[学会報告・日本高血圧学会2011] シンポジウム「日本におけるポピュレーションサイエンス—到達点と課題—」

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座長


2011年10月20日(木)~22日(土),第34回日本高血圧学会総会が宇都宮で開催された。

ここでは,10月22日(土)に行われたシンポジウム4 「日本におけるポピュレーションサイエンス―到達点と課題―」(座長: 九州大学・清原裕氏,滋賀医科大学・三浦克之氏)の内容を紹介する。


■ 目 次 ■  * タイトルをクリックすると,各項目にジャンプします
1. 非至適領域血圧の循環器疾患リスクとその管理のためのポピュレーションアプローチ
岡村 智教氏 岡村 智教 氏 (慶應義塾大学医学部 衛生学公衆衛生学)
2. 生活習慣と血圧の関連・介入効果のエビデンス: 減塩(節塩)に着目して
佐々木 敏氏 佐々木 敏 氏 (東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 社会予防疫学分野)
3. 高血圧と国民健康づくり対策について
野田 広氏 野田 広 氏 (厚生労働省 健康局総務課 生活習慣病対策室)
4. 新しいツールを用いた高血圧管理への展望
上島 弘嗣 氏 上島 弘嗣 氏 (滋賀医科大学 生活習慣病予防センター)

1. 非至適領域血圧の循環器疾患リスクとその管理のためのポピュレーションアプローチ

岡村 智教氏 発表者:
岡村 智教 氏 (慶應義塾大学医学部 衛生学公衆衛生学)

 「至適血圧と高血圧のあいだ」では,循環器疾患のリスクはそれほど高くないが人数が多いため,ハイリスクアプローチというよりはポピュレーションアプローチの考え方が重要になる。今後,血圧だけでなく他の危険因子も考慮した総合的なリスク管理が求められるが,いまだ日本人のエビデンスは十分ではなく,さらに研究を進めていく必要がある。

1. わが国の循環器疾患と高血圧の推移
わが国の脳卒中の年齢調整死亡率の推移をみると,1960年前後から急激な低下がみられ,なかでも脳出血死亡率の低下が顕著である。このおもな理由として,日本人の血圧値が,性別をとわず全年齢層で低下したことが挙げられる。

2. 高血圧と循環器疾患 —コホート研究の知見から—
高血圧が循環器疾患のもっとも重要な危険因子であるということは,世界中で普遍的に観察されている。国内の多くのコホート研究からも,以下のように多くのエビデンスが示されている。

 ・ 血圧と循環器疾患死亡リスク
NIPPON DATA80において,年齢層(30~64歳/65~74歳/75歳以上)ごとに血圧区分と循環器疾患死亡との関連を検討した結果,どの年齢層においても,血圧が高いカテゴリーほど相対リスクが高くなることが示されている(抄録を読む)。
 ・ 血圧と総死亡リスク
国内の13のコホート研究のデータを統合した大規模コホート共同研究EPOCH JAPANにおいても,年齢層(40~49歳/50~59歳/60~69歳/70~79歳/80~89歳)をとわず,収縮期血圧カテゴリーと総死亡率が関連することが示された。年齢が低いほど,血圧と死亡率との関連は顕著であった(抄録を読む)。
 ・ 家庭血圧のリスク予測能
大迫研究において,診察室で測定した随時血圧値よりも家庭で測定した朝の血圧値のほうが,全脳卒中および脳梗塞の発症リスクの予測能が高いことが示されている(抄録を読む)。また,仮面高血圧者の脳卒中発症リスクが持続性正常血圧者より有意に高いことが示され,このような高リスク者を発見するためには家庭血圧測定を行う必要があることがわかってきた。

3. 高血圧と至適血圧のあいだのリスク
重度の高血圧(収縮期血圧≧180 mmHg)を有する人の割合は大きく減少してきた。一方,「至適血圧より少し高い」人については,循環器疾患リスクはそれほど高くないものの,集団に占める割合が大きいため,どのように血圧を管理していくかが課題となっている。

 ・ 正常血圧,正常高値血圧と脳卒中発症リスク
吹田研究において,『ESC-ESH2007高血圧管理ガイドライン』の基準による正常血圧および正常高値血圧の男性では,至適血圧に比して脳卒中発症リスクが有意に高いことが示されている。この結果から各血圧カテゴリーにおける循環器疾患発症の人口寄与危険度割合を算出すると,男性では,正常血圧+正常高値血圧だけでも循環器疾患発症が20.5%増えていることになる(抄録を読む)。したがって,正常血圧や正常高値血圧の人に対し,まずは生活習慣の改善によるコントロールを行うことが必要と考えられる。
 ・ ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチ
高血圧の人に対しては,生活習慣改善支援および適切な服薬治療を行い,個々人のリスクを低下させるようなアプローチを行う必要がある(ハイリスクアプローチ)。一方,「至適血圧と高血圧のあいだ」の人に対しては,減塩の推進,運動施設の整備,外食メニューの改善,情報の提供といった働きかけを行い,全員のリスクを少しずつ低くすることで全体のリスクの分布を低いほうにシフトさせるようなアプローチが必要である(ポピュレーションアプローチ)。

4. 循環器疾患予防のための総合的なリスク管理
現在,血圧や脂質値といった単独の危険因子の影響だけを評価するのではなく,その他の危険因子も含めた包括的なリスク管理を行うことが求められている。そのためには,複数の危険因子の組み合わせによるリスクを考慮しなければならない。

 ・ 高血圧と耐糖能異常
吹田研究において,空腹時血糖による耐糖能異常区分(正常耐糖能/空腹時血糖高値/糖尿病)ごとに血圧と循環器疾患発症リスクとの関連をみた。その結果,正常耐糖能や空腹時血糖高値の人では血圧が高いほどリスクが高くなっている一方で,糖尿病の人では血圧値にかかわらずリスクが高くなっていることが示された(抄録を読む)。
 ・ 喫煙とメタボリックシンドローム(MetS)
吹田研究において,性別ごとに喫煙およびメタボリックシンドローム(MetS)の有無ごとに循環器疾患発症の人口寄与危険度割合を算出した。その結果,男性では喫煙率が高いことから,喫煙+MetSのみならず,喫煙+非MetSについても循環器疾患発症への影響が大きかった。一方,女性では,喫煙+MetS群の循環器疾患発症リスクが著しく高かったものの,喫煙率が低いことからその人口寄与危険度割合はあまり大きくはなかった(抄録を読む)。このように,ある危険因子が集団においてどのように分布しているかによって,その疾患発症に対する影響も変わってくると考えられる。
 ・ ガイドラインにおけるリスク層別化による評価
日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2009』では,複数の危険因子の保有状況による層別化を行ってリスクを評価している。他の学会でも同様の試みが行われており,おそらく選定される危険因子はある程度共通したものになると考えられるが,今後は,集団における各危険因子の頻度や分布も考慮したうえで,資源をどこに投入するべきであるかを考えなくてはならない。また,複数の危険因子の評価のためには従来よりも大規模なコホートでの検討が求められることから,大規模共同研究やメタ解析研究などを引き続き進めていく必要がある。

- 結論 -
・ 日本人においても,性別や年齢をとわず,少なくとも至適血圧レベルまでは“the lower, the better”が適用されるといえる。
・ 「至適血圧と高血圧のあいだ」の人は,循環器疾患のリスクはそれほど高くないが,人数が多い。このため,ハイリスクアプローチというよりはポピュレーションアプローチの考え方が重要になる。
・ 家庭血圧測定は,仮面高血圧のスクリーニングにも必須であるなど,循環器疾患発症リスク予測のためにきわめて重要である。減塩運動とあわせて家庭での血圧測定を推進することが必要である。
・ 高血圧だけでなく他の危険因子も考慮した総合的なリスク管理が求められているが,いまだ日本人のエビデンスは十分ではなく,さらに研究を進めていく必要がある。

2. 生活習慣と血圧の関連・介入効果のエビデンス: 減塩(節塩)に着目して

佐々木 敏氏 発表者:
佐々木 敏 氏 (東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 社会予防疫学分野)

 日本人の食事の「食塩濃度」はあまり変わっていない。短期的な治療の発想ではなく,長期にわたる予防という発想のもと,個人へのアプローチと社会へのアプローチの両方を効果的に使うべきである。

— 日本人の食塩摂取量の推移 —
国民栄養調査および国民健康栄養調査のデータによると,1970~1990年代の食塩摂取量は1日平均12~14 g程度で推移し,最近は約11gまで低下した。ただし,食塩摂取量をその時点でのエネルギー摂取量の平均で割った,いわば「食塩濃度」(g/1000 kcal)の値はあまり低下しておらず,日本人の食事が薄味になってきているわけではないようである。

現在,示されている食塩摂取量目標としては
・ 日本高血圧学会: 1日6 g未満
・ 厚生労働省の食事摂取基準: 男性1日9 g未満,女性1日7.5 g未満
などがあるが,精度の高い秤量式食事記録法(16日間)により男女190人の食事内容の解析を行った結果,食塩摂取量6 g/日未満の人はおらず,また,厚生労働省の食事摂取基準を満たす人も数人であった。目標値と実態がかけ離れているのが現状と考えられる。

— 個人へのアプローチ —
秋田県の40~69歳の健康な一般住民448人を対象に,食事調査結果に基づく短時間(20分程度)の食事指導の効果を検討する介入試験を行った結果,2.2 gの減塩により収縮期血圧2.5 mmHgの降圧効果が得られた。拡張期血圧には変化はみられなかった(J Hypertens. 2006; 24: 451-8. pubmed)。
この介入試験では,食事調査に自記式食事歴法質問票(DHQ: self-administered diet history questionnaire)を用い,個人に適した減塩方法による指導を行った点が特徴である。たとえばある人では,平均的な日本人の推定値にくらべて調味料由来および魚介類由来の塩分摂取量が多いことがわかった。この結果から,みそ汁の摂取,食卓での調味料の使用,干物や塩蔵品の摂取について見直すよう指導するなどの具体的なアプローチが可能になる。

このように,個人の課題を明らかにし,科学的かつ効率的に減塩指導を行うためのポイントは,「人は自分の結果に興味をもつ」ということ,ならびに「人は自分の食塩摂取量を知らない」ということである。

— 社会へのアプローチ —
・ ポピュレーションアプローチの考え方
1980年代,飛行機の中や食堂における塩振り容器の穴の大きさと食塩使用量との関連を検討する研究が行われた。この結果,穴の大きさと食塩使用量は比例しており,穴が大きければ大きいほど人は塩をふりかけてしまう,すなわち,穴を小さくすれば不平不満なく使用量を減らせるのではないかと考えられた(Nature. 1983; 301: 331-2. pubmed)。このようなポピュレーションアプローチの考え方は近年,世界的にも注目されている。

・ 栄養成分表示への取り組み
現在,加工食品につけられる栄養成分表示では,エネルギー,蛋白質,脂質,炭水化物,ナトリウムの量の表示がそれぞれ必須とされているが,ナトリウムの表示順はこのなかで5番目であり,食塩相当量は欄外表示となっている。
消費者庁の2011年8月の栄養成分表示検討委員会報告書では,減塩の重要性を鑑み,ナトリウムの表示順を2番目に上げることを提言しており,表示の義務化についても言及している。ただし,このような変更に伴う経費を誰が負担するかが問題になるとともに,日本人がこのような表示をうまく活用できるかどうかも含めた検討が必要と考えられる。

— まとめ —
・ 介入試験の結果,減塩教育による有意な血圧低下が観察された。
・ 減塩指導にあたっては,短期的な治療の発想ではなく,長期にわたる予防の発想が必要である。また,個人へのアプローチと社会へのアプローチの両方を効果的に使うべきである。

3. 高血圧と国民健康づくり対策について(健康日本21 最終評価から)

野田 広氏 発表者:
野田 広 氏 (厚生労働省健康局 生活習慣病対策室)

 健康日本21における最終評価で,血圧関連の項目にはA~Eの5段階中の「D(悪化した)」や,「B(目標値に達していないが改善傾向にある)」が多かった。今後,さらなる減塩政策,児童期からのよりよい食習慣の啓発,若い世代へのアプローチ,肥満対策,健診受診率改善などが必要と考えられる。

— 健康日本21における血圧関連の項目の最終評価結果 —
2011年10月13日,「健康日本21」(21世紀における国民健康づくり運動)の最終評価が発表された(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001r5gc.html)。 全80項目のうち,血圧に関する評価および統計値は以下のとおりであった。

◇ 血圧
・ 目標: 平均最大血圧を4.2mmHg低下させること
・ 最終評価: 5段階(A~E)のB(目標値に達していないが改善傾向にある)
15歳以上の男性の平均収縮期血圧は,1998年132.7 mmHg,2004年131.5 mmHg,2009年131.7 mmHgで,有意な変化はみられなかったが,女性ではそれぞれ126.2 mmHg,125.0 mmHg,123.3 mmHgと,有意な低下がみとめられた(P<0.001)。高血圧有病率(年齢調整)は,男性で1998年51.1%,2004年47.5%,2009年47.8%,女性ではそれぞれ41.4%,36.3%,33.6%であった。

◇ 食塩摂取量
・ 目標: 成人の食塩摂取量10 g未満
・ 最終評価: B(目標値に達していないが改善傾向にある)
成人の食塩摂取量は,1997年13.5 g,2004年11.2 g,2009年10.7 gと有意に減少した(P<0.001)。食塩の供給源は「調味料」が約7割を占めていた。個人の努力のみでは限界があることから,さらなる減塩のためには食品の成分表示などの企業努力も必要と考えられた。なお,カリウム摂取量(目標: 成人の摂取量3.5 g以上)の最終評価はD(悪化している)であった。

◇ 肥満
・ 目標: 20~60代男性の肥満者15%以下,40~60歳代女性の肥満者20%以下など
・ 最終評価: C(変わらない)
20~60歳代男性における肥満者の割合は,1997~2009年にかけて有意に増加した。とくに,10年前との比較を行うと30代の男性について,肥満者の割合が10年前にくらべて大きく増加しており,20~30歳代に対するアプローチが必要と考えられた。

◇ 朝食欠食率
・ 目標: 20歳代の男性の朝食欠食率15%以下,30歳代の男性の朝食欠食率15%以下など
・ 最終評価: D(悪化した)
朝食欠食率は,1997~2009年にかけ,20歳代男性では変化しなかったが,30歳代男性では有意に増加した。朝食欠食が始まった時期については,男性の3割以上が高校生以下からと回答した。

◇ アルコール摂取
2003~2008年にかけての飲酒者の割合の変化は,男性で85.3%→83.1%,女性で60.9%→61.8%であった。多量飲酒者(ふだんの飲酒日の平均飲酒量が60g以上)の割合は,男性で12.7%→12.0%,女性で3.7%→3.1%であった。

◇ 運動習慣
・ 目標: 男性9200歩以上,女性8300歩以上
・ 最終評価: D(悪化している)
1997~2009年にかけて,日常生活における歩数は,男性で8202歩→7243歩,女性で7282歩→6431歩と,いずれも低下した。WHOは,身体不活動を高血圧,喫煙,高血糖に次ぐ危険因子と位置付けている。個人啓発のみではなく,環境改善や社会支援強化が必要と考えられた。

◇ 脳卒中死亡率
10万人あたりの脳卒中死亡率は,1998年110.0人,2004年102.3人,2009年97.2人と低下した。これは男女別にみても同様であった。今後は,死亡率というよりは発症率や発症率推移,要介護者数に着目する必要がある。

◇ 虚血性心疾患死亡率
10万人あたりの虚血性心疾患死亡率は,1998年57.2人,2004年56.5人,2009年59.9人であった。

— 今後の課題 —
健康日本21最終評価報告書では,今後の課題を以下のようにまとめている。
・ 栄養・食生活: 子供の頃からの望ましい食習慣,食塩摂取量のいっそうの減少,栄養成分表示や市販食品の減塩,20~30歳代の人への行動変容へのアプローチ,カリウム摂取低下傾向の改善
・ 健診受診率の向上および肥満対策(とくに男性)
・ 循環器疾患罹患率のモニタリング

4. 新しいツールを用いた高血圧管理への展望

上島 弘嗣氏 発表者:
上島 弘嗣 氏 (滋賀医科大学 生活習慣病予防センター)

個人の生活習慣改善を支援するツールとして,コンピュータ支援システム「ウェルネスリンク」が開発された。このシステムを用いることにより,主体的な参加という特長を活かして個人が新しい形で生活習慣改善に取り組むことや,疫学的なデータの収集・解析を通し,これまでにない知見が得られることが期待される。

— 背景と目的 —
高血圧患者には生活習慣の改善が求められるが,望ましい生活習慣の長期的な維持は容易ではない。保健指導には限界もあることから,新たな支援システムが求められているといえる。
そこで,個人の主体的な生活習慣改善を支援するツールとして,コンピュータ支援システム「ウェルネスリンク」が開発された(http://www.wellnesslink.jp/,運営: オムロン)。今回はその試みの実際と今後の展望について紹介する。

— 支援システムの概要 —
個人がウェルネスリンクに登録すると,血圧,体重,歩数などの測定データを継続的に入力できるようになる(対応機器からはデータの自動転送も可能)。
登録者自身へのメリットとして,
 ・ 測定値の日間変動や月間変動を示すグラフが簡単に作成できる
 ・ 健康づくりのための情報提供
 ・ インターネット上で参加し,会員同士で成果を競い合うイベントの開催(減塩,節酒,禁煙など)
などが挙げられる。
また,2012年1月現在で10万人を超えた全国の会員のデータを集計・分析できることから,これを疫学研究のデータとして活用することも可能である。

— 集計データの中間報告 —
まだ人数や会員の分布などの点で信頼性が十分とはいえないが,ウェルネスリンク会員の集計データから得られた結果の一部を紹介する。このようなデータを会員に提供することで,個々人の血圧値や体重に関する自覚を促し,適切なコントロールにつなげることが期待される。

◇ 血圧,体重の季節変動(集計期間: 2010年11月~2011年8月)
血圧の平均値の季節変動をみると,性別,および収縮期・拡張期血圧をとわず1月にピークとなっており,「血圧はお正月に高くなる」という予想通りの結果であった。夏の血圧は低かった。
また,関東・中部・近畿・九州地方の男性を対象に平均体重の季節変動をみると,いずれも秋から年末年始にかけて増加していた。

◇ にっぽん血圧マップ・にっぽん体重マップ(集計期間: 2011年10月4~10日)
各都道府県の平均収縮期血圧値と平均BMI値により,日本地図を色分けした「にっぽん血圧マップ」「にっぽん体重マップ」を作成した。平均収縮期血圧値は北海道や東北で高い傾向がみられた。一方,平均BMI値は四国および九州・沖縄地方で高い傾向がみられた。
このマップはウェルネスリンクのホームページ上で随時更新される。今後,集計対象の人数が増加すれば,年齢調整などの統計処理を行うことでより信頼性の高いデータが得られると考えられる。

◇ 個人の血圧変動
1時間ごとに測定した血圧値のデータを有するある40代男性会員と70代男性会員について,個人の日内変動をみたところ,モーニングサージや,朝食後の服薬の影響と考えられる血圧低下が観察できた。また,ある40代男性会員の収縮期血圧値の1週間の変動をみると,月曜日がもっとも高くなっていた。
体重の増減と血圧値の変化の相関についてみたところ,ある40代男性会員(服薬あり)では,体重約8 kgの低下とともに収縮期血圧値が約40 mmHg低下しており,別の30代男性会員(服薬あり)では,逆に体重約2 kgの増加とともに収縮期血圧値が約10 mmHg高くなっていた。

— 考察とまとめ —
コンピュータ支援システム「ウェルネスリンク」を用いることには,以下のようなメリットがあると考えられた。
・ 個人の主体的な参加による生活習慣改善が可能
・ 自分のデータと会員全体のデータを比較することが,生活習慣改善の動機付けに役立つ

また今後,対象人数が増加することにより,信頼度の高いデータが得られることが期待される。ウェルネスリンクのデータは,研究者が主導してきた既存の研究とは異なり,対象者の主体的な参加により得られる疫学データであることから,これまでにない新しい知見がもたらされる可能性もある。天気予報のように,寒波による血圧上昇から脳卒中リスクを予測する「脳卒中注意報」を出すなど,得られたデータを活かした新しい血圧管理ツールへと発展させていきたいと考えている。




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