[2016年文献] BMIはトリグリセリドと冠動脈疾患発症リスクとの関連に影響するが,総コレステロールならびにHDL-Cとの関連には影響しない
血清脂質と冠動脈疾患(CHD)発症リスクとの関連に対するBMIの影響を検討したはじめての研究。アジア・太平洋地域の前向きコホート研究のメタ解析を実施した結果,CHD発症リスクは,総コレステロールが高いほど高く,HDL-Cが高いほど低かったが,これらの関連はBMIとは独立したものだった。一方,トリグリセリドが高いほどCHD発症リスクが高く,この関連は,BMIが高くなるほどさらに強くなった。トリグリセリドとCHD発症リスクとの関連は,HDL-Cと総コレステロールによる調整後も,過体重と肥満のカテゴリーでは有意であった。
Hirakawa Y, et al.; Asia Pacific Cohort Studies Collaboration. The impact of body mass index on the associations of lipids with the risk of coronary heart disease in the Asia Pacific region. Prev Med Rep. 2016; 3: 79-82.
- コホート
- Asia Pacific Cohort Studies Collaboration(APCSC: アジア・太平洋地域の44の前向きコホート研究を対象とした個人ベースのメタ解析)の参加コホートのうち,BMIと喫煙状況のデータ,ならびに総コレステロールのデータがある333297人(34コホート),HDL-Cのデータがある71777人(25コホート),トリグリセリドのデータがある84015人(26コホート)(いずれも20歳以上)。
BMIが12 kg/m2未満または60 kg/m2以上の人は除外した。
平均追跡期間は,総コレステロールのデータがあるコホートで6.7年間,HDL-Cのデータがあるコホートで7.2年間,トリグリセリドのデータがあるコホートで8.3年間。
BMIについては,WHO Asia基準に基づく以下のカテゴリーを用いた。
[低体重]12.0 kg/m2以上18.5 kg/m2未満,[正常]18.5 kg/m2以上23.0 kg/m2未満,[正常高値]23.0 kg/m2以上25.0 kg/m2未満,[過体重]25.0 kg/m2以上30.0 kg/m2未満,[肥満]30.0 kg/m2以上60.0 kg/m2未満
総コレステロール,HDL-C,ならびにトリグリセリドについては,以下のそれぞれのカテゴリーを用いて,BMIの5カテゴリーとあわせて20通りの組み合わせの解析を行った(正常体重,かつ3つの脂質がもっとも低いカテゴリーの人を対照とした)。
・総コレステロール
169.8 mg/dL未満,169.8 mg/dL以上193.0 mg/dL未満,193.0 mg/dL以上223.9 mg/dL未満,223.9 mg/dL以上
・HDL-C
42.5 mg/dL未満,42.5 mg/dL以上54.0 mg/dL未満,54.0 mg/dL以上61.8 mg/dL未満,61.8 mg/dL以上
・トリグリセリド
79.7 mg/dL未満,79.7 mg/dL以上106.2 mg/dL未満,106.2 mg/dL以上150.5 mg/dL未満,150.5 mg/dL以上 - 結 果
- ◇ 対象背景
各コホートにおける平均年齢は47~49歳,女性は約半数,アジア人は70%,平均BMIは21.5~26.9 kg/m2,平均総コレステロールは158.3~227.7 mg/dL,平均HDL-Cは34.7~61.8 mg/dL,トリグリセリド中央値は62.0~132.8 mg/dLであった。
◇ 総コレステロールと冠動脈疾患(CHD)発症リスクの関連に対するBMIの影響
すべてのBMIのカテゴリーにおいて,総コレステロールがもっとも低いカテゴリーに比べて,もっとも高いカテゴリーで,CHD発症リスクが高かった。
また,BMIのカテゴリーにおける,総コレステロール1 SD増加あたりのCHD発症の調整†ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり(†コホートと性別で層別化し,年齢と喫煙で調整)。
BMIは総コレステロールとCHDリスクの関連に影響しなかった(P for trend=0.42)。
全体: 1.23(1.20-1.27)
低体重: 1.25(1.06-1.47)
正常: 1.25(1.18-1.32)
正常高値: 1.27(1.19-1.35)
過体重: 1.22(1.16-1.27)
肥満: 1.20(1.10-1.30)
◇ HDL-CとCHD発症リスクとの関連に対するBMIの影響
低体重と肥満以外のBMIのカテゴリーでは,HDL-Cが高いほどCHD発症リスクが低かった。
また,BMIのカテゴリーにおける,HDL-Cの1 SD増加あたりのCHD発症の調整†ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。
BMIはHDL-CとCHD発症リスクの関連に影響しなかった(P for trend=0.95)。
全体: 0.82(0.75-0.89)
低体重: 0.95(0.67-1.37)
正常: 0.81(0.70-0.95)
正常高値: 0.74(0.62-0.90)
過体重: 0.86(0.74-0.99)
肥満: 0.80(0.62-1.04)
◇ トリグリセリドとCHD発症リスクとの関連に対するBMIの影響
トリグリセリドが高いほどCHD発症リスクが高く,その関連はBMIのカテゴリーが上がるにつれて強まった(P for trend=0.01)。
また,BMIのカテゴリーにおける,トリグリセリド1 SD増加あたりのCHD発症の調整†ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。
全体: 1.33(1.24-1.43)
低体重: 1.07(0.72-1.59)
正常: 1.26(1.10-1.44)
正常高値: 1.27(1.08-1.49)
過体重: 1.37(1.22-1.55)
肥満: 1.61(1.30-1.99)
さらに,総コレステロールとHDL-Cで調整すると,トリグリセリドとCHD発症リスクとの関連に対するBMIの影響は全体では減弱したが(P for interaction=0.07),過体重と肥満のカテゴリーでは有意な関連が維持された。
◇ 結論
血清脂質と冠動脈疾患(CHD)発症リスクとの関連に対するBMIの影響を検討したはじめての研究。アジア・太平洋地域の前向きコホート研究のメタ解析を実施した結果,CHD発症リスクは,総コレステロールが高いほど高く,HDL-Cが高いほど低かったが,これらの関連はBMIとは独立したものだった。一方,トリグリセリドが高いほどCHD発症リスクが高く,この関連は,BMIが高くなるほどさらに強くなった。トリグリセリドとCHD発症リスクとの関連は,HDL-Cと総コレステロールによる調整後も,過体重と肥満のカテゴリーでは有意であった。