・地域
前高血圧,高血圧ならびにその各病型とCVD発症リスクとの関連は,オーストラリア・ニュージーランドにくらべ,アジアで強かった(P for homogeneity<0.001)。この結果は,冠動脈疾患(P for homogeneity=0.02),虚血性脳卒中(P for homogeneity=0.02),出血性脳卒中(P for homogeneity=0.002)についても同様であった。
◇ 結論
前高血圧と高血圧ならびにその各病型(拡張期高血圧,収縮期高血圧,収縮期・拡張期高血圧)と心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連を検討するために,アジア・太平洋地域の36の前向きコホート研究のメタアナリシスを実施した。その結果,前高血圧,高血圧ならびにその各病型は,いずれもCVD,冠動脈疾患,虚血性脳卒中,出血性脳卒中の発症リスクと有意に関連していた。各血圧カテゴリーとCVD発症リスクとの関連は,性別,年齢層,地域によるサブグループのすべてでみとめられたが,その関連の強さは年齢層と地域によって異なっていた。