[2007年文献] 食後インスリンが高い肥満者では,低GL食のほうが低脂肪食より減量効果が大きかった(アメリカ人73人)
Ebbeling CB, et al: Effects of a low-glycemic load vs low-fat diet in obese young adults: a randomized trial. JAMA. 2007; 297: 2092-102.
- 目的
- 肥満が増加の一途をたどるなか,低脂肪食,低炭水化物食,低GI(glycemic index *)食などの特別食に注目が集まっている。こうした特別食に関する臨床試験の結果にはばらつきがあって統一見解が得られていないが,GIが高い食べ物を摂取するとインスリンの血中濃度が上昇することが知られており,インスリン濃度のより大きな上昇は肥満につながる可能性がある。そこで,肥満の若者において,低脂肪食と低GI食がインスリンの分泌,体重,体脂肪に与える効果を比較した。
* GI: 基準となる食品(ブドウ糖または白パン)と同量の炭水化物を摂取した後の血糖反応曲線下面積を比で表したもの。 - コホート
- 新聞広告,インターネット広告,ラジオ広告およびちらしの配布により参加者を募り,以下の基準すべてを満たす73人(男性15人,女性58人)を対象者とした。
18~35歳,BMI 30 kg/m2以上,かかりつけ医による参加許可。
除外基準: 体重140 kg以上,喫煙者,最近のダイエット,糖尿病既往,その他の主要な疾患既往,臨床検査値異常(血中尿酸,クレアチニン,アラニンアミノ基転移酵素,ヘマトクリットなど),および試験結果に影響を与えうる薬の服用。
対象者は以下のように,低GL(glycemic load **)食群および低脂肪食群に無作為割付された。介入期間は6か月,観察期間は12か月(2004年9月~2006年12月)。
・ 低GL(高脂肪)食群: 36人
面接により,低GL食品(非でんぷん質の野菜,豆,適度の果物など)を積極的にとり,高GL食品(精製穀物,でんぷん質の野菜,果物ジュース,菓子類)を避けるよう指導を受けた。摂取エネルギーに占める主要栄養素摂取の目安は,炭水化物(低GL中心) 40 %,脂肪 35 %,蛋白質 25 %。
・ 低脂肪(高GL)食群: 37人
面接により,低脂肪食品(低脂肪穀物,野菜,果物,豆)を積極的にとり,菓子類やスナック類など余分な脂肪分を避けるよう指導を受けた。摂取エネルギーに占める主要栄養素摂取の目安は,炭水化物 55 %,脂肪 20 %,蛋白質 25 %。
また,食後インスリン値が結果の修飾因子となるかどうかを調べるため,経口ブドウ糖負荷試験時にブドウ糖投与から30分後の血中インスリン値を測定し,中央値の57.5 microIU/mLを超えた者を食後インスリン高値群,57.5 microIU/mL以下の者を食後インスリン低値群とした。
ベースライン,6か月,12か月,18か月時に,食事と運動の状況をたずねる電話インタビュー(事前予告なし)を3回ずつ行った。
結果の評価は,体重,体脂肪率(二重エネルギーX線吸収法)などにより行った。
** GLの計算は以下のように行った。まず,各自が答えた食事内容をもとに,2002年の換算表(Am J Clin Nutr. 2002 Jul; 76(1): 5-56)から各食品のGI(glycemic index)および炭水化物量を調べた。次にその炭水化物量が1日の炭水化物摂取総量に占める割合を算出し,GIとの積をその食品の「加重GI」とした。1日に摂取したすべての食品の加重GIを足し合わせて「1日合計GI」とし,1日合計GIと1日あたりの炭水化物の摂取量(g)との積を算出し,総摂取エネルギーにより調整した値を「GL」とした(単位: g/1000 kcal)。
◆ ベースライン時背景
低GL食群と低脂肪食群で有意に異なっていたのは血中LDL-C(それぞれ102 mg/dL vs. 126 mg/dL,P=0.005)のみで,年齢,体重,体脂肪率,体幹脂肪,血糖値などでは有意差はなかった。
また,食後インスリン高値群と低値群との間で有意な差を示したのは体幹脂肪(それぞれ22.2 kg vs. 19.3 kg,P=0.04),および空腹時インスリン(13.8 microIU/mL vs. 7.4 microIU/mL,P<0.001)だった。 - 結 果
- ◇ 各栄養素の摂取状況の変化
・ 低GL食群
低GL食群の18か月後の1日合計GIおよび炭水化物の摂取量は,介入開始前に比べて減少した。その結果,18か月後のGLも-19.8 g/1000 kcalと有意に減少した(P<0.001,vs. 介入開始前)。
全脂肪が総摂取エネルギーに占める割合は,介入開始前に比べ3.0 %増加した(P=0.02)が,飽和脂肪酸に限ると有意な変化はなかった。
・ 低脂肪食群
低脂肪食群において,全脂肪が総摂取エネルギーに占める割合は18か月間で10.8 %減少し(P<0.001),飽和脂肪酸が総摂取エネルギーに占める割合も4.5 %減少した(P<0.001)。
低脂肪食群の18か月間のGIは減少傾向にあったが,炭水化物の摂取量が増加したことにより,18か月後のGLは有意に増加した(+5.0 g/1000 kcal,P=0.05, vs. 介入開始前)。
◇ 体重・体脂肪率の変化
低GL食群と低脂肪食群の間で,18か月間の体重変化に有意差は見られなかった。
食後インスリン高値群のみで見ると,低GL食群では最初の6か月の体重減少速度が低脂肪食群よりも有意に大きく(それぞれ-1.0 kg / 1か月 vs. -0.4 kg / 1か月,P<0.001),18か月間の体重減少幅も低脂肪食群より有意に大きかった(-5.8 kg vs. -1.2 kg,P=0.004)。
一方,食後インスリン低値群のみで見ると,両群間の体重変化に有意な差は見られなかった。
食後インスリン高値群のみで見ると,低GL食群では,18か月間の体脂肪率減少幅が低脂肪食群より有意に大きかった(それぞれ-2.6 % vs. -0.9 %,P=0.03)。
一方,食後インスリン低値群のみで見ると,両群間の体脂肪率変化に有意差は見られなかった。
◇ 心血管疾患関連因子の変化
低GL食群と低脂肪食群で6か月後に有意差が見られた因子は以下のとおり。
LDL-C: 低GL食群 -5.8 mg/dL,低脂肪食群 -16.3 mg/dL(P=0.03)
HDL-C: 低GL食群 +1.6 mg/dL,低脂肪食群 -4.4 mg/dL(P=0.002)
トリグリセリド*** : 低GL食群 -21.2 %,低脂肪食群 -4.0 %(P=0.02)
*** トリグリセリドの変化率については,分布を正規化するために実測値(mg/dL)の対数を用い,その変化幅を次の式にあてはめて算出した: [exp(変化幅)-1]×100(単位: %)。
同様に,低GL食群と低脂肪食群で18か月後に有意な差が見られた因子は以下のとおり。
LDL-C: 低GL食群 -0.3 mg/dL,低脂肪食群 -10.6 mg/dL(P=0.03)
HDL-C: 低GL食群 -3.7 mg/dL,低脂肪食群 -8.2 mg/dL(P=0.03)
トリグリセリドでは6か月後に有意な差が見られたが,18か月後には有意な差は見られなかった。血圧,空腹時血糖および空腹時インスリンでは有意な差は見られなかった。
◇結論
食後の血中インスリンが高い肥満者では低GL食のほうが低脂肪食より減量効果および体脂肪減少効果が大きく,食後インスリンが低い肥満者では食事による差がないことがわかった。また低GL食群では,インスリン値にかかわらず介入期間中のHDL-Cの改善が見られた。この研究では,厳密に統一された食事管理ではなく,自主的な食事内容の改善を促す指導や低GL食リストを通しての介入を行った点が特徴であり,臨床現場での体重管理の参考になると考えられる。
監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康