[2007年文献] 65~73歳の高齢者でテロメア長が1kb短縮したものは,7年間の心筋梗塞,脳卒中の発症リスクが3倍に上昇(Cardiovascular Health Study)
Fitzpatrick AL, et al: Leukocyte telomere length and cardiovascular disease in the cardiovascular health study. Am J Epidemiol. 2007; 165: 14-21.
- 目的
- 加齢とともに短縮するテロメア長は,本態性高血圧,糖尿病,インスリン抵抗性,肥満,アテローム性動脈硬化症,脳血管性認知症などと関連することが断面調査において示されている。
テロメア長と心血管疾患の危険因子およびその後の心血管疾患との関連をコホート調査により検証する。 - コホート
- 65歳以上において心血管疾患の危険因子の経過を観察するために1989年,アメリカで開始されたCardiovascular Health Study(CHS)研究。
1989~1990年(ベースライン時)に5201人を登録し,1992~1993年にアフリカ系アメリカ人コホート687人を追加登録。ベースライン時から1998~1999年まで毎年検診を実施。
本解析は1992~1993年の検診を終了し血液サンプルより白血球DNAを抽出した1230例のうち,ランダムに選択した419人が対象。
追跡期間は2002年6月までの7年以上で,転帰に拠った(狭心症:平均7.4年,末梢動脈疾患:平均7.9年)。
◆対象背景:平均年齢74.2歳,女性247人(58.9%),白人81.9%,冠動脈疾患(CHD)既往19.8%,耐糖能障害(IFG)9.4%,糖尿病18.3%,正常血圧40.8%,境界型高血圧13.3%,高血圧45.9%,喫煙歴41.7%,現喫煙例10.7%。
男性:74.4歳,白人83.7%,CHD既往25.0%,IFG 9.7%,糖尿病19.4%,正常血圧46.7%,境界型高血圧16.0%,高血圧37.3%,喫煙歴55.3%,現喫煙例13.5%。
女性:74.0歳,白人80.6%,CHD既往16.2%*,IFG 9.2%,糖尿病17.5%,正常血圧36.6%*,境界型高血圧11.5%,高血圧51.9%,喫煙歴32.2%,現喫煙例8.7%。* p<0.05 vs 男性
検査項目
Bモード超音波(総頸動脈および内頸動脈内膜-中膜肥厚),ドプラー法(足関節/上腕血圧比),空腹時インスリン値,血糖値,C反応性蛋白(CRP),インターロイキン-6など。
テロメア長は末梢動脈白血球細胞のterminal restriction fragment(末端制限酵素断片:TRF)長とし,サザンブロット法で測定した。 - 結 果
- ・TRF長は5.1~8.6 kilobase pairs (kb)で平均6.3kb(男性6.2kb,女性6.4kb;p<0.05),中央値6.32kb。73歳以下は6.4kb,74歳以上は6.2kb(p<0.001)。
年齢とTFR長には有意な逆相関が認められ,1歳の加齢ごとにTRF長が0.031kb短縮した
(調整前の線形回帰係数=-0.031,標準誤差=0.006,p<0.001,線形R二乗値=0.068)。
・TRF長と有意な相関が認められたのは,糖尿病(p=0.03),空腹時インスリン値(p=0.009),インターロイキン6(p=0.03),CRP(p=0.02)。いずれも,テロメア長が長いほど良好であった。
また,過体重(男性:BMI≧27kg/m2,女性BMI≧25 kg/m2)とCRPは,性別と年齢によってテロメア長との関連に差異が認められ,いずれも男性,73歳以下では有意な関連があるのに対し,女性,74歳以上では関連はみられなかった。
・156例が死亡,心筋梗塞(MI)36例,脳卒中42例,狭心症52例,末梢動脈疾患22例。
73歳以下を年齢,性,人種で調整すると,TRF長が1kb短縮した場合のMIのハザード比(HR)は3.08(95%信頼区間1.22-7.73),脳卒中のHRは3.22(1.29-8.02)であった。しかし,この関連は74歳以上では認められなかった。
死亡率のHRは1.22(0.91-1.63)で,TRF長との有意な関連は認められなかったが,調整前は有意な関連がみられた。狭心症,末梢動脈疾患の発症は,年齢による層別にかかわらずTRF長との関連は認められなかった。
テロメアとは染色体末端にある特殊な繰り返し配列のこと(ヒトの場合はTTAGGGの繰り返し)で,通常の細胞は分裂のたびにテロメアが短縮し,やがて死に至ることから,テロメア長は老化に深い関連があるとされている。また,テロメアには染色体の安定性を維持する役割があることも知られている。
DNA抽出組織として白血球を用いたのは,CHS研究で血液サンプルがストックされていたためである。テロメア長の短縮の進行度は組織によって異なるものの,ある程度同調しているものと考えられている。つまり,個体間で相対的なテロメア長を比較したとき,ある臓器のテロメア長の長い個体では,その他の臓器でも長い。このため本研究の著者らは,今回検討した白血球のテロメア長は,その他の臓器のテロメア長を反映していると推察している(磯)。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康